第112話
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【本文】
「うわーぉ…………」
オーガの群れの生き残りを倒した後、広間の様子を調べているが……自分でやったことながらこの破壊痕には引いてしまう。
サッカーコートが余裕で入る広間に、入口から斜めに100メートル近い轍の様なラインが引かれている。
幅は1メートル程で、深さは20センチと言ったところか?
徐々に威力は減衰していったようで、その跡は壁の近くでは3分の1程になっているが……壁には抉れた跡と崩れ落ちた破片が積もっている。
「……これ気を付けないと本当に人を巻き込むな」
振り返って入口の方を見てみると、壁に空いた穴から通路が見えるが、着弾跡を見てみると高さは3メートル程の所にある。
ホップアップする様な代物じゃ無いし、発射時に俺が振り回された結果ずれてしまったんだろう。
そしてそのライン上にいたであろうオーガ達は核もろとも撃ち抜かれたのか、俺が処理するまでも無く死体は残っていなかった。
生き残っていたオーガ達の数はちょうど10体だった。
大抵20体弱で群れを作っている事を考えると、さっきの一発だけで10体近くを倒した事になる。
壁に削られ威力は減ってもオーガを一撃で倒すこの威力。
コントロール出来る様にならないと危なっかしいことこの上ない。
まだまだオーガの群れが巣くっている広間はたくさんある。
魔物達にとっては災難な事かもしれないが、もうちょっと実戦で試射を重ねる必要がありそうだな……!
うへへ……。
◇
ゼルキス領都のダンジョン中層は、半ば辺りから所謂強化種といった、通常よりも強い個体が出始めるそうだが、手前は通路で繋がった複数の広間で構成されている。
極まれにオオカミが混ざる事もあるが、基本的に20体弱のオーガの群れが現れる。
構成はどこもほぼ一緒で、数体の投石組と後方に控える本隊だ。
「はっ!」
通路出口から投げつけてくる石を全て避け切り、投石組の最後の一体の首を刎ね飛ばした。
奥に控える本隊の数は12体。
やや少なめだが、その分群れのボスを中心に一つに固まっている。
数が多いと群れから更に三つか四つに分かれているが、これは好都合だ。
このオーガの群れはおもしろいもので、投石組も同じ群れのはずなのに、独立して動いている。
本隊はどこかが襲われると互いに庇いあったりするが、投石組は壊滅するまで放置されているいわば捨て駒。
その為そちらを先に片づけてしまいさえすれば、じっくりと狙いをつける事が出来る。
【ダンレムの糸】を構えている俺を見て一応警戒してはいるものの、仕掛けてくる気配はない。
「照準よーし!」
弓を引き絞り、ターゲットを射線上に合わせる。
気持ちターゲットの左側を狙うのが確実に命中させるコツだ。
狙いは群れのボスとその前後にいる3体で、合計4体だ。
一度にまとめて倒す事だけを考えるともっと巻き込めるラインはあるが、何組かと戦ってみたのだが結局ボスを最初に確実に倒すのが一番効率がいいとわかった。
ボスと数、どちらを選んでも全滅させることは可能だが、折角なのでボスを先に仕留めてから群れの残党を刈り取る訓練だ!
普通の矢と違い、【ダンレムの糸】の矢は放った後も帯のように伸びて、少しの間手元に残るが、その際に威力に押され少し右斜め上に弓本体が回転してしまう。
それが狙いが少しずれてしまう原因なんだろう。
アレクの様に自分の筋力だけで扱えるのなら何とかなるんだろうが、こればかりは宙に浮いている俺には無理だ。
引っ張られてしまうのを無理に押さえ込もうとしても、より不規則にずれてしまう。
だから……。
「ほっ!」
一声出して右足を弦から離すと光の矢が放たれた。
唸りを上げながら的に向かって直進しているが、弓がその威力に負け右に回ろうとした。
「ふっ!」
弓に当ててある左足と上端を掴む両手で高さだけはずれないように調整する。
変な構え方だから横軸は無理でも縦軸だけなら俺でも調整可能だ。
「よしよし……」
元々ターゲットの少し左側を狙っている。
それが右にずれる事で、いい具合にその前後を巻き込みながら直撃した。
一瞬でボスを含む数体がやられた事でオーガ達は動揺している。
こうなってしまえば後はもう、ただの作業だ。
「行くぞ。アカメ、シロジタ」
駄目押しをするべく背中から傘を抜き、ヘビ達に号令を出しながら群れ目がけて突進した。
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【本文】
【ダンレムの糸】……まともに扱うにはフィジカルが必要とされる、このピーキーなアイテムの俺に最も適した使い方を模索していたが、それも何とか形が見えてきた。
長距離から当たり判定の大きい高威力で回避の難しい超高速攻撃が可能な事から、ついつい纏めて倒そうとしていたが、
なにも無理に【ダンレムの糸】で魔物を倒す事にこだわる必要は無かった。
まずはボス……あるいは強個体を安全な場所から先制で仕留めて、後はいつも通り丁寧に刈り取っていけばいい。
もしかしたらこのアイテムの真価を発揮できていないもったいない使い方なのかもしれないが、群れの統制を乱し、より安全に戦う事が出来る、グッドな戦法だ。
さて……途中【隠れ家】で休憩をしたものの、朝からずっとダンジョンで狩りを続けていたが、そろそろいい時間なはずだ。
戦い方に目処はついた。
今日一日でどれだけのオーガを倒したかわからないし、聖貨も久々の大量ゲットだ。
初日の成果としては十分すぎるだろう。
今日はこの位にして、帰還するか。
◇
「む……新しいのが湧いたか……」
今日の狩りは念の為中層入り口近くの広間を行ったり来たりしていた。
そして今、帰還する為にその入り口を目指していたのだが、そこの手前の広間に新しいオーガの群れが湧いていた。
無視して一気に突破してもいいが、ここさえ抜ければ後はダンジョン出口まで宙を進んでノンストップで行けてしまう。
魔物にとってはとことん災難だが、これも何かの縁。
今日のラストバトルと行こうじゃないか!
「ふっ!」
【祈り】を上書きし、通路から広間の様子を探ると、中のオーガ達はいつも通りの変わらぬ配置。
「よし……行くぞー!」
【浮き玉】を加速し通路を突っ切っていくと、ある程度近づいたところで投石が開始される。
以前は破片から身を守るためにこの段階で傘を使っていたが、【浮き玉】の高速移動に慣れてきた事もあり、一発ずつ躱しさえすれば……。
「はっ!たっ!」
通路を一気に抜け、まずは片側の一体の首を刎ね、すぐさま身を翻し反対側のもう一体に【緋蜂の針】で蹴りをぶち込んだ。
オーガは流石に頑丈で【緋蜂の針】の蹴りだけじゃ倒せないが、体勢を崩す事は出来る。
それさえしてしまえば、ヘビ達が止めを刺してくれる。
「おっと……」
手前の二体を倒すとやや後方に位置していた残りの二体の投石が始まった。
が、動く範囲が制限される通路と違ってここは広間。
躱す事はたやすいもので数発躱し続けてパターンに慣れたところで反撃開始だ。
反撃と言っても、先程と同じように蹴って切ってお終いだが……転がっている頭を見ると前座扱いは申し訳ない気がしてくるが、仕方が無い。
ここからが本番だ。
一旦天井近くまで高度を上げ、広間全体と通路を見渡し人がいない事を確認する。
これは絶対に省かないように気を付けなければいけない。
「……いないな」
ついでに確認した本体の数は15体と中々の大所帯だ。
「よいしょっ!」
ボスに狙いをつけて……!
「ほっ!」
矢を放つ。
【ダンレムの糸】の扱い方も完璧とは言えないが、大分慣れてきた。
まだ多少のずれはあるが、ほぼ想定通りの軌道で群れのボスとその周囲のオーガ達を巻き込みながら向かい側の壁に着弾した。
こいつらはボスの代理として二番目三番目あたりまでは序列があるが、それより先は決まっていない。
ありがたい事にその代理達はボスのすぐ側に引っ付いている為、まとめて始末できる。
こうなってしまえば、統制など取れずただただ混乱しているだけの集団だ。
「ふらっしゅ!」
そして駄目押しの目潰し。
「ふっ!」
そのまま一気に群れの中に突っ込み、止めを刺していく。
指示を出す個体が残っていたら、この状態からでも万が一の事があるから油断はできないが……【ダンレムの糸】で先制攻撃でそいつらを倒している。
「ほっ!……と……今ので最後か」
今首を刎ねたのが最後の一体だった様だ。
かかった時間は投石組との戦闘開始から10分位かな?
目潰しも最初の一発だけで間に合うようになった。
以前と比べて大違いだ。
とりあえず今日はこれで十分。
明日からは……そうだな、もっといろんな状況下での使い方を探っていこうかな?
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