第111話
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【本文】
ゼルキス領都にある冒険者ギルド。
リアーナのそれと違って、ダンジョンがある分造りも大分頑丈になっている。
あっちも今改築が進められてはいるが……まだまだだな。
少々偉そうなことを考えながら中に入ると、視線が一斉に俺に集まった。
「……ぉぅ」
リアーナは探索は外で行うもので、冒険者ギルドは集会所みたいな雰囲気だが、ここはすぐ下が探索場所。
何というか殺気立っている。
冒険者の実力だけなら、リアーナも負けていないんだが……あっちは緩いからな……酒とか飲んでるし。
この緊迫感……久しぶりだぜ。
とは言え、俺の事を知っている者は多く、すぐに刺々しさは無くなった。
冒険者同士でも縄張りの様な物はあるが、俺はここの出身だし拠点が変わってもよそ者扱いされることは無いだろう。
……無いよな?
◇
よそ者扱いされるという危惧は結論から言うと無用だった。
今日の俺の服装は王都で作った装備で、ミュラー家の紋章の付いたケープとメイド服と言ういわば俺のトレードマークは身に付けていなかったのだが……よくよく考えると宙に浮いている女の子という俺の存在そのものが一種のトレードマークの様なものだ。
去年までこの街にいたし、俺の事を知っている者も多い。
後数年もすれば冒険者の入れ替わりも起こるだろうが、その頃にはリアーナの街のダンジョンが開かれているし、狩りの拠点はリアーナ領になる。
……俺のダンジョン探索も安泰だな。
「よっし……これでいいよ」
そんな事を、上層の手前で顔なじみの冒険者が新人らしき連中を率いて狩りをしているのを見かけ、挨拶ついでの情報交換で確信できた。
「おう。向こうの連中にもよろしく伝えておいてくれ。おいっ!お前らも礼を言っておけよ!」
中々有益な情報だったので礼にと【祈り】を使ってあげたが、新人君達は随分驚いている。
スキルは当然として、魔法だって結構貴重だからな……割とポピュラーな回復魔法にしても、治療院や救護院に行かないと受けられないし、ファンタジー世界の住人だからって、その恩恵を簡単に授かる事は出来ない。
彼等は礼を、と言われ我に返ったのか、頭を下げてきた。
うむうむ。
存分に感謝してくれたまえよ。
「んじゃ、またねー」
彼等に別れを告げ、再び中層を目指すことにした。
20分程話をしていたが、今日はいつもと違って1時間制限も無いし、こういった寄り道も有りだな。
◇
「さぁ……来たぞー!」
中層入口から出てすぐの所にある通路。
ここを通り抜けると広間があり、そこにはオーガの群れがいる。
浅瀬、上層と抜けてきたが、狩りをしている冒険者はそれなりにいたが……俺が察知できる範囲ではその気配は感じられない。
以前ここで狩りをしていた時は、この中層入ってすぐの所は大抵狩りが行われていたのだが……普段ここで狩りをしている連中はまだお休み期間なのかもしれない。
「……それならそれで好都合か」
アカメ達と【妖精の瞳】を発動し辺りを念入りに探ると、通路の出口側に例によってオーガがいる事がわかった。
こいつらは投石組で、その奥からこちらの様子を伺っている集団の姿もはっきりと見える。
この通路の半ばあたりまで行くと警戒され出すから、その手前が開始ポイントだ。
丁度地面が凹んでいる場所があるから、そこを目印にしよう。
通路を進みながらさらに念を入れて、人がいない事を確認する。
前も後ろも人はおらず、念には念を入れて更に奥を見ても人の気配は無し。
これなら誤射の心配も無いだろう。
神経質になりすぎかもしれないが、【ダンレムの糸】ってアイテムは、多分撃たれる事がわかっているならともかく不意を突かれたら防ぎようが無いものだと思う。
とんでもない威力と速度の光の奔流で、防ぐことも避ける事も難しい。
普通ならわけもわからず食らってしまう。
そして食らってしまおうものなら……その事態だけは避けないといけないな。
ダンジョンだとか関係無しに、人殺しは駄目だ。
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【本文】
通路の丁度中央あたりになる目印の凹み……そこの真上に辿り着いた。
この位置からだと投石組は壁に隠れて見えないが、その後ろにいる本隊には射線が通っている。
距離は200メートルも離れていないし、十分届くはず!
「よし!」
【ダンレムの糸】を発動し、弓を俺の前に出現させた。
2メートルと少しの大きく重たい弓だ。
それがドンと地面に落ち、ぐらりと傾いた。
慌てて上端に手をかけ支える。
「おっとっと……」
リアーナの領主屋敷の地下にある訓練所は整地されて平らだったが、ここはゴツゴツしていて直立させるためにバランスを取るのが少々難しいが……何とかなった。
上端に手をかけた状態で両腕を思い切り伸ばすと丁度弓の中心あたりに体が来る。
その状態で左足を握りに当て、弓に意識を集中させると……弦が現れる。
今度はさらに右足首に付けている【緋蜂の針】を発動し右足を弦に当てたまま思い切り外に向かって、足を開く。
傍から見ると弓にぶら下がって開脚しているような見た目になるが、これでしっかり発動できることは実証済みだ。
このとき気を付けることは、弦のライン上に体を置かない事。
普通の弓の様に射る時に体に当たったりするのかはわからないが、あれだけの威力を出すんだ。
もしこの引き絞った弦が体に当たろうもんなら、多分マップタツ……。
それは避けねば。
後は【浮き玉】をコントロールして、照準を調整し……魔物と重なる位置を見つける。
試射をしたアレクに聞いたところ、弓の握りにある光の輪っかの直線状を一直線に飛んでいくそうだ。
普通の矢よりもずっと太く、貫通力も申し分無し。
ある程度大雑把にでも狙いをつけて撃てば、射線上を広く巻き込んでくれるから、一射でまとめて討伐できる……といいな。
「よいしょっ!」
何はともあれ、弓に気合を込めると光の矢が現れた。
既に弓は引いた状態で、いつでも発射可能。
矢も気合ばっちりと言わんばかりに、ギュンギュン唸っている。
ここまでは地下訓練所でやっているが、実際に撃つのはこれが初めてだ。
よし……撃つ前に最後の確認をしよう。
射線上に人の気配は無し。
通路の壁で角度が限られているから、一度に巻き込めそうなのは5体程度。
でもそれだけで、本隊の厄介な陣形を崩せるから十分だ。
念の為傘も持って来ているから、全く掠りもしなかったとしても、今まで通り普通に倒していけばいい。
うん……問題無し。
いけるいける!
「いくぞ!……発射ぁぁぁぁっおぁぁぁ⁉」
アカメ達の目と【妖精の瞳】の両方で見て、狭い射角の中で一番多く巻き込める範囲をチョイスし発射した。
そこまでは良かったのだが……反動を考慮していなかった。
予定では通路出口の左側の壁を掠めるように、斜めに向かって矢が放たれるはずだったのだが……。
発射の瞬間、カッ!と光を放ったと思ったら、弓全体に力がかかりそれを抑え込もうとしたのが悪かったのか、弓の地面についている箇所を支点に、クルっと10度ほど左側に回ってしまった。
恐らく俺が弓の左側に浮いていたから、引っ張る様な形になってしまったんだろう。
放たれた光の矢は、壁を掠めるどころか抉りながらその奥にいたオーガを巻き込んでいった。
ドォンと遠くで音がしたのは、広間の壁にぶち当たったからだろうか?
地面や壁を抉った際に巻き起こった土煙で、視界が悪くはっきりとは見えないが、相当な威力だったのは間違いない……。
「ケホッ……」
距離はあるのにこちらにまで流れてきた土煙を避けるべく、弓を解除し一旦天井付近に逃れようとしたその時、土煙の奥で動く姿が目に映った。
と同時に飛んでくる、バレーボールほどの大きさの石。
「……っ⁉」
幸い距離がまだまだ遠く、反応が遅れてしまったが避ける事は出来た。
本来ここは奴等の距離では無いが、流石に敵認定されたか。
広間の状況も気になるが、まずは目の前の敵を倒す事からだ。
ちょっと思っていたのと違うスタートだが……やる事は変わらん。
殲滅だー!
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