第60話

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ダンジョン上層の最奥をふよふよ進む俺。


先日の会議を経て、個人的に頼まれた事があった。


例の事件の概要をある程度周知させるまで、浅瀬と上層で危険な状況に遭っている冒険者を察知する事が出来たら、救援に向かって欲しいと。

魔物を回避し壁や障害も関係無く高速で移動でき、上層程度の魔物なら一蹴できる俺はその役割は打ってつけらしい。

グチャっといってしまったのを見ているし、朝の1時間だけならって事で引き受け、数日間だがダンジョンを漂っていた。


流石に浅瀬で危機に陥ることは無いだろうと思い、上層を中心に移動していたが、会う人会う人既に知っている様で、事件の詳細を聞かれた。

命がかかわる事だけに皆しっかり情報を集めている辺り、半壊パーティーの油断が際立ってしまう。

彼等、どのみち全滅していたんじゃ無いだろうか……?


結局危機に陥る者もおらず、ギルド側も充分だろうと判断し、お役御免となった。


と、いう訳で今日はオーガさんに再び挑戦する。

この数日何もただクラゲみたく漂っていた訳じゃない。


攻略法を練っていたのだ。

今日以降、この階層のオーガは俺の獲物だ!



中層に踏み込み、通路を抜け広間入り口前に陣取る投石組に接近し、一蹴した。

ここはもういつも通りというか、俺にはこれ以外の方法は無い。


問題はここから。


今まで取った方法は、上昇し投石組を集団から引き離してから各個撃破。

もしくは、そのまま集団を端から狙っていくかだ。

安全策で言うなら後者を取るべきだが、今回は投石組を先に倒す前者を選んだ。


これだと、オーガ達は陣形を敷いて来るがそれが狙いだ。

投石組を相手する時に背中に背負っていた傘を手にし、下を見下ろす。


ボスが中央に、その周囲にチーフが3体、通常個体が左右に5体ずつ。

陣形は例によって竜翼陣だ。


「ふっふっふ……!」


何度かの戦闘でわかった事がある。

オーガは臭いや音、魔力を感じる事が出来るが、やはり一番頼りにしているのは目だ。

なら、それを潰そう。


降下しながら一番端に狙いを付けて加速する。

それに合わせてオーガ達は俺を包囲するように動く。

前はこの状況を打破する方法が思いつかずに撤退を選んだが、今日は違うぞ!


完全に包囲される前に端の1体の首を刎ね、手が届かない高さまで上昇し包囲されたことを確認した。

ボスも含めて、俺に視線が集まっている。


「はっ!」


気合を入れ【竜の肺】を発動した。

これはあくまで補助で魔法の威力が上がる事は無いが、これが重要だ。

これで溜めの時間が減らせる。

アカメの目と【妖精の瞳】の発動を止め、傘を開いて準備完了だ。

 

「ふらっしゅ!」


開いた傘の石突の先から強烈な光が一瞬放たれた。

と同時に、オーガ達の苦悶の声が響く。


俺の傘は、魔鋼と魔木と言った魔法の威力向上効果のある素材、それも純度100パーセントで出来ている。

ジグハルトの閃光とまではいかないが、ここまでやれば俺の魔法でも目潰し程度の効果は発揮できる。

そして、俺自身は厚手の布で出来た傘によって守られている。


傘を閉じ下を見ると、顔を押さえ呻いている。

完璧じゃないか!


「ふっ!はっ‼」


一呼吸で2体倒し、一旦上に逃れる。

ボスを狙うか迷ったが、この狩り方はある程度規律を保ってもらう必要がある。

もう少し減らしてからだな。


「おわっと……」


更に2体を倒したところで、視界が戻ったらしく襲い掛かる素振りを見せたが、もう上にいる。

そして……。


「ふらっしゅ!」


また目潰しだ!

これを三度繰り返し、3体2体3体と倒し最後にボスが残った。


他の個体よりも一回り大きく、オークと遜色無い巨体だ。

かと言って鈍いわけでも無く、機敏で用兵術を考えると頭も悪くないし機転もきく。

すぐ上に逃れる俺に対抗しようと投石も行っていたが、1体だけじゃ脅威にはならない。


「ふらっしゅ!」


魔力を察知する能力も悪くないが、発射速度を重視した装備で固めた俺では相手が悪かった。

5度目の目潰しが見事決まり、腕を振り回し対抗としようとするボスの裏に回り込み、【緋蜂の針】で蹴りを放ち体勢を崩し、止めは【影の剣】だ。


「わっはっはっは!」


この広間にいるのは俺一人。


核を狙う余裕が無く、首を刎ねただけだから死体が残っていて少々絵面は悪いかも知れないが、勝利の光景だ!


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オーガの集団を初めて殲滅に成功して以来、同じ戦法で安定して倒せるようになった。


効率だけを考えるのなら、上層の端の方でコボルトの群れを倒し続けるのがいいが……、元々盾代わりに作った傘の思わぬ使い道や、ようやく使えるようになった魔法も使える事から、ついついオーガ狩りに勤しんでしまった。


1度の探索で倒す魔物は精々20数体いくかいかないかとやや控えめだが、戦闘している感がすごく感じられる。


「という訳なんだよ!」


ダンジョンから戻り遺物の換金を待っている時、何処からともなくやって来たここの支部長に、上層辺りで狩りをした方が効率がいいんじゃないかと話しかけられたのだが、その旨を熱く語った。


「そうか……」


それを聞き、残念そうだ。


先の事件の後の会議で、冒険者ギルドの仕事ぶりに不備は無いと結論付けられたが、それでもいざ死者が出た事で、新人の育成等改良していくそうだ。

ただ、今年からやるには間が無さ過ぎた為、実行されるのは来年以降になる。


新人が増えるこの春の1月なだけに、役目を終えたとは言え何だかんだで俺には上層辺りをうろうろしておいて欲しいんだろう。

気持ちはわかるけれど、1時間浮いているだけってのもね……。


「まあ……通り掛けの時に無理ない程度に気にかけてくれや」


「はーい」


俺に命令するわけにもいかないからその辺が妥協点なんだろう。

安請け合いするような事でも無いが、これ位なら問題無い。


「〇〇番の方ー」


窓口で次の番号が呼ばれた。

番号は……俺のだ。


「お?呼ばれたからオレはこれで」


「おう」


換金査定が済んだようなので、窓口に向かう事にした。

それなりに小金持ちではあるが、やはり働きが直接現金になる瞬間はちょっと胸が躍る。


いくらになったかなー?



「おはよーございまーす!」


重く厚い扉を開けデカい声を上げながら薬品臭と鉄臭さのする店内に入った。

両側に商品を並べた鍵付きの棚が並び、その先にカウンターがあるが……無人だ。


「また奥なのかな……?ちょっとー!店長ー?カシラー?大将ー?くそじじー?」


店内を進みながら呼びかけるが、反応が無い。


ここは冒険者街ではなく、商業地区にあるミュラー家御用達の職人達が所属している錬金工房付属の道具屋で、入ったことは無いが奥に工房がある。

主に貴族の屋敷の魔道具システムの設置やメンテナンスを行っているが、俺の傘を制作した店でもある。


通常の武具なら冒険者街の武具店で。

傘なら商業地区の高級道具店に任せるものだが、俺の傘は少々特殊過ぎるワンオフ品の為、メンテナンスもここに任せてある。


「大声出さんでも聞こえとるよ」


声が聞こえたのか奥の工房から作業用のエプロンを付けた店主が姿を現した。


「で?朝から来たって事はまたメンテナンスか?」


「そうそう。少し連発しすぎたからね。明日からしばらくダンジョンに潜らないしお願いしたいんだ」


背負った傘を下ろし、カウンターに置き店主に見せる。


見た目も使った感じも問題無いが、いざって時に使えないと死にはしないだろうが、俺が死ぬ程ビビる羽目になる。

週1程度で持って来て見せているが、そろそろ買ってから1月ちょっとになる。

ここらでオーバーホールを頼みたい。


「はぁん……」


気の抜けるような声を出しながら、傘を閉じたり開いたりし、クルクル回したりして見ている。


「手入れはしてあるみたいだが、糸がほつれかけていたり骨にゆがみが出来たりしているな。この程度なら問題は無いが……10日は貰うがそれでもやるかい?」


「お願い。素材とか何か必要な物はある?」


「いや、工房にある分で問題無い。バラシて貼り直してとなると……金貨2枚ってところだな」


……いいお値段じゃないか。

今日の稼ぎが飛んでしまうぞ。


「はい」


高いとは思うが、技術料なんてそんなもんだ。

大人しく財布から2枚取り出し、渡す。


「毎度。出来たら屋敷に届けるよ。しばらくダンジョンに潜らないって何かあるのか?」


「ウチのアレクシオとかが戻って来るんだ。んで、オレ達が移動する為の準備とかも始めるからね」


ルトルに向かったリーゼルの護衛としてついて行ったアレクが明日明後日あたり戻って来る。

それから俺達もあれこれ移動の準備に入るからな。


しばらく忙しくなりそうだ!


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