第34話

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「やぁやぁ、お迎え御苦労!」


俺の居る方向はわかっても姿は見えていないようだったので、声をかけながら降りていく。


「おう。無事みたいだな。とりあえず馬車に入れ。お嬢様達がいる」


「はいよ」


夜中なのによく門が開いたなと思ったら、セリアーナも一緒だったのか。

わざわざ申し訳ないね。

しおらしくいくかな。


「ただいまー!」


扉を開け中へ入ると、中が明るい事に気づいた。

厚手のカーテンを引いていて気づかなかったが、天井に照明が付いている。

きっとお高い馬車だな


「うむ」


「ぬぉぅ……」


「何だその声は」


じーさんが乗ってたのか…。


「何をしているの?早く座りなさい」


あ、いた。


向かいの席にセリアーナとエレナが座っている。

こっち来いと手招きしているし、2人の方へ近づく。


「怪我は?」


「お腹殴られてたね。ポーションで治療したし痛みはもう無いけど、折れてたかも?」


「後で見せなさい。それで、何があったのかしら?」


何があったんだろうね?

自分でもわからん。


とりあえず目を覚ましてからの説明と、道中ちょこちょこ書き付けた地図を渡しておこう。

方向がわかってからは一直線に飛んできたけど、無いよりはましだろう。


【隠れ家】に放り込んでいる物もあるけれど…。

じーさんいるし、それは後だな。


「それだけ?何か収穫は無いの?」


ねーちゃん?


「【隠れ家】の事はお祖父様に話したわ。身を隠すことが出来るって。ごめんなさいね?」


なるほど。

それなら仕方ないか。


「…中は見ていないけど、手紙とか地図みたいなのはあるよ」


「戻ったらそれを全部出して頂戴。お祖父様の執務室で構いませんか?」


「うむ。この地図だけでも動かせるが、情報は多い方がいい。」


「はーい」


わざわざじーさんの部屋でって事は、【隠れ家】の説明はしてあるみたいだけど、倉庫みたいなものって言ってあるんだろうか?

多分これでいいと思うが…。


ふと窓から外を見ると時計塔が目に入った。

時間は2時過ぎ。


「ふぁぁあぁ…」


いかん。

時間を意識したら眠気が…。


「もう少し我慢しなさい」


俺いつも寝てるの9時位だよ?



「んっん~…」


大きく伸びをする。

いや、ぐっすり寝た。

縛られたまま荷台に転がされ、その後もずっと緊張したままだったからな…。

疲れもするか。


「起きた?おはよう」


「おはよー」


一応怪我していたしって事で、エレナも【隠れ家】に入っていたが、先に起きていたようだ。


「朝食を用意するから、顔を洗ってきなさい」


ありがたや。


感謝しつつ洗面所に向かう。

顔を洗い寝癖を直し、ついでに鏡で殴られた痕を見るが、まだ少し内出血の跡がある。

ペシペシ触ってみるが痛みは無い。


これなら問題は無さそうだ。


リビングに戻ると食事が用意されている。

もう食事を終えたのか、エレナの前にはお茶がある。


「いただきます」


「はいどうぞ。食べながらでいいから聞きなさい」


夜中の事かな?


「私も君と一緒に中に入ったから詳細はわからないわ。でも、持ち帰った手紙の中に、外国の貴族や商会の名前があったそうよ。お嬢様達は朝から騎士団本部へ出向いているわ。アレクは冒険者ギルドで情報収集ね」


ほうほう。


「他に君が気づいたこととかはある?」


「ルトルから領都に来る時に聖貨の回収部隊に紛れ込んでたんだけどもね」


「ええ。そう言っていたわね」


「その時の部隊の一人がいたよ」


そういやあいつらは結局どうなったんだろうか?

また王都に入り込んでるのかな?


「…そう。それはアレで見れる?」


モニターの方を見ながら聞いてくる。


「うん。俺が目を覚ましてからのになるけれど、記録してるよ。見る?」


「いえ、2人が戻ってからにしましょう」


少し迷っていたが、そう決めたようだ。

一度で済むしその方がいいか。


いつ頃帰って来るかな?


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出かけていた2人はどちらも昼過ぎに戻ってきた。


いくつか情報を得たそうだが、まずは俺の情報からって事で、セリアーナの部屋から【隠れ家】に入り、録画を見ることにした。

まぁ、見どころなんて精々戦闘シーン位で、そんなに大したものでは無いのだが。


「こいつはバルゴですね」


あの強い魔法使い。

バルゴって言うらしい。

知っているのか、アレク。


「誰?」


「指揮も戦闘もこなせる万能の傭兵として西部で知られた男でした。組んだことはありませんが、俺も西部にいた頃挨拶をしたことがあります。冒険者をしていたなら名前くらいは聞いてもおかしくないんですが…。教会に付いていたのか」


有名なやつだったのか。

いや、強いとは思ってたんだよね。


「教会ね…」


セリアーナが思わせぶりに呟いた。

何だろうか?


「まあいいわ。次はアレク、貴方は何かある?」


「残念ながら大したことは。まず昨日までに王都に来ている外国の冒険者で怪しい行動をしている者はいなかったようです。所在確認は下町も含めて今日にでも騎士団が行うでしょう。ギルドにいた冒険者連中にも聞いてみましたが、同様でした」


「綿密に計画を練っていたというわけでは無さそうね」


「そうなの?」


「ゼルキスはともかく、王都圏じゃダンジョンに潜らない冒険者はゴロツキ扱いだからな。そんなのがいたら噂位は聞こえるもんだ。大方他所で活動する冒険者を急遽集めたんだろうな」


「ほう…」


そもそも今回のは俺が出席を断っていれば空振りに終わっていたし、確かに行き当たりばったりな感じはする。

そんなのに嵌ってしまった俺って……。


「その予想は正しいわ。持ち帰った手紙の送り主はラウド商会の関係者よ。先の違法取引の主犯ね」


「…オレの名前出てたっけ?」


確か隠してくれていたはずだ。

アカメの登録だって日付を誤魔化してくれていたし。


「いいえ。狙いはそれ」


視線が俺の右足に向いている。


「【緋蜂の針】?」


右足をピコピコ動かしながら見せてみる。


「そう。ラウド商会はルード王国を始め西側のいくつもの国で商売をしているのだけれど、今回の事で会頭を始め相当な数が処刑されるそうよ」


「ぉぅ…」


まぁ、魔物避けである壁の下に穴開けるってのは、魔物の侵入口を作る様なものだし仕方ないのか?


「それは確定だけれど、唯一ひっくり返すことが出来るのが【断罪の長靴】で無罪を勝ち取ることよ。何と言っても神様が無罪と仰るんですもの。最近監視されているかもしれないって言っていたわね?【緋蜂の針】と【断罪の長靴】が同一の恩恵品かどうかの確認だったみたいね。それと、お前の調査よ。時間が足りなかったみたいで【浮き玉】と【緋蜂の針】の2つと【ミラの祝福】しか調べられていなかったみたいだけれど…」


なるほど。

【影の剣】については警戒されていなかったのか。

だから縛るだけで、監視も無かったのか。


「それでオレを攫ってどうするつもりだったの?」


「お前を引き込むつもりだったそうよ?」


「…?」


さすがに行き当たりばったり過ぎないか?


「どうもよく知らない者達からは、お前はただただ搾取されているように映っているのね。朝早くからダンジョンに潜らせ、【ミラの祝福】で貴族に恩を売らせ、その割に自由時間も与えず、綺麗な服も着させないってね」


よほど可笑しいのかクスクス笑いながら説明する。


「……ぇぇぇ」


むしろ相当好き勝手しているんだが…そう見えているのか。

いや、まぁでも、女の子ってそんな感じなのか?


「服や宝石、欲しい?」


「いらない」


「そうよね。で、結局お前が持っていなかったからそれは失敗に終わったんだけれど、その場合はお前を人質に私に使わせる予定だったそうよ。何もしなければ処刑されるからって随分なりふり構わないものね」


「俺って人質になんの?」


断る断らないは別としても、そこまで俺の値段って高いんだろうか?


「断ったら、自分に益をもたらす従者を切り捨てたと騒げば私の評価は下げられるし、どこかの人間にとっては都合がいいんじゃないかしら?」


「…なるほど?」


「お前が気にすることでは無いわ。ルード王国も災難ね。招待状に名前を書いただけで共犯にされそうなんですもの」


あ、あそこは関わっていないのね。

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