第三章/十三話:ロミナの後悔

「私の馬鹿! 馬鹿馬鹿馬鹿!」


 私は何とかカズトと笑顔で別れて自室に戻った後、パジャマに着替えた私はベッドにうつ伏せになると、枕に顔を埋めたまま、後悔を強く叫んでいた。


 何であの時花火がよく見えると思って、遊覧船選んじゃったの!?

 確かにロマンチックになったら、カズトもその気になってくれたかもしれない。確かにそう思ってたけど。

 それなのに、一番肝心な時に花火が上がるなんて! ちゃんと伝えるならもっと静かな場所にすべきだったじゃない!


 しかも後で聞かれた時、まだ言えるチャンスあったのに、思わず凄く尊敬してるなんて誤魔化しちゃったし……。

 確かに尊敬してる。カズトは凄いって思ってる。けど、それを伝えたかったわけじゃないのに……。


「……私の、馬鹿……」


 枕を胸に抱え直した私は、ごろりとベッドで横を向くと、思いっきりため息をいちゃった。


 ……今日の私、カズトを傷つけちゃったんじゃないかなって、本当は今でも不安だったから。


 私は、確かに本音を伝えた。

 カズトの仲間への想いは知ってる。

 そんな優しいカズトだから、私は彼を好きになったんだもん。


 だけど同時に抱えていた不満もあったの。

 私達だって仲間。だからこそ頼って欲しいって想う事も、信じて欲しいって想う事も。


 でも、本当は知ってるの。

 カズトが私達に力を貸せない。そんな時もあったんだって。


 ワースの呪いがあって、私達に嫌われていたとき。あなたを傷つけてショックしていた私に気を遣い、私の前に顔を出さなかったってルッテから聞いたし。

 あなたが私達を助ける為に魔王に挑んだ時も、きっとあなたは私に気を遣って、私が口にした願いを受け入れて挑んでくれたんだろうなって分かってる。


 カズトは私の本音を聞いても笑ってくれた。

 だから信じなきゃって思うけど……本当は内心凄く傷ついてて、嫌われてたらって今でもちょっと不安になる。


 私が肩に寄り添った時も、嫌がってはいなかったし、大丈夫じゃないかって思うんだけど……。


 そういえば私、突然あんな事して、はしたない女の子って思われてないかな……。

 カップルがああいうのをしてるのを見て、憧れて勝手にしちゃったけど。カズトにとって、私はまだただの仲間なんだよね。

 それなのに……前は手を繋いじゃったし、今回だってあんな事しちゃったし……。


 ああもう!

 何で私、カズトの事になると抑えが利かないの!?

 確かにカズトは優しいけど、嫌な事だって絶対あるはずなのに!


 確かに逢えなくって想いが募ってたのもあるよ?

 でも結局私、全然カズトの気持ち考えられてないじゃない!


 ベッドの上で右に左にゴロゴロして後悔した。だからって、何が変わるわけじゃなのに。


「はぁ……」


 何で私、こんな我儘わがままなんだろ。

 カズトに仲間でいてほしいなんて言いながら、結局私は彼に、仲間を超えた我儘わがままばっかりして迷惑を掛けてる気がする。


 ……でも、皆の誰か一人でも、カズトといるのが辛いからって断ったら、私は彼とまた離れ離れなんだよね。

 しかも、折角想い出した記憶も失っちゃう……。


 前みたいに、少しだけでも記憶に覚えててくれたらいいけど、カズトが死んじゃった時、全部忘れちゃってたよね……。


 私、もしまた記憶を失ったら、どこまで忘れちゃうんだろう?

 また、全部忘れちゃうのかな……。

 カズトはもう、逢いに来てくれないのかな……。


 思わず不安で勝手に身が震え、思わずぎゅっと、枕を抱きしめる。


 明日、皆と話すその時が少し怖くって。私は心を落ち着けるように、大きく深呼吸をした。

 誰かがカズトといるのに不安を覚えても、責めたりするつもりはないけど、やっぱり不安……。


 何で私、想いを口にできなかったんだろう……。

 そんな後悔と不安が、胸をぎゅっと締め付ける。


 ……カズト……私、これからずっと一緒にいたい。

 あなたの側にいたいのに……。

 私達の絆って、これからも繋がってくれるのかな?

 それとも、そんな運命なんてないのかな……。


 その日の夜。

 私はそんな事ばかり考えながら、眠れぬ不安な一夜を過ごしたの。

 カズトとの想い出に縋り、不安を何とか抑え込みながら。

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