第十話:想い出を追うほどに
……私は、想い出した。カズトとの記憶を。
でも。だからこそ、皆みたいに歩み寄れなかった。
「大丈夫か!?」
初めて出逢った時も、あなたは私達を助けてくれたよね。
魔王軍に囲まれた私達の為に、一人背後から奇襲してくれて、それだけじゃなく
あれは私達にとって、本当に驚きの出逢いだった。
仲間でも知り合いでもないのに。
身体を張り、傷ついたあなたは、自分の身体の怪我じゃなくって、私達の無事に安堵してくれたんだから。
私はその時、本当に思ったの。
あなたとの出逢いは、絆の女神様の
だからこそ、私はあなたをパーティーに誘ったけれど。きっとあなたにとって、これがとても大変な日々の始まりだったのかもしれない。
私達のランクに合わせた冒険は、あなたに沢山の負担を強いたし、それは私が聖剣を抜いて聖勇女になってから、より苛烈な旅にもなったんだから。
でも、あなたは本当に不思議な人だった。
最初は私達との旅に困ったり、時に戸惑ったりもしていたけれど。
苦しくても泣き言なんて言わず、必死に私達の力になろうとするあなたに、何時しか皆が心打たれ。
何時でも笑顔で励まし、常に前向きな言葉を掛けてくれたあなたに、皆が感謝したの。
私が聖勇女で良いのか迷った時だってそう。
「いいか? 聖剣に選ばれた事が不安でもいい。魔王を恐れてもいい。でも不安はきっと、お前も俺も、皆も一緒だ。だから弱気の虫も、辛い気持ちも、俺や皆に口にしな。そして、それでも魔王から世界を救いたいって気持ちが諦められないなら、皆で一緒に踏ん張ろうぜ。お前は独りじゃない。俺達がついてるんだから」
そう言ってくれた時、本当に嬉しくって。
あなたが側にいてくれて本当に感謝して……きっとあの頃にはもう、心惹かれてたと思う。
……でも。
だからこそ、旅をするにつれ不安が募ったの。
魔王に近づくにつれ、強くなる敵。
私達は、あなたに影から支えられているのを知らず、だけど強くなった実感を感じ、勇気を持って挑めていたけれど。
あなただけは、そんな敵の強さにひとり、ついてこれなくなっていった。
より酷い怪我を負い、より必死になって無茶をして。それでも私達と共にあろうと必死になってくれる姿がとても痛々しくて。
それが私達を不安に掻き立てたの。
このままじゃ、あなたを死なせてしまう。
そんな憂いを皆が持ったからこそ、私達は助けられていた事も知らないで、私達の身勝手であなたを追放しちゃったのに。
「いいか? お前らはさっさと俺の事なんか忘れて、その弱気の虫をどうにかしやがれ。万が一の居場所とか言うな! 負けるとか思ってんじゃねえ! お前らはちゃんと魔王を倒し、皆で生きて帰ってきやがれ!」
そんな言葉で私達を叱咤して。
「今まで、ありがとな」
涙ながらも笑顔を向け、私達に感謝してくれたあなた。
……きっとあの時も、本当に辛い想いをさせちゃったよね。
私達が魔王との戦いで苦しむ事を知ってて。それでも私達の願いを汲み取ってくれて。
忘れ去られるのを知りながら、それでも必死に言葉を紡いでくれたけど。
本当は一緒に戦いたかったんだよね。
だからあなたは、死んでしまったあの日。
願いが叶ったなんて、喜んでいたんだよね……。
でも、あなただけはそんな辛い記憶を持っていたはずなのに。
魔王の呪いで苦しむ事になった私の前に再び現れて、私を助けてくれるなんて夢にも思わなかった。
死が近づき弱気になった私に向けて、
「死んでも良いなんて強がるな。怖いなら怖いって仲間にちゃんと言え。泣きたいなら仲間の前でちゃんと泣け。それが仲間との絆ってやつだ。そしてその絆を信じてれば、絆の女神様もきっと、微笑んでくれるさ」
笑顔と共にそんな言葉で元気をくれて。
「まだお前は生きてる。まだお前には仲間がいる。まだ幾らだって希望が残ってるんだ。だいたい絆の女神様だって、ここまで聖勇女として頑張ったお前を、そう簡単に見捨てるわけないさ。だから信じて待ってりゃいい。そして呪いが解けたら、好きな事すりゃいいんだよ」
私が闘技場で不安を口にした時も、そう励ましてくれて。
それが本当に嬉しくって。
そんなあなたにとても感謝した。
……それなのに。
夢かと思っていた世界で、私はあなたを沢山斬って、痛みと苦しみを与えて。
……私は、あなたを殺してしまった。
今思い出しても、とても辛くて、とても怖いその想い出。
きっとあなたはもっと痛くて、辛くて、怖かったはずで。
そんな酷い思いをしたら、私を嫌になっても仕方なかったはずなのに。
……それでも、あなたは変わらなかった。
「お前が生きてくれなきゃ嫌だ!」
あの時あなたは、強くそう叫んでくれて。
「気にするなって。その代わり、ちゃんと幸せになれよな」
謝る事しか出来なかった私に、そう優しく声を掛けてくれた。
その言葉に、私は心を救われて。
あなたに、命も救われた。
魔王の呪いも解けた後、夢だったあなたとの約束を果たして、感謝を伝えようって決意して、皆と旅に出たはずなのに。
……私は、あなたと再会する度に、あなたを苦しめてしまった。
封神の島では私を庇ったせいで、あなたは死の淵を
マルージュではあなただと気づかないまま、あなたをなじり、傷つけちゃって……。
それでもあなたは魔王の前で捕らわれた私達を助けようとしてくれたのに。
……結局私は、あなたを傷つける事しか、できなかった。
不安な気持ちでパーティーに入る事を拒み続けて。挙げ句の果てに、魔王を倒してなんて無茶まで言って。
皆は彼をカズトだって言ってたけど、私はあの時まだ信じきれていなくって、言いえぬ不安にあなたを拒んでしまった。
だからこそ、そこにいるあなたは強がっているだけで、きっとこう言えば魔王を恐れて、そこから逃げてくれる。
そう思っていたのに。
「お前ら気にするな。どっちにしろ俺はシャリア達も、お前達も救いたいし。それに俺が魔王を倒せたら、本当に救世主だしな」
あなたは、そんな無茶な夢物語すら叶えようと、必死に魔王と戦ってくれた。
でも。
あなたは私達を守る為に、魔王に斬られ、術で貫かれ。
私はあなたを、死に……
……それなのに……それなのに!
「ロミナ! お前は聖勇女だろ! たった一人の嫌な奴の為に、世界の皆を見捨てる気か! どうせ嫌な奴はもうすぐ死ぬ! パーティーに入ったって、勝手に死んで抜けていく! 嫌な気持ちなんて少しの間だ! そんなのすぐ忘れられる! だから信じろ! 俺はシャリア達も、お前達も助けてみせる! だから……俺をパーティーに入れてくれ!」
あなたは、それでも私達と世界の未来の為に、前を向いてくれて!
「俺はずっと後悔してたんだぜ。一緒に魔王討伐に行けなかった事をさ」
あなたは命と引き換えにパーティーに入れた現実を、私達と魔王に戦える夢が叶ったなんて喜んで!
「魔王との、戦い。怖く、なかったか?」
魔王を倒した後ですら、燃え尽きそうな生命なんて関係なしに、私達の心配ばかりして!
「今まで……ありがと……な……」
最後まで私達を責めようとなんてしなくって!
最期まで笑顔を見せて、感謝までしてくれた!
けど!
私はあなたに何もできなかった!
傷つけるだけ傷つけて!
助けられるだけ助けられただけ!
大事な人だったのに!
私は聖勇女のはずなのに!
あなたに再会して!
共に歩みたかったはずなのに!
結局酷いことをして!
命を奪ってしまって!
そして……忘れてしまったの……。
……私は、あなたの為に何もできなかった。
……私は、あなたに酷い事しか、できなかった……。
私……酷いの……。
私は……最低なの……。
……そんな私に、あなたに歩み寄る資格も、側にいる資格も、ある訳ない……。
……そんなの……もう……ある訳、ないの……。
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