第五話:おかしな試練

「……は?」


 思わずそう返したけど、無理ないだろ。

 ロミナ達とパーティーを組むって、つまりそれは、彼女達を見つければいいわけで。

 きっとあいつらもクエストでも受けながら旅してるだろうし、ダラム王に頼めば冒険者ギルドで居場所に関する情報も集められそうだし……。


 ギアノスの時と違い過ぎる試練に、俺は拍子抜けしてきょとんとしたんだけど。流石に相手は宝神具アーティファクト。やっぱりそこまで甘くはなかった。


『言葉の通りじゃよ。じゃがそのままでは面白くないじゃろ。じゃから今から儂が、お前が聖勇女パーティーに戻るまで解けぬを掛ける。それを乗り越えれば、お主を認め、二人を解放し力を貸す。どうじゃ?』


 にんまりとする顔。

 ……これ、絶対に裏がある。

 だけど、今の俺に選択肢はないもんな。


 正直、今こいつに認められる必要なんてさっぱりないし、その気もなかったんだけど。二人を解放するには止むなしか……。


 一度大きく息を吸い、不安と一緒に吐き捨てる。

 ……ロミナに殺され続けるよりは、きっとマシ。

 そう心に言い聞かせて。


「……分かった。やってくれ」


 真剣な顔でそう答えると、嬉しそうな顔をしたワースは『素直で良いぞ』と小さく頷いた後。杖を俺に向けると、聞いた事もない言語の術を唱えた。

 直後。俺の首をふんわりと怪しげな光が覆った思うと、そこにとてもシンプルな首輪が現れる。


『儂とお主にしか視えぬその首輪は、お主が試練を達すれば壊れる呪いの首輪じゃ。宝神具アーティファクトの掛けし呪い故、外す事はできぬし、その呪いの強さも絆の女神の物と同じと思え』


 ……絆の女神の呪いと同じ。

 つまり、解呪しようとしても土台無理って事か。


「分かった。で、どんな呪いなんだ?」

『絆の女神の呪いにあやかり、ふたつの呪いが掛かっておる。ひとつは、聖勇女達にとって、お前は別人に映る事。そしてもうひとつは……』


 そこまで言うと、また楽しげにワースは笑みを浮かべ、こう話した。


『お主が聖勇女達に嫌われる呪いじゃ』

「……へ?」

『まあ、そこは実際に聖勇女達と話せば分かるじゃろ。説明はこれで仕舞いじゃ。お主が聖勇女パーティーに加われば、呪いは自然と解けるし、二人も解放する。いざとなれば儂の転位の力も貸してやるわい。じゃからしっかり気張るが良いぞ』


 うんうんと頷くワース。

 っていうか……嫌われる呪い? 随分と変な呪いを選択したな……。

 確かに嫌いな奴をパーティーに入れる気にはならないだろうし、これ自体は地味に嫌なもんだけど。結局の所人相手。嫌われる要素があっても、きっと好かれるように行動する事もできるんじゃないか?


 まあ。どちらにしろ、やってみるしかないよな。


 心に密かな決意を固めたその時。

 ふとある事を思い出し、俺はワースを見た。


「そういやワース」

『何じゃ?』

「お前、最近この辺で起きている、行方不明事件に絡んでるのか?」


 そう。

 シャリアとアンナが囚われて忘れてたけど、俺の本題のひとつはこれだ。せめてこの話位は聞いておかないとって思ってさ。


『儂を疑うか?』

「あのなあ。ここまでの事しておいて、疑うなってのが無理だろ?」

『確かに。それも一理あるのう』


 呆れた俺に、反省の色も見せないワース。

 なんかギアノスといい、人間味があり過ぎて、正直戸惑うな。


『儂は世界が破滅しようとも、人に関与はせんぞ。何たって四霊神じゃからの』

「そんな事言って。今もろに俺の仲間を人質にしてるじゃないか?」

『お嬢ちゃん達の血の気が多かったからじゃ。それに二人を返さぬ理由はお主への試練。それ以外で干渉する理由などないわい』

「……本当なんだな?」

『当たり前じゃ』


 しつこく問われたせいか、表情が不満そうだ。

 まあ、結局証拠がある訳じゃないし。今は信じておくか。


「分かった。ちなみに、俺が呪いを解いたらここに戻って来れば良いのか?」

『別にそこまでせんとも儂には分かるし、何時でもお主の声も儂に届くから安心せい』

「ん? お前と離れてても話せるのか?」

『まあの。儂がギアノスのように力を失わぬ限りは』


 何ともうますぎる話にも思えたけど、まあそれは良しとするか……って思ったけど。


「そういやお前の力って、解放の宝神具アーティファクトみたいに一度っきりって訳じゃないのか?」


 ふと俺の中で、そんな疑問が生まれたんだ。

 いや、さっき俺達をここに導いたのも、転位の力みたいに思えたからさ。ギアノスの時は魔王の呪いを解いて終わりだったし。


『あれは相手が悪過ぎただけじゃ。より強い力を解放するのであれば、より強い魔力マナを必要とする。弱い呪いじゃったらギアノスも力を失わんかったじゃろ。無論、儂も同じ。大した転位でなければ何度でも力を貸せる。じゃが、無茶な転位をすれば、それこそ一度っきりで当面力を失うのは変わらんぞ』


 へぇ。そういうことか。

 確かにギアノスに頼んだのは死んだ魔王がかけた呪い。簡単に解呪できたように見えたけど、それだけ多くの魔力マナが要ったって事だったんだな。


『さて。ではそろそろお主をダンジョンに戻すとしよう。最後にひとつだけサービスじゃ』

「ん? 何だ?」

『ロミナ達の居場所を教えてやろう』

「は? そんなの分かるのか?」

『勿論。四霊神は世界を見通せるからの』


 そういや、ディアもそうだったな。

 四霊神が棲むこういう部屋には、そういう不可思議な力があるって事なのか。はたまた四霊神だからこそ高まる感覚ってのもあるのかもしれないけど。

 まあ、今はどっちだっていいか。


「で。何処にいるんだ?」

『マルージュじゃ』

「……嘘だろ?」


 いやいやいやいや。

 流石にそんな都合良く同じ街になんているはずないだろって。

 流石の俺も怪訝な顔をしたんだけど、


『お主が探そうものなら何年掛かるかも分からんじゃろ。ちゃんと聖勇女達の到着を見越して、この試練を出しておるわい』


 ……なーんてすまし顔で言われれば、信じるしかないよな……。


    § § § § §


 あの後、俺はワースが用意した転位陣へのポータルを使い、一人元の部屋に戻った。

 他の部屋に行って帰って来た時と何ら変化はないんだから、誰も俺の登場に驚きはしない。


 周囲の自然な空気にほっとすると、俺は地上へと戻るべく、足早にダンジョンを戻って行く。


 ……しかし。

 ロミナ達は本気で俺を見ても気づかないんだろうか。まあルッテ、キュリア、ミコラ、フィリーネの四人は仕方ないだろうけど、ロミナは流石に覚えてるし、見間違いなんてしないんじゃないか?


 でも、もしロミナも見間違えるとしたら、どうやって仲間にして貰えば良いんだろうか。


 事情を話せば理解して貰えるか?

 ……いや。突然、四霊神の話をされても困るだろうし、シャリアやアンナが囚われてるって言っても、じゃあ場所はって言われたら困る。きっとそこまでワースもぬるくはないだろ。


  ──『そりゃそうじゃ。儂と会わずとも、お主が信じて貰う努力をするんじゃな』


 ってワース。お前、さらっと当たり前のように会話に入るなよ。


  ──『別に良いではないか。普段なら儂のことを強く思わねば互いの言葉も感情も伝わらんが、首輪があるとお主の感情はだだ漏れじゃからのう』


 まじかよ!?

 まったく。俺はお前の玩具おもちゃかよ。

 どうにもワースに振り回されている感覚に、俺は自然と大きなため息をいていた。

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