第七話:王からの依頼
「さて。昔話に花を咲かせてやりたい所だが、そろそろ本題に入ってもよいか」
「本題ですか?」
「ああ。昔話だけが良かったか?」
「いえ、そういう訳ではないのですが。他に俺なんかに話す事なんてあるんですか?」
どうにもダラム王の
「シャリア殿に色々話すには、まだ浅いのでな」
ダラム王はそんな意味深な事を口にした。
「浅い、ですか?」
「うむ。余はお主の素直さと誠実さを買っておる。だが、まだシャリア殿はそこまでのものを見せておらんからな」
「ですけど、あの人はSランクの冒険者ですし、王ですら名を知る大商人ですよ?」
「大商人だからこそ、表も裏も使い分け、聞いた聞かぬを活かすもの。それは商談としては正しいが、信頼とは別の駆け引きよ」
言われれば確かに。
国王相手との商談ともなれば、そう簡単に裏や本音まで話せはしないかもしれない。とはいえ、シャリアも深く知れば、ダラム王なら間違いなく気に入りそうだけど。
「そうですか。ただ、お役に立てるかは分かりませんが」
「構わぬ。その代わり、本音で答えてくれ」
凛としたダラム王が醸し出す真剣な空気。
……こりゃ、こっちも真剣に構えないとな。
「わかりました」
俺も背筋を伸ばしそう返すと、ダラム王はひとつ頷くと、こんな質問をしてきた。
「お主は、四霊神が本当に実在すると思うか?」
真剣な視線が俺を貫く。
……っていうかさ。これ絶対、さっき驚いた意味を知ってるだろ。
まあ、この人はマーガレス同様、信頼できるだけのものは持っているからな。
「……ダラム王。俺はあなたを信じています。ですから、この事は誰にも話さないでください」
「いいだろう」
「……四霊神がいるかいないか。それだけでいうなら、彼等は存在しています」
「何故言い切る?」
「その内の一人に会っているからです」
「なんと……」
流石のダラム王も、この言葉には驚愕したか。
そりゃそうだ。突然、夢物語が現実になったような話だからな。
「詳細は明かせませんが、今回の件で俺が会った四霊神の一人が絡んでいる可能性はないです。とはいえ、四霊神の名の通り、他に三人、この世界のどこかにいるのは間違いないと思います」
「では、ハインツの言うことも最もだと?」
「そこは何とも言えません。俺の会った四霊神は、噂に聞く通り、世界の危機にも干渉しようとしない人でした。ただ、他の四霊神が同じかどうかまでは分かりかねますので」
「そうか……」
ダラム王は暫し考えた後、再び落ち着いた顔で俺を見る。
「そういえば、お主は今、シャリア殿専属の従者なのか?」
「いえ。数ヶ月前に
「そうか。……突然こんな事を頼むのは気が引けるが、お主に魔誕の地下迷宮の調査を頼めぬか?」
「俺に、調査ですか?」
ん? どういう事だ?
「うむ。余もトランス同様、ハインツの言葉には懐疑的だ。だが、その可能性があるのであれば、真実を知らねばならぬ。国民の為にもな」
「ですがあそこは今や観光名所です。そんな中で調査なんてできますか?」
「何。隅々まで調べろとは言わん。ただ、もし四霊神が迷宮にいるのであれば、他の四霊神に絡んだお主に興味を示すやもしれんと思ったのでな」
あくまで憶測。とはいえ、四霊神達がどういう関係にあるかはわからないけど。そんな可能性もなくもないよな。
本当ならディアに一度聞きに行くって手もあるけれど。まあ観光名所になった迷宮に入るだけなら、個人で動いてもどうにかなるし、確認してからそっちを当たってみてもいいか。
「分かりました。俺でよければご協力します。報告はどのようにすれば?」
「トランスにのみこの話を通しておく。何か動きがあれば彼を介して報告してくれ。勿論ただ働きというわけにもいかんだろう。追ってお前専用のクエストを出しておく」
「いえ、そこまでしていただかなくても結構です」
「何故だ?」
「国王が一介の冒険者に肩入れするのは体裁が良くないでしょうし。それに……」
ちょっと話をするか迷ったけど、俺は覚悟を決めて、ダラム王にこう告げた。
「何となく、ハインツさんに勘づかれやすくなる行動は、謹んだ方が良いかと」
その言葉に、王は短く「確かに」と口にする。
「……カズトよ。お主はハインツの研究、どう思う?」
「『
「そうだ」
「……俺はあまり術に詳しくありません。ただ……」
「ただ?」
「……あまり良い研究とは、思っていません」
「何故だ?」
「……確かに革新的な研究だと思います。ですが、使い方次第で悪用もできる。そんな気がしたので」
俺があの研究を見た時感じたのは、トランスさんのいう可能性ではなく、この術の未来への不安だった。
思い浮かべた記憶を書き出す。
考え方を変えれば、これって自白させる時なんかにも使えるって事だろ? 知りたい事を強制的に知ろうと出来る危うさってのを、俺は最初に感じたんだ。
しかも短い時間の使用ですら、使われた相手への負担は大きいって話だったろ? 逆に考えれば、それは拷問になるんじゃって不安もある。
でも何より嫌だったのは、記憶を勝手に覗き見出来るかもしれない、そんな研究成果だ。
記憶を消せる呪いを持ってる俺が言えた義理じゃないし、同族嫌悪ってつもりもないけど。もうこの辺は感性の差ってやつか。どうにも快く思えないんだよ。
ダラム王は俺の言葉を聞くと「やはり、そう思うか」と憂いを見せる。
「ダラム王は、どう思われているのですか?」
「……まだ未完成の代物。
そういう割に、浮かぶのは悩ましき表情。
きっと、国王故に色々葛藤もあるんだろうな。
「ダラム王。そんなに悩まないでください。さっきのはあくまで俺の印象です。王もそういう側面を分かっているのでしたら、悪意ある使われ方をしないよう、道を指し示す事もできるでしょうから」
「……そうだな」
俺の言葉に小さく笑うダラム王。
まあ、何事も悩む事はあるだろうけど、この人ならきっと上手くやってくれるはずさ。
そう信じて、俺は彼に笑いかけたんだ。
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