第六話:カズトの黒歴史
あれからもシャリア達三人は色々と話をした後、暫くしてお開きになった。
「ダラム王。本日は貴重な機会を頂きありがとうございました」
「いや。余の為に時間を割いて頂き感謝する」
席を立ち握手を交わすシャリアとダラム王。
やっと終わったか……。正直ずっと立ちっぱなしで足が棒のようだ。
ちらりとアンナを見ると、顔色一つ変えていない。こういう所は流石メイドって感じだな。
「それでは。我々はこの辺で失礼いたします」
「ああ、シャリア殿。済まぬが最後にひとつだけ、頼みがあるのだが」
握手も終え、シャリアとトランスさんが部屋の扉へ向かおうとした矢先。突然ダラム王が彼女達を呼び止めた。
「何でしょうか?」
「そちらの武芸者と少し話をしたいのだが、お借りしてもよろしいかな?」
……は? 俺と?
やっぱりさっきの四霊神に反応したのがいけなかったか!?
突然の指名に戸惑っていると。
「……カズト。あんたは構わないかい?」
シャリアもはっきりと戸惑いを見せながら、俺に尋ねてくる。
っていうかさ。国王の申し出を断れるわけ無いだろって……。
「は、はい。私でよろしければ……」
緊張しながら俺が頷くと、シャリアも頷き返した後、ダラム王に向き直る。
「承知しました。ちなみに理由をお伺いしても?」
彼女の少し険しい表情は、さっき俺が叫んだのが無礼と取られたのかっていう不安だろうな。
だが、対するダラム王は、安心させるかのように、優しい笑みを浮かべた。
「いや。最近、冒険者でも武芸者は随分と少ないと聞く。そんな中、この若さで武芸者をしているのが気になってしまってな。それ以外に他意はない。安心したまえ」
……ふう。
流石にいきなり無礼で切り捨てられる、なんて事はないと思ったけど、ちょっとひやりとしたな。
シャリアやアンナも流石にほっとした顔をしている。
「ただ話が盛り上がり、少々時間がかかるやもしれん。カズト殿。シャリア殿には先に戻ってもらってもよいか?」
「あ、はい。ではシャリア様。後で宿にて」
「わかった」
「トランス。引き続き場内の者には、ここに近づかぬよう伝えてくれ」
「はっ」
「それではダラム王。失礼いたします」
シャリアの言葉と共に、三人は会釈した後、静かに部屋を去り、俺は王と二人っきりになった。
直後。
誰も触れていないのに部屋の鍵がかかる音。
魔術、護りの施錠か。
「この部屋の会話は
「はい。ありがとうございます」
「まずはそこに」
ダラム王の指示に従い、俺は彼と向かい合うようにテーブルに腰を下ろす。
すると、彼は暫し何も言わず、じっと俺を見つめた後。
「……たった一年程で、ここまで
と、独りごちた。
……ん? ちょっと待て。
一年程前、確かに俺はダラム王に会っている。
だけどあの時俺は聖勇女パーティーに入ってた。だからパーティーを追放された時に、この人だって記憶が消えるはずだろ?
なのに、どうして一年前の事を覚えているんだ!?
俺が露骨に戸惑いを顔に出すも、ダラム王は笑いながら、気にする様子もなく話を続ける。
「噂話と侮っておったが……。カズトよ。お主がやはり、
「ちょ、ちょっと待ってください! ダラム王、何故あなたは私を覚えてるんですか!?」
思わず本音を口にすると、彼はふっと笑う。
「魔王との決戦を控えた頃。余が肌身離さず身につけておった、亡き母上より頂いた形見のネックレスが割れたのだ。それには対呪の付与がされておったが故、余程強い呪いを弾いた事はわかった。ただ、余は呪いにかかるような事など身に覚えもない。だからこそ、何故割れたのか不思議でおったのだが。暫くして、魔王軍との決戦の地で聖勇女達と話す機会があってな。お主の姿がない事が気になり尋ねてみれば、誰もそんな者は知らないという。しかも、今日も今日とてジャルを始め、お前の顔を知るはずの者が誰も驚きを見せなかった。つまり……そういう事なのであろう?」
……なんてこった。
呪いを弾くような
しかも、絆の女神の呪いは魔王の物と同じ位かなり強い呪い。それすら防いだネックレスって事は、よっぽどレアな
……ま。こうなると隠しても仕方ない、か。
「……確かにその通りです。申し訳ございません。形見のネックレスの件も、私の持つ呪いのせいかと……」
「構わぬ。物など何時かは壊れるものだ。それよりお主は何故、魔王との決戦におらんかった?」
「……聖勇女パーティーから、追放されたからです」
「あの聖勇女達がか?」
「はい。と言っても、理由はとても優しく思いやりのあるもの。酷い扱いを受けたなどではありませんのでご安心ください」
「そうか。まあ心優しきお主と共にあそこまで歩んできたのだ。確かに杞憂だろうな。ということは、あの件も彼女達は忘れておるのか?」
「……はい」
「勿体ない。あそこまでの漢気を見せたお主の事を忘れるとはな」
「ダラム王。すいませんが、その話はなかったことにしてください」
当時を思い出してか。国王らしからぬ悪戯っぽい笑みを見せたダラム王に、俺は気恥ずかしくなり頭を掻いた。
今考えても俺にとって、あれはちょっとした黒歴史だからな……。
§ § § § §
それは以前、聖勇女パーティーとして謁見の間でダラム王と面会した時のことだ。
当時は既に、聖勇女として冒険をしていたロミナ。
だからこそ、聖勇女パーティーとして魔王との決戦で力を借りるべく足を運んだ時だったんだけどさ。
「よくぞ参った。聖勇女ロミナよ。魔王軍との戦い、噂に聞いておるぞ」
「有難きお言葉、痛み入ります」
謁見の間でダラム王がそう彼女を褒め称えた時、並んでいた家臣の一人が、ぼそりと言ったんだ。
「なーにが聖勇女だ。女に何が出来るってんだ」
ってな。
その言葉に、瞬間謁見の間の空気が凍った。
けど、ロミナ達は誰一人頭を上げず、反論もしなかったんだけどさ。
「……タナト──」
「ふざけるな!」
俺は王がそいつを咎める前に、立ち上がってきっとそいつを睨んでやった。
当時の騎士団長の一人で、後で聞いたら元々腕はあるけど生意気な奴だったらしい。確か、タナトスって言ったっけ。
「お前みたいに城でぬくぬくとしてる奴に何がわかる! こいつらは今までだって表立って魔王軍と必死に戦ってきてるんだぞ!」
「カズト!」
正直、俺はあいつらの苦しみも頑張りも知ってたからな。だからそいつの言葉が許せなくって、ロミナの声も無視してすぐにブチ切れた。
今考えても、あの時は血の気が逸ったって反省してる。だけど、本気で許せなかったんだよ。
「どうせ聖剣を
「タナトス!」
ロミナや俺を小馬鹿にする奴を咎めるように、ダラム王が叫んだのと同時に。瞬間、俺は奴に斬りかかっていた。
あいつも騎士団長。きっとSランク位の実力はあっただろうし、だからこそ迷わず腰の剣を抜いて
ぶっちゃけ、あの時の俺は手加減しなかったのもあるけど、それまでの人生で、一番キレのある動きをしたと思う。
上半身を薙ぎ払おうと鞘から抜き振るった刀を、奴が受けようとした瞬間。
俺は一瞬で刀を戻し、改めて鎧の上から腹に峰の一刀を叩き込んだんだ。
抜刀術。
先手を取るように振るいし一閃を囮とし、相手が受けや合わせに回った瞬間に、その攻撃に対し
相手は俺を侮ってたからこそ、技を読み違ったんだろうな。
聖勇女パーティーにはCランクの武芸者がいるって話は有名だったし、仕方ないだろうけど。
その一閃で吹き飛んで、壁に叩きつけられ呻いた奴に対し、俺は強く叫んだ。
「俺の技なんて聖勇女に全く及ばない! そんな技すら止められないお前が、あいつらを馬鹿になんてするな! 大体お前がそこまで口にするなら、さっさと前線で魔王軍に挑んでみろよ! どれだけロミナ達が苦しんで、どれだけ辛い戦いをしてきたか。ちゃんと味わってから言えってんだ!」
ってな。
結局、タナトスは王の逆鱗に触れ、騎士団長から降格させられた挙句、そのまますぐ魔王軍の侵攻を止める連合軍の戦地に送られた。
その最初の戦いで魔王軍の幹部にやられて大怪我を負い、今は騎士団を除隊したって噂を聞いたけど、俺はそれ以上の事は知らないし、知る気もない。
俺はといえば、国王の前で酷い無礼を働いたはずなんだけど、ダラム王の恩赦によりお咎めはなかった。
とはいえ、謁見を終え部屋に戻った後は、ロミナ達全員から非難轟々だったけどな。
「カズト! 貴方は何処まで馬鹿なの!?」
「本当じゃぞ。いきなり王の前で刀を抜く不敬。普通、死罪に問われても可笑しくはない。そんな事も分からんのか!?」
「お前さー。あの王様じゃなかったら、あそこで首切られたって文句言えなかったんだぞ!」
「カズト。やっぱり馬鹿」
「皆の言う通りだよ。もうこんな事は絶対しちゃダメだからね!」
誰一人俺を擁護することはなく、ほんと口酸っぱく説教を受けたけど。
一応、これでもお前達の名誉を守りたかっただけなんだけどなぁ……。
§ § § § §
「しかし今思い返しても、あれは壮快だったな」
「いやいや国王。前にも言いましたけど、譲れぬ理由はあったとはいえ、あなたの家臣を斬りつけたんですよ!?」
「お。やっと口も軽くなってきたではないか。そうこなくってはな」
……ったく。
確かにあの時も俺、礼節が足りずこんな話し方になったけどさ。
しかし……まさかこんな形で覚えてもらえてるなんて。
ほんと。世の中不思議なもんだ。
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