第三話:皆の本音
「ミコラ。フィリーネ。誤魔化すでない。お主らもとっくにカズトを認めておるじゃろ。じゃから本音で話せ。でなければ、この話は本気でなしじゃ」
咎めるように口にされたルッテの言葉に、耳を垂れシュンッとしたミコラは、視線を落としたまま申し訳なさそうな顔で「ごめん……」と短く謝ってきた。
「俺は確かにお前の腕を疑ってた。Cランクだし、見た目に強そうにないし。何より自分からパーティーでマイナスになる事ばかり言ってたしさ……」
彼女はそこまで言うと顔をあげ、必死な顔を見せる。
「だけど、あの時必死にロミナを助けようとするお前に、俺は驚かされたんだ。お前の力でロミナがほんの少しだけ長生きできるって聞いた時、凄く嬉しかったんだ。そして、お前とならロミナを救えるんじゃないかって本気で思ったんだ! だから……頼む、カズト! 俺を連れて行ってくれ! 一緒に……一緒に! ロミナを助けてくれ!」
悔し涙を滲ませながら、ミコラが必死に頭を下げる。
……まったく。
お前は昔っからすぐ人を小馬鹿にする。だけど、本気で仲間を真っ直ぐに想う、熱い奴だったな。
本気でロミナを助けたいからこそ、俺の実力をすぐには信用できなかったんだろうし、生半可な相手で妥協なんてできなかったんだろ。
「……ごめんなさい。さっきの発言も、この間貴方をちゃんと知らずに傷つけた事も謝るわ」
視線を逸らしていたフィリーネもまた、少しだけ唇を噛んだ後、俺に申し訳なさげな瞳を向けてきた。
「ルッテには悪いけど、正直私も最初に会った時の貴方が、私達の力になれるなんて思えなかった。確かに一度は彼女を負かしたかもしれない。でもそれが
「我も信用されておらんかったとは……」
「ルッテ。貴方がちゃんと最初から、全てを話さないからでしょ」
茶々を入れたルッテに、フィリーネが呆れ声と共に白い目を向けたのだが。俺は彼女の言葉に思わず首を傾げた。
ん? 全てって何だ?
ルッテが知ってる事なんて、俺の武芸者としての実力と、俺が一人で最古龍ディアに挑もうとしてた位のもんじゃないか。
「ルッテ。どういう事だ?」
思わずそう問い掛けると、ルッテはやれやれと呆れた仕草を見せた。
「これでも最古龍の弟子じゃぞ。我が目を欺けると思うたか?」
……はっ? 嘘だろ!?
「お前、まさかあの時……」
「おお。気づいておったぞ。武芸者のお主が、よもや我が古龍術に抗う為、精霊術や聖術を重ねて使うとはの。流石に度肝を抜かれたわ」
……まじかよ。
あの後もさっぱり追及してこなかったから、てっきり気づかれてないと思ってたのに……。
「お主が何故その才能に目覚めたかなど、とやかくは聞かん。じゃがあの時のお主はきっと、腕前を知られたくなかったから誤魔化したんじゃろ。じゃからこそ、我もお主の秘めたる実力は伏せ、それでもどうにかフィリーネ達を説得し、仲間に引き入れようとしたんじゃが……。世の中そんなに甘くなかったわい」
「……気にするなって。気を遣ってくれてありがとな」
自然と俺の口から出た言葉の柔らかさに安堵したのか。ルッテは小さく笑みを返す。
「そういうわけで、私もミコラと同じで貴方の腕を信じられなかったわ。だけどあの日の夜、貴方が必死にロミナを解呪しようとした時、本当に驚かされたの。勿論、貴方が聖術と精霊術を駆使したのにも驚いたけれど。赤の他人である貴方が、命懸けでロミナに術を掛け、助けようとした事にね」
そう言うとフィリーネは、真剣な瞳を俺に向けた。
昔と同じ、本音を語る時に見せる誠実な瞳で。
「……はっきり言わせてもらうわ。私はその勇気を見たからこそ貴方を認め、ロミナの願いを聞き届けたの。キュリアすらできなかった、闇の文様を後退させた貴方となら、もしかしたら本当に奇跡を起こせるかもしれないと思ってね。ただ、初めて会った時にあれだけ酷い事を言ったでしょ? それなのに急に
すっと頭を下げるフィリーネ。
まあこいつも素直じゃないだけで、根が悪い奴じゃないのは知ってたからな。そんな事だろうと思ったよ。
「改めて頼む。どうか我等と共に、ディアに挑んではくれぬか」
ルッテが凛とした顔でそう言った後、頭を下げる。
……まったく。
本当にお前らって奴は、どこか癖があって。素直じゃなくて。だけど、本当に仲間想いだよな。
だからこそ、あんな風に別れられたんだ。
思わず顔が綻ぶ。
皆、誰一人変わってない事に。
変わったのなんて、俺がいるかいないか位なもんだ。
「……頭を上げてくれよ。Cランクの俺がLランクに頭下げられるなんて、むず痒くって仕方ない」
俺の言葉に、三人が頭を上げる。
「一応確認させてくれ。お前達は俺がまともな前衛かなんて、ルッテですらまともに見てないだろ。それでも信じられるのか?」
「そんなの構わねーって! 腕が足りなきゃ十日もあれば、俺が鍛え上げてやるからさ!」
俺の言葉にピンっと耳を立てたミコラが、急に元気を取り戻すと、ふさふさの腕に
「ルッテを驚かせた武芸者の技があって、ロミナに向けた術もある。聖勇女や魔術剣士のように前衛も後衛も任せられる時点で疑うつもりはないわ。ただ、ミコラに教わるのは止めなさい。この子は何時も手加減できなくって、戦士団でも鬼教官って呼ばれてるわよ」
「何だよー。あれはあいつらが根性ないだけだってー」
「誰かに物を教えるんじゃぞ。お前はもう少し頭を使って、手加減位せい」
「えー!? 面倒くせー。いいじゃん実戦でドーンバーンってやって鍛えりゃさー」
呆れ笑いを浮かべるフィリーネに対して愚痴ったミコラは、ルッテの言葉にもどこ吹く風。
両腕を頭の後ろに回し、あいつらしい本当に面倒臭そうな反応を見せた。
その能天気さに、部屋の空気が一気に和む。
ほんとお前らしいな。ミコラ。
だけど。
それだけじゃ連れて行けない。
「もうひとつ。お前らは恐ろしく強い魔王と戦って、恐怖を知ったはずだろ。そんな相手と同じ位の最古龍に挑むのは怖くないのか? 無理をしたって実力を発揮できずに終わるだけだ。それでも戦い抜く覚悟がないなら──」
「あーもう! 長ったらしーなー! 怖いに決まってるだろ!」
俺の会話に割り込んで面倒くさそうに肯定したミコラは、昔と同じ真剣な顔を向けてくる。
「だけど俺はロミナを助けたいんだよ。そしてCランクのお前に希望を見たんだよ。大体ランクの低いお前が覚悟してるのに、こっちがびびってるなんて許せる訳ねーじゃん」
……ったく。
ミコラ。それただの負けず嫌いだろ。
「そうね。貴方は確かに凄いわ。だけど私達だってこれでもLランク。見た実力は信用するし、恐れがあっても挑まなければならない戦いも知っているの。だから連れて行きなさい。私も、あの子を助けたいんだから」
……フィリーネ。
お前の決意した時の表情、変わらないな。
パーティーメンバーが不安になった時、ロミナは優しさを見せるけど、お前は憎まれ役になってでも発破掛けるタイプだったもんな。
「カズトよ。よもや忘れてはおらんじゃろうが……。お主、我に告白したであろう?」
「……はぁっ!?」
ルッテ!? 何言ってんだ!?
「欲しいのは我の笑顔じゃと言うたじゃろうに」
「あ、あのなぁ! あれはお前が辛気臭い顔してたからそう言っただけで、告白でもなんでもないからな! か、勝手に勘違いするなって!」
「そうじゃったのか。我は信じておったのに……。残念じゃのう……」
お、おい、お前なぁ。
本気で残念そうな顔するなよ……。
予想外過ぎるリアクションに困り頬を掻いていると、彼女はふっと笑った後、態度を改め凛とした表情を俺に向けてくる。
「ま、冗談はこれ位にするが。それでもお主には我を笑顔にする責任がある。そしてそれは、ロミナを助けてこそ本当に成せるのじゃ。我も出来る限り力を貸す。じゃから、また希望を見せてくれぬか?」
お前、また人を
お前は覚えてないだろうけどな。
散々昔っからこうやって弄られてる身にもなれってんだ。
……まあでも。あの時Cランクだって奇跡を起こせると豪語して、励ましたのは俺だしな。
だから、意地でも何とかしてやるさ。
「分かった。ただひとつだけ条件がある」
「何じゃ? 言うてみい」
「悪い。前も言ったけど、俺は連携が苦手だ。だから三人とパーティーは組まない。だけどできる限り前衛として機能してみせる。それでもいいか?」
Cランクの俺から提案された、
杞憂かと思いつつも、少しだけ不安な気持ちになったけど。三人は互いに一度顔を見合わせると。
「私は別に構わないわ」
「俺もいいぜ。いざとなったらちゃーんとこっちが合わせてやるよ」
「二人が良いなら何も言わん。お主が望むようにせい」
そう言って、三者三様に、俺に対して笑顔を返してきた。
「ありがとう。じゃあ決まりだ。これからよろしくな。ルッテ。ミコラ。フィリーネ」
「こちらこそ」
「おお! よろしくな!」
「よろしく頼むぞ」
俺は、三人の向けてくれた笑顔に、本当に感謝した。
本音を言えば、一人で本当は心細かったからな。
だからこそ、苦難の道だけど、もう一度だけこの仲間と旅が出来る喜びを感じながら、俺も笑い返してやる。
絶対にロミナも。こいつらも死なせない。
そんな決意を新たにして。
この日。
俺達はついに、新たなる旅立ちを迎えたんだ。
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