23-2 クロスオーバー〜マインド・ウォー
クロウが説明を続ける。
「『神様』。死神協会のルールで説明するよ。これは魔女や巫女と同じように、元は人の魂だ。けれど、僕らのようにひとりひとつの魂じゃない。いくつもの、幽体未満の魂が融合して出来たものなんだ。魂……心……祈り。人々の祈りが具現化したと言い換えて良い。だから、同じ祈りを持つ人々の願いを叶えたりすることが多い。人格も持つ。広義では、怪物の一種とも言える。遥かな昔から、日本には存在していた。死神協会が介入するまでは、表世界と裏世界の境界は曖昧だったからね。神様は人々の暮らしと共にあったし、妖怪の危険性もあった。神社は、実在した神様を奉っている場合も多いんだ」
「神様は、人々の祈りで力を増す。魔力なんだけど、魔力って言い方はしない。霊力とか、神通力とか。魔法じゃなくて巫女の奇跡、みたいにね。人々の精神力を糧に、その力をまた、人々の願いの成就で還元する。そういう日本独自のシステムが、古くからあったんだ」
「ここで、
「八神命は、自分を信奉する信者の人間……使徒を用意し、力を与えて、各地の幽世を襲い始めた。それに対抗する為に、夜風は動いていたんだ。八神命は用心深く、中々出てこない。時には数百年音沙汰が無かったりもしたらしい。隠れて動き、100年前にしたことが100年後に結果として表れて形勢が不利になったり。それを読んで、夜風は100年前から計画を進めて、100年後にまた結果を変えて。……そんな、気の遠くなるような『妖怪大将棋』を、1000年続けていた。『八神の使徒』に対抗して、『夜風の子』という人間の戦士を作ったりした。因みに、神藤襲音はこの『夜風の子』だ。彼女で最後になったけれどね」
「そんな戦いを続けていた、ある時。八神命の『精神を操る』能力が、最終的な進化を遂げる。異世界との交信を可能にしたんだ。精神は、時も距離も越える。その異世界こそが、イヴのやってきた異界。同じ地球なんだけど、『宇宙人』がやってきたという可能性の世界。その宇宙人――イヴの姉に、サブリナというラウム族が居た」
「同時に。こっちの世界にも、サブリナが居た。元カヴンメンバーだ。アンナ・アンドレオの契約者で、魔女。『幻の妖精』だ。サブリナは特別な魔法が使えた。それは、『異世界の自分と交信できる』という特殊なテレパシーの魔法だった。それを使って、異界のサブリナと繋がった」
「異界では、ラウムと人間と、もうひとつの種族であるアビスが戦争をしていた。こちらも、魔女なんかと同じように精神力をエネルギーにできるような、科学文明があった。その戦争を『
「こちらの世界のサブリナは、日本に居た。神藤襲音を『夜風の子』として鍛える為に、アンナが日本に来たからだ。サブリナは主であるアンナを追っていた。その過程で――。八神命と接触してしまった」
「異界の存在と、宇宙人サブリナを知った八神命は、人の精神を大規模に操れる装置を、異世界を跨いで共同開発した。どうにか、敵の精神だけを封印するような装置が作れないか、とな」
「その開発には、異界から数人、要人の協力者も居たらしい。各種族の王子や、王女など。彼らは『精神力をエネルギーとする文明』の封印装置を作り、マインド・ウォーを終わらせたかったんだ」
「装置は完成した。異界で容易く起動された。ラウムとアビスは、そこで一度絶滅した」
「その後、僕らの良く知る『天界戦争』が起こる。天界と死神協会は地球上から撤退した。表世界に残ったのは、荒れ果てた大地」
「異界にて、起動実験を成功させた八神命は、今度はこっちの世界で、自分達以外の『精神』……君らや僕ら全員を消す作戦に出た。装置の起動には特殊な魔力が大量に必要らしくてね。それを集めるために八神命は奔走して、夜風一派はどうにか食い止めようと暗躍していた」
「その最終段階。装置と八神命を守る『八神の使徒』との決戦に、僕らカヴンメンバーが呼ばれたって訳さ。八神命の根城には、誰も近付けなかった。強さは関係無かったんだ。ただ、彼女のように『人であり神であり妖怪である』存在しか辿り着けない空間に居た」
「使徒を全員倒して。その道が開いた。資格があるのはただひとり。この時の為に夜風が用意していた虎の子……『神藤黒音』こと、クローネ。彼女は生まれながらに、神と、人と、
✡✡✡
「……クローネは、使命を果たして、勝利した。ここに、1000年の『妖怪大将棋』は詰みとなった。八神命は消滅。装置は破壊。封印されていたラウムとアビスも、異界にて解放された」
「………………」
「……夜風は『満足』して成仏した。一派の殆どは、使徒との決戦で死亡、若しくは重傷。異界と繋がれる羅針盤だったサブリナも死亡したことで、イヴは帰るべき自分の異界に戻れなくなった。『異世界』というのは、ふたつだけじゃなくて無数にあるらしくてね。これで異界を巻き込んだ『妖怪戦争』は終わった。……僕からは、以上かな。補足があればどうぞ」
「…………」
クロウの説明が終わった。しばらく皆、情報処理に追われていた。沈黙が流れる。
「ふたつの世界は、どちらも『地球』だった。そして、天界戦争という『終末』も同じように訪れた。……パラレルワールドってことだな。宇宙人が来た『
「はい。空前の大罪人です。それが、日本という小さな世界で行われていたということも衝撃でした。けれど、私の目的は達成されました。サブリナを突き止め、その野望を阻止しました。これから私は、
ケイの、その例えに。イヴは頷いた。実姉を失ったが、嘆いてはいない。寧ろ、話を聞いた後に見ると清々しい表情にも見えた。
「興味があるぞ。イヴよ。わらわも協力しよう。それに、異界の宇宙科学にも興味がある。教えてくれるな?」
「はい。今度は出し惜しみなく。カヴンへ私の全てを還元します。イザベラ、これまで迷惑を掛けました」
レヴェリーナと協力の約束をして。イヴはイザベラへ頭を下げた。
これまで、異界の知識や技術について、イヴは出し渋っていた。イザベラも、それを訊かなかった。この件に関して、非協力的だったのだ。
「全然良いよ。イヴのタイミングで。いつか、こういう日が来るって思ってたから。お姉さんに会えて、良かったね」
「……はい」
イザベラは変わらず。
その愛を、惜しみなくイヴに注いだ。
✡✡✡
「あの」
「ん」
ひと息ついて。
ギンナが、手を挙げた。
「個人的で、カヴンには関係ないんだけど。……襲音ちゃんや、クローネちゃんは無事なのかな」
ギンナにとって、襲音は友人だ。クローネは、大切な友人の娘だ。シルクが預かっていた時に、よく面倒を見た。遊んだ。笑った。話した。
「襲音は、重傷だ。まだ動けないと思う。とんでもない相手と、戦ったからね」
「……そうなんだ」
「でも、生きてるよ。治ったら、また会える。クローネは、多分挨拶に来ると思うんだ。解散したけど、夜風一派の生き残りの、代表として」
「挨拶?」
「あの子、純粋な人間じゃないから成長が早くて。実年齢は11歳なんだけど、もう立派な女性だよ」
「そうなんだ。楽しみだ。成長してるんだ」
「ああ。びっくりするよギンナきっと」
「へえ……。あ、あとレオさんは?」
「ああ、彼も無事に帰って来てる。挨拶なら明日にでもしたら?」
「良かったあ」
クロウの返答に、期待を膨らませたギンナ。自然と口角が上がる。
「あ。ねえわたしも気になるんだけど、ユーリとアンナは戻ってこないの? ケイみたいに、またカヴンにさ」
そこで、イザベラも質問した。ケイが「あー……」と考える声を出した。
「分かんねえな。取り敢えずユーリは襲音に付いてねえといけねえし。アンナは……俺には全く分からん。あいつの考えなんざ。多分ふらふら世界中散歩でもするんじゃねえか?」
「うーん……。そっか。あんまり期待できない感じかな」
「組織に縛られんの、苦手っぽいしなあいつ。すまねえが」
「分かった。ありがとケイ」
「多分、襲音は夜風の後を継ぐつもりだ。つまり『さざなみ神社』を受け継ぐ。日本に定住するんじゃねえかな」
✡✡✡
「――さて。急な総会だけど、一応他にも議題はあるんだよね。一旦、採決するよ。クロウ達の『妖怪戦争』報告について」
――パン。
13人全員が、一拍。音は重なって、ひとつだけ。
ギンナが、その在職中に経験した、
『天界戦争』
『人類滅亡』
『惑星移住』
『怨霊災害』
『妖怪戦争』
特に巨大な5つの出来事が、終わった。彼女は殆ど、その渦中には無かったが。
間近で、それを見れた。この経験は彼女にとっても財産となるだろう。
「ほいで、次だね。レヴェリーナ?」
「あい分かった。ではわらわからの議題じゃ。……簡単な魔法を作動させる、『祈械』の新作じゃ。『
「おっ……。テレポーター! 魔女以外の死者とか人間も安価で自由に交通、流通できるようにする訳か。『どこでもドア』だな」
レヴェリーナからの、続いての議題。軍事ではなく、技術部としての報告だった。
「その通り。既に古い魔道具としては存在しておるがの。燃費も悪く大掛かりで数も少なく、貴族専用になっておった。巷ではワープ装置と呼ばれておるの。厳密には違うのじゃが……まあ、これが実用化すれば世界はもっと加速する。それら技術を牛耳るのは勿論わらわ達カヴン。……これはシャラーラ以後、第二の革命と言っても差し支えなかろう? わらわはシャラーラを越えたじゃろう?」
「すごーいレヴェリーナ!」
「ふふん」
どんどん。
変わっていく。流れていく。未来へ。
過去が、終わっていく。
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