10-8 考察の帰路〜Cross-cultural communication②
「(アンナ……って、私と同じ名前だ。それにユリスモールさんと……このふたりが、ケイさんの弟妹ってことか。それと、『人間』の神藤襲音さん……)」
ギンナ達も自己紹介をして。
8人で、邪魔にならないような脇道へとやってきた。
「『魔女』って、阿弥ちゃんとかみたいな?」
「いや、あいつは魔女の子孫、『
「へぇ……。海外にはそんなのも居るんだ」
襲音が、ケイへ質問する。彼女が思ったことと同じように、ギンナも思っていた。
「……『半魔半霊』とか『半神半魔』とかって、どういうことだろう。『死者の魂』じゃないのかな」
「あははー♪ 面白いよね。知ってる? お兄ちゃんは『半人半妖』なんだよ」
「わっ。えっと、アンナさん」
「アンで良いよ。もしくはアーニャでも。敬語要らないって〜。ギンナちゃん」
そのギンナへ、アンが絡みに行った。
「あたし達は3人とも異母きょうだいなんだよ。で、パパが魔王というか魔神というか。ユウ君のママが女神で、あたしのママが怨霊。で、お兄ちゃんのママが普通の人間。変わってるでしょ〜?」
「はい。……いや、うん。私達の知る、『第二世代』、でもないんだよね」
以前、ヴァルプルギスの夜にケイに似たようなことを訊いたことがある。この世界には、自分達の知らないことが沢山あるという回答だった。魔女や巫女、怪物などとは異なる『何か』があるのだ。
「そうだねえ。ギンナちゃん達の居る『裏世界』ってのは、死神が作った『
「……確かに。エトワールさんなんか『星海の姫』って」
「そうそう。あのヤンキーも『
アンがエトワールをヤンキーと言い切ったことに少し苦笑いをしたギンナ。
「でも、カヴンメンバーがこんなに日本に居るなんて。……確か『夜霧』? って人も日本の妖怪で、メンバーだったような」
「あはは。そうそう。ねえお兄ちゃん」
「ん」
「あたし達、カヴンメンバーが日本に偏ってるってさ」
「あー……そりゃ」
背後でシルクと話していたケイへ、アンが振り向いた。その質問への答えは、ケイとアンとユーリの3人がした。
「「襲音(ちゃん)のせいだな(だね)」」
「!」
そして、視線は襲音の元へ。
「…………は?」
本人はぽかんとした。
「お兄ちゃんはもともと日本に居て、夜風ちゃんの手引で襲音ちゃんと会って。あたしがそれから、襲音ちゃんの修行の為に呼ばれて。ユウ君は……なんだっけ」
「おい」
「あはは。その夜風ちゃんてのが、ギンナちゃんの言う『夜霧』の後継者ね。大妖怪。その、計画があってさ。襲音ちゃんを鍛えてるんだよ。3人掛かりで」
「…………はあ」
聞いてもよく分からない。ギンナもぽかんとしていると、襲音がううんと唸った。
「海外の人にどれくらい通じるか分かんないけど……私達今、陰陽師の学校に通っててさ。その修行だよ。夜風って妖怪は、何故か私を陰陽師にしたいらしい。まあ、命の恩人だから付き合ってるって感じかな。どんな計画かは詳しく知らない」
「陰陽師の、学校……」
「うん。伝わらないよな。良いよ別に、気にしなくて。それよりギンナ、ちゃん? の話も聞きたい。私は日本から海外に出たことないから」
「もっとやべえとこは行ってるけどなお前」
「ケイ。ややこしいことは言うな」
ギンナも唸った。話は半分程度しか飲み込めていない。なんとなく『別世界の話』程度に理解した。
✡✡✡
「じゃあ、私達はこれで」
「ああ。またな。……プラータの後継が話しやすい奴で良かった」
「あはは。……私も、ケイさん達と出会えて良かったです。また、ヴァルプルギスの夜に」
「おう。なんかあったら連絡するわ。滅亡とかな」
「はい。お願いします」
夕方。
結局8人で秋葉原を回った。アンやユーリと色々と情報交換をしていたユインは満足げだった。フランも初めての電気街観光で満足だ。シルクは少し、名残惜しそうだった。
「じゃーねー♪ Ciao♪」
「ちゃ、チャオ……」
「あはは」
来た時と同じように、箒2本をふたり乗りで。
裏世界の夕空に、彼女達は消えていった。
「すげ……。箒で飛んでる」
襲音がぽつりと呟いた。
✡✡✡
「……ふう。色々あったけど、当初の目的は全部達成したわね」
「うん。みんな、私の用事なのにありがとうね」
「なに言ってんの。借金は全員の問題よ」
「あー……うん」
ギンナの後ろに、ユイン。シルクの箒にはフランが乗っている。順番的に、最初はこの組み合わせであった。
「ギンナ。今日の、彼らのことはもう忘れて良いわ。『
「……分かった。まあごっちゃになるよね。襲音ちゃん、人間なのに凄い魔力を感じた。あんな子も居るんだね」
「……『世界は広い』ね。確かにそうかも」
恐らくは、日本だけではない。各国各地で、『死神のルール』外の世界があるのだろう。『裏世界』という呼称、概念すら、普遍的ではないのかもしれない。
「そんな、『色々あれこれごちゃまぜ』だからこそ、あのヴァルプルギスの夜で、あんなに色んな議題が出るんだね」
「『世界滅亡』に『中央銀行』に『人類移住計画』ね。……カヴンってのは、私達が思ってるより『世界の真相』に近いのかも。今度セレマにも色々訊いてみるわ」
「そんな組織の一角なんだ。ちょっと、気を引き締めないとね」
「そうね」
今回の来日でも、得るものは沢山あった。ギンナの両親に会うことと、クロウへお金を返す目的は果たした。そして。
「あっ。そうだユイン。私、魔女に成ってる?」
「…………」
元々は、ギンナの『魔女に成る条件』を満たす為に、両親に会うという話だった。生前の未練を完全に断ち切ることで、精神的変化を促すのだ。
が。
「……いや。まだあんたは『無垢の魂』のままよ」
「ええーっ。どうして?」
「知らないわよ。でも、遠ざかった訳じゃないわ。今成れなくても、今回の『両親』の件の解決は確実にあんたの『糧』となった筈よ」
「…………うん」
ギンナの『条件』は、ユインの予想ではふたつだ。『両親』と『クロウ』。
取り敢えず今回は、その前者をクリアした形となるだろう。
そして。
今回で『クロウ』の件が、顕著になったと言える。ギンナが彼を、意識し始めたからだ。
「あとね。言いなさいよあんた。誕生日とか」
「あー……。うん。いや、死んでるしさ。あんまり、どうしようかなって」
「……命日を祝う訳にもいかないでしょ。死んでも、あんたが生まれた日よ」
「…………うん。ありがとう」
「まあ、私もフランも、誕生日なんてイベントは生前無かったからピンと来ないかもしれないけどね」
「じゃあやろうよお誕生会。ユインはいつなの?」
「……3月よ」
「ええ! もう過ぎたじゃん! ユインこそ言わなかったじゃん!」
「…………言うタイミングなんて無いじゃない。自分から言うなんて」
「……多分全員そう思ってるよ」
「……そうね……」
クロウとは、また会うことになるだろう。借金を返すまでは取り敢えず、定期的に。それからは……。
ギンナ次第である。
✡✡✡
「あー楽しかった。また行きたいわね。日本」
シルク・フラン組。
名残惜しそうに、フランが眼下の町並みを見下ろしていた。
「また来れますよ。借金返済の為に」
「……嫌な理由ね」
「あはは。文字にするとそうですね」
「? 何よ」
「いえ。……ギンナにとっては、クロウに会う口実ですから」
「は?」
シルクは袴の為、箒を跨ぐではなく横に座っている。それでバランスを取れているのは、ひとえに彼女の努力の賜物だ。
フランの『は?』に対して振り向くことも。
「まあこの場合、クロウが、ギンナに会える口実と言いますかね」
「は? えっ? ……ちょ。え」
「どうしました?」
困惑するフラン。その言い方はまるで。
「あのふたりって……そうなの?」
「ふふ」
恐る恐る訊ねる。シルクはにやりと口角を上げた。フランをからかう時の表情だ。彼女は全て見透かしていた。何故なら魔女だからだ。
「まだ、ギンナの方は自覚してないかもしれませんけどね。クロウの視線は分かりやすい。それに、オークションでもそうですよ。わざわざ日本から遥々やってきて。助けるように買って。そして解放したんです。こちらが払うべきお金も随分と負けてくれて。返すのは『いつでも良い』と。利子も無し。……甘すぎやしませんか」
「……確かに。よく考えたら意味不明よね。ていうかそもそも自分が逃したからって、そんなに執着しないわよね。私の死神は殺したけど、あんた達の死神は何もコンタクト取ってこないじゃない」
「その通りです。ギンナとクロウ。このふたりだけ、異質なんです。『特別』なんですよ。関係が」
「…………そんな」
「クロウがギンナへ好意を抱いているなら、全ての辻褄が合います」
そんな話を聞けば。フランは焦る。何故なら彼女も、ギンナを好いているからだ。そしてそんなフランの心境も。
シルクは看破している。
「どうしますか?」
「……!」
おどけて、訊ねる。反応を楽しんでいるのだ。この魔女は。
「……どうって。ギンナが、もし」
「もし?」
「…………クロウを好きなら」
「なら?」
「うるさいシルク」
「あはは」
「…………応援、するしか、無いじゃない」
絞り出すように言った。分かっているのだ。自分が割って入れる訳が無いと。頭では理解している。
「そうですね。喜ばしいことだと思います。死者の魂同士の恋愛は、最終的にどうなるかは分かりませんが」
「……ジョナサンとエリザベスがそうよね、確か」
「はい」
思い浮かべたのは、そのふたりだ。エリザベスの方は、会ったことは無いが。あの魂買いの道具屋ジョナサンと、プラータの先代『銀の魔女』エリザベス。
ふたりは夫婦だった。ふたりとも、死者の魂であるが。
「子供はできないから、プラータやヴィヴィを買ったのよね」
「恐らくはそうでしょうね。『死にたて』の『無垢の魂』は死神に管理されてますから、中々手に入らないのだと思います」
「私達はプラータに拉致されたわ」
「それも考えたんですけど、多分ヴィヴィが死神でしたから、その伝手で死神に介入できたんじゃないかと」
「……死神とのパイプね。そうなると――」
思い、浮かべると。
いやに『お似合い』だった。フランは心の中で舌打ちをした。
「クロウとの繋がりは、持っておくべき、なのね」
「ま、それは副産物。死神と魔女でなくとも、ふたりは惹かれ合っていたのならロマンチックですよね」
ふん、と鼻を鳴らした。
「そうね」
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