第88話 魔界へ向かう

「……消えた」


 エド及び魔族兵の集団は転移魔法(テレポーテーション)で姿を消した。


「うむ、そのようだな。それよりエルフの王族達が心配であるが故に、城まで戻らぬか?」


 バハムートはそう提案した。ソルもクレアも転移魔法(テレポーテーション)の魔法スキルは習得してはいないがバハムートは習得していた。


 なのでバハムートに転移魔法(テレポーテーション)で王城まで連れて行って貰う事になる。


 三人はエルフ城へと向かった。


 ◇


 エルフ城の様子は悲惨であった。幾多ものエルフ兵達が倒れていた。


 何者かの襲撃があったのは間違いない。恐らくは魔人レイの襲撃であろう。エドが念話していた事を思い出す。


「一体、何があったんですか? エルフ王」


 何があったのかは既に想像がついている事ではあるが……。念の為、ソルは訊いた。


「うむ……魔人が現れたのだ。それでソフィアがその身に隠していた神の魔晶石(ゴッドクリスタル)を奪われた」


 苦々しい表情で、エルフ王は語る。


「やはり……故のあのエドワードとかいう男は撤退していったのであるな……」


 バハムートは語る。


 神の魔晶石(ゴッドクリスタル)を奪われた。奪われるのを防ぐのが目的ではあったのだが、もはや仕方あるまい。時間を巻き戻す事は流石にできないのだ。だから未来に向けて人は備えるより他にない。


「いかがする? 主人(マスター)よ」


「神の魔晶石(ゴッドクリスタル)を奪われない事が最善ではあったんだけど、奪われてしまった事を悔やんでも仕方がない。次の手を考えるより他にない」


「うむ……だったら取れる手は一つだ。我等も向かうとしよう、魔界に」


「……魔界か」


 今いるエルフ領は敵地ではない。だが、魔界は敵である魔族が統治している領域だ。完全なる敵地である。


 危険度は今よりも大幅に上昇する。だが、行かないわけにもいかなかった。この場で手をこまねいていても何の解決にもならない。


「エルフ王達……怪我の治療を手伝わなくてもよろしいですか?」


 ソルは訊いた。エルフ兵や王達は魔人レイの襲撃で傷ついている。だからソルはそれを労わったのだ。


「うむ……平気ではないが、命に別状はない。こちらはこちらで何とかしておく。だからそなた達は魔界に向かってくれ。あいつらが考えている事はろくでもない事だ。 神の魔晶石(ゴッドクリスタル)は天界を魔道砲で撃ち落とす為に使われる事だろう。それはきっと種族の枠を超えた、大きな戦争へと繋がっていく」


 魔道砲は強力ではあるが、一撃で天界にいる天使達を滅ぼせるとも思えない。憎しみの連鎖は続くだろう。それはきっと天使と魔族達の一大戦争へと発展していく。そしてその戦争は他種族と言えども無関係ではいられない。きっと人間達にもその火の粉は飛び散っていく事であろう。


「お願いします……ソル様。あなた達に世界の命運がかかっているのです。どうか我々の事は気にせずに魔界へと向かってください」


 ソフィアはそう頼んで来た。目が虚ろだ。外傷はないが、相当な精神的ダメージを負っているに違いない。


だが、そんな自分達を気遣うよりも成すべき事を成せと言っているのだ。


「だったら行こうか。クレア、バハムート。俺達は魔界に」


「うむ……そうするかの。更なる被害を防ぐためにはそれ以外あるまい」


「うん……エルフの人達を放っておくのは忍びないけど、仕方ないよね」


 こうして神の魔晶石(ゴッドクリスタル)が故に、三人は魔界へ向かう事になった。


 目的はひとつである、魔道砲の発射を阻止する事である。


 闘いの舞台は魔界へと移っていく。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る