第51話 第一回戦ロドリゲス
出場する選手——またの呼び方を闘技者には控室が割り当てられていた。そこで闘技者は待機及び準備をし、試合に出向くのである。
ソルもまたそこで試合の準備をしていた。自分の番はDブロックの1試合目。大体2時間後を予定している。出場する闘技者の合計は128名である。
試合時間にはかなりのバラつきがあったが、一試合当たり10分程度の時間を予定されていた。
「……ん?」
控室にバハムートが来ていた。
「どうだ? 主人(マスター)よ。調子は」
「別に……普通だけど」
「そうか……であったのならば問題ないな」
もうすぐ、ソルの試合時間であった。一回戦の相手はあの大男ロドリゲスであった。
「へっ! ついにこの時が来ちまったなっ! 坊主! てめぇの死刑執行の日だ! 死んでも恨むんじゃねぇぜ!」
ロドリゲスはソルを見下してくる。
「Dブロック第一試合の出場者、闘技ステージへ行ってください」
関係者に言われる。
「じゃあ、俺は先に行く。闘技ステージで待ってるぜ」
ロドリゲスは足早にステージへと向かう。
「対戦相手のあのでかいのはあまり気にする必要はない。あの仮面剣士と銀髪剣士の事をよく見ておけ。後は貴様の弟だ」
バハムートはそう助言する。
仮面剣士スカーレット。対戦表にはそう書いてあった。だが、ソルはその中身がクレアである事に気づいていた。
あの特別席にいるクレアは偽物だ。影武者だろう。出場する為に何者かに化けさせたのだ。
それから銀髪剣士。名前はレイと書いてあった。女性的な容姿ではあったが、恐らくは男性だろう。
それから義弟であるエドワード。
バハムートはこの三名を要注意人物と目していた。そしてそれについてはソルも概ね同意していた。この三名はソルより後の試合が予定されていた。
――ともかくそれよりも前に目の前の相手を何とかしなければならない。
ソルは闘技ステージへと向かった。
◇
会場には多くの人々が詰め寄せていた。そして熱気があった。
『さあ! これより始まりますのはDブロック第一試合!』
実況席のようなものがあった。実況席にいる女性の声が響く。音声を拡散する魔道具(アーティファクト)を使用しているようだ。その声は会場中に響いていた。
『まずはこの方! 巨漢の筋肉戦士! ロドリゲス選手の入場です!」
「ふんっ!」
ロドリゲスは露骨なアピールを始めた。どこから用意したのだろうか巨大な岩石を持ち上げた。そして、天高く放り投げる。
「はああああああああああああああああああああああああああああああ!
!」
ガン! そしてその大岩を拳で殴った。大岩が粉微塵になる。
観客席がどよめいた。
「へっ! どうよ! 俺の怪力(パワー)は!」
『おおっと! これは凄い力ですっ! ロドリゲス選手! 相手選手にプレッシャーを与えていきます! そう、勝負は試合前から始まっているのです!』
しかし、ソルは動揺していなかった。あの裏ダンジョンでの生活がソルを精神的にも強くしたのである。それはステータスにはならない強さであった。数字にはならない強さというものも世の中には確実に存在していた。
「ちっ……ビビってねぇのか。つまらねぇな」
ロドリゲスは吐き捨てる。
『そして、そのロドリゲス選手の対戦相手がこの方! ソル選手です!』
ソルの紹介が続く。だが、この時、既にソルは有名になっていたようだ。あのスキル継承の儀で『レベル0』という外れスキルを授かり、実家であるユグドラシル家を追い出された事は隣国であるフレースヴェルグにも伝わっていた。
そしてその噂の拡散力というものは想像していたものよりもずっと早く、広く伝わるものであった。
「『レベル0』のソルだ」
「ユグドラシル家を追い出されたんだろう? ……」
「てっきり死んだと思ってたぜ。生きていたのか……」
観客も騒めいていた。その会話の内容は良い内容は含まれていない。『レベル0』という外れスキルを授かった無能。それがソルに対する共通認識であった。
「へっ。覚悟しておけよ! 『レベル0』の無能野郎! この俺様の固有スキル『マスターマッスル』で粉砕してやるぜっ! 死んでも恨むなよ」
『さあ! 両者が激しい火花を散らしております! 果たしてこの巨体相手に『レベル0』のソル選手の勝機はあるのでしょうか!』
実況席からアナウンサー(実況者)の声が響く。
ゴン! 大きな鐘が鳴らされた。
『さあ! 試合開始です!』
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! やってやるぜぇ!」
斬馬刀を手にしたロドリゲスが襲い掛かかってくる。
第一試合であるロドリゲスとソルの闘いが始まった。
そしてソルに対する会場の評価は一瞬で一変してしまう事になるのであった。
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