最終章最終話『僕たちの旅はこれからだ!!』


 はぁ……旅ですか。なんで?



「いきなりで申し訳ないんだけどお願いできないかな? ボクが言うのもなんだけれど、今のところ君たちが元の世界に帰る手段は……ない……えと、うん。ない……よ? 少なくとも現状『ボクでは』帰らせてあげる事ができないんだ。 それでも君たちがきちんと帰れるように手を尽くすからお願いできないかな?」



 ん~~?

 なんか言い方が曖昧だなぁ。

 まるで僕たちが元の世界に帰れる手段に見当がついているかのような……そんな物言いだ。

 ただ、広河さん自身の力で僕たちを帰らせることが現状できないと言う部分は本当っぽかった。

 少し気になる事があるとすれば、『ボクでは』の部分を強調していたことと、彼女がちらちらとどこかを見ていた事くらいか。


 気になったので広河さんがちらちら視線を飛ばしていた方を横目に見てみる。そこには……




「………………」



 無言のままエルジットの傍に控えるセバスさんが居た。


 あぁ、なるほど。確かにこのスーパー執事ならなんとかできてしまいそうだ。なんたって戦いの神アレスさんだからね。



「それでどうかな? ボクと一緒に旅をしてくれないかな?」



「何か変なオプションついてきた!?」


 普通に旅をしてっていう依頼がいつの間にか広河さんと一緒に旅をしてッていう依頼になってるんだけど!? いや、まぁ別にいいんだけどさ。



「まぁ旅をするのはいいけど……何を求めて旅をするの? 失われた大秘宝でも探しに行くの? それとも七つの不思議なボールでも探しに行くの?」



「いや、そんなのないけど……」



「ですよねー」



 言ってみただけだ。そもそも失われた大秘宝なんて手に入れてもどうすればいいのか扱いに困る。七つのボールは……超欲しい。あったらビックリだけど。



「旅の目的は……少し申し訳なく思うんだけどボクの後始末だね。もうこの世界の行く先は確定した。みんなが自分の意思をもって生きていく世界。だから魔王を倒す必要なんてないし、勇者を新たに呼ぶ必要もない……でもね? 未だにこの世界に住む殆どの人間が自分の意思ではなく、ボクの設定に沿って動いているだけなんだ。そしてそれは今のボクにはどうすることも出来ない。どうにか出来るのは洒水君。君だけなんだ」



「あ、そのシチュエーション好き。僕にしか出来ないなら行くっきゃないね! さぁ、行こうか広河さん!」


 広河さんの手を取って部屋から外へと飛び出す。

 さぁ!! いざ新たな冒険の旅へ!!



「あわわ、ちょっ、ちょっと待って。まだ説明は終わってな……」



「二人だけの旅……仲良くなっていく二人……そして……させないよユーシャ! ユーシャが旅に出るなら幼馴染である私も連いていくに決まってるんだから! ね? セバス?」


「ご随意に。私はお嬢様の行くところなら地の果て世界の果て……次元を超えた未知の世界にまでもお供致します」


「そうと決まったら行くよ!」


「畏まりました」


 エルジットとセバスさんが僕と広河さんに続くように外へと飛び出す。


「おいおいずりぃぞ洒水! そんな旅なんて楽しそうじゃねぇか! 俺も一緒に行くぜ!」


 レンディアもドタドタと騒がしい足音を立てて外へと飛び出してくる。


「み、みんな元気だね……」



 僕の傍らで広河さんが呆れたように連中を見て呟く。



「いいじゃないか。それだけみんな今が楽しいって事だよ。ほら、広河さんももっと笑って笑って! そっちの方が魅力的だよ」



「はぅ!? と、突然何を言い出すのかな!? べ、別にボクが洒水くんと旅をしたいって言ったのはサポートが必要だとかそう思ったからで他に特に深い意味は……」



 ? 何を慌てているんだろう広河さんは? わたわたと手を動かしてまるで小動物みたい。例えるならリスかな? そう思うとなんだろう。なんていうか……



「かわいい」



「ほえ!?」



 あ、顔が一瞬で真っ赤になった。ちょっと面白いかも。



★ ★ ★


 続々と洒水に付いて行こうと部屋から出るメンバー達。その中で動こうとしなかったのはウェンディスとカヤだった。


「行かぬのか?」


 カヤはウェンディスが横になっているベッドに腰かけ、ウェンディスに尋ねる。


「迷惑でしょうから。私はここで兄さまを待つ愛らしい妹で居ようと思います。カヤさんこそ兄さまと一緒に行かないんですか? 魔王としての認識を変えるチャンスでしょう?」


 ウェンディスもカヤへと質問を返す。未だ世界に神様――広河子音の創った設定は残っている。つまり、今のままではカヤが魔王として恐れられる存在という事も何も変わっていない。

 それを変えるチャンスが来たというのに行かないのか? そうウェンディスはカヤへと尋ねている。


 それに答えるカヤの返答はとてもシンプルだった。


「ウェンディスが行かぬならな。童にとって初めて出来た女友達だ。一人っきりにはしておけん」


 ウェンディスが目を丸くしてカヤを見つめる。カヤはウェンディスと目を合わせないように外の景色を眺めていた。しかし、かすかに耳が赤くなっていたのをウェンディスは見逃さなかった。



「ふふっ。そうですか。ええ、そうですね。私にとってもカヤさんは初めての女友達で……初めての恋敵ですよ」



「ウェンディスと友達は良いのだが……恋敵と見られるのは怖いな。いつか刺されそうだ」



 笑い合うウェンディスとカヤ。二人はどんどんと遠くなる洒水達の影を見つめる。



「本当に行っちゃいますよ?」



「ウェンディスが行くというのなら行くが?」


「ふふっ、やれやれです。それじゃあ私たちは帰るとしましょうか。二人で兄さまの帰りを待つとしましょう。そうだ! 帰ってきたら三人でまぐわいませんか!?


 良いことを思いついた! と言わんばかりにウェンディスが手をポンと合わせてそんな事を言う。カヤはそんなウェンディスにため息をこぼしながら、


「お主は主様が居なくてもそんな調子なのだな……か、考えておく。」


 と、顔をかすかに赤くさせながら答えた。



「ふふっ、今から楽しみです」



 そして二人は外の洒水達を見る。追う訳でもなく、声をかけるわけでもない。ただただ、その遠ざかっていく背中が見えなくなるまで見つめていた。



★ ★ ★


「さぁいくよ洒水! 私たちの旅はこれからだよ!」


「待ってエルジット! それなんか打ち切りの漫画みたいなラストになってるよ!?」


「じゃあ他になんて言うの?」


 え? 他に? そうだなぁ。これから新たな旅が始まる訳だからここは……、


「僕達の旅は……これからだ!!」


「ダメじゃん!」


 うーん、難しいものだね。


「あの……そろそろ具体的に洒水君にやって欲しい事を言わせてもらってもいいかな? 旅はあくまで手段であってそれだけじゃ意味が無いというか……」


 広河さんは僕の袖を引いて先ほどの説明の続きをしようとしているけれど……そんな必要はないよね!


「僕にしか出来ない事をしに行くんでしょ? それだけ分かれば十分さ!」


「さっすが洒水。ぶれねぇなぁ。どこまでも付いて行くぜ!」


「男に言われても嬉しくないんだけど!?」


 そう言うセリフは出来れば女の子から言われたいものだ。少なくともレンディアに言われても嬉しくもなんともない。


「いや、あの、そんな行き当たりばったりで行かれても困るっていうか……」


「しいちゃん」


 そう言ってエルジットが広河さんの左肩を掴む。なんだかとても暗い表情だが何を言おうとしているんだろう? それにしいちゃんって……なんかすごいフレンドリーだけどいつの間にそんなに仲良くなったの?


「しいちゃんってボクの事? そんな風に呼ばれたの初めてだよ」


 どうやら合意の上で付けたあだ名じゃないみたいだ。


「うん。子音しいんさんだからしいちゃん。ダメ?」


「えっと……いいよ?」


「なんだかしいちゃん嬉しそう。そんなに気に入ってくれたの?」


「そ、そんな事よりっ! 一体ボクに何の用かな?」


 少し慌てた様子で広河さんがまくしたてる。ふむ、面白そうだし僕も今度『しいちゃん』って呼んでみようかな。


「あ、そうだった! しいちゃん、ユーシャに難しい話なんてしても伝わらないよ。ユーシャはゲームの説明書ですら最初の三行で放り投げちゃうくらいなんだから。ユーシャに何か難しいことを伝えるにはね? とにかく勇者に結び付けて説明するかしないの。勇者関連の話ならユーシャはちゃんと真剣に聞いてくれるから」


「なんていうか……勇者馬鹿って感じだね」


「え? しいちゃん今まで知らなかったの? ユーシャは生粋のおバカさんで、だからこそ中学生になっても変わらず勇者を目指してる痛々しい男の子なんだよ?」


「エルジットさぁん!! すこーーーしお話があるんだけどいいかなぁ!?」


 そんな風に思われていたなんて心外だ! 別に赤点ばっかり取ってたって訳でもないのになんでそんなに馬鹿にされなきゃいけないんだ! 馬鹿枠には既にレンディアが居るじゃないか!


「おいコラ洒水ぃぃ!! 今ぁ俺の事を馬鹿にしただろ!? だぁれが今世紀最大の馬鹿だゴラァ!!」


「勝手に僕の心を読まないでくれないかな!? いい加減怖いんだけど!?」



 そんなくだらない事を話しながら僕たちは歩いていく。誰に何と言われようとも僕は僕の勇者道を歩んでいく。そしていつの日か……誰からも認められる勇者になる。これからの旅はその為の旅だ。改めてもう一度言おう。



「僕たちの旅はこれからだ!!!」


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