第4章4話『危うく永眠するところだった……』


「……ん」



 朝か。


 いつの間に寝ていたのか。昨日は命絶え絶えで家に戻ってきたところまでしか覚えていない。そして家に戻ってベッドにバタンキューしたらほらいつも通り。体力・気力ともに回復して今僕はベッドの横に立っている。


 空を見上げれば紫色の雲。

 村の外を見渡してみれば荒れ果てた荒野。


 そして……僕のベッドで寝ているエルジットとウェンディス。



「…………なんで!?」



 ウェンディスはまぁいい。予想の範疇だ。放っておこう。

 問題はエルジットだ。なんでエルジットまでここに? これじゃあ昨夜何かがあったみたいじゃないか。

 そんなときだった。誰かが家の中に入ってきた。


「(スッ)おはようございます」


「あ、詰んだ」


 なんてタイミングなのだろうか。わが家へと入ってきたのは最早すべてが謎で包まれているジジイ、セバスさんである。彼からはエルジットには手を出すなと言われていたのだが……



「みゅー、ユーシャー。ダメだよそんな激しいのー。私、耐えられなくなっちゃうー。ぐー、すー」


「エルジット!? 寝言なのはわかってるんだけど黙っててくれない!?」


 彼女がここに居るだけでも僕の命の危機だというのに……。どれだけ地雷を踏みぬけば気が済むんだッ! その地雷で吹き飛ばされるのは僕なんだぞ!!



「いや、セバスさん! 違うんですよこれは! 僕はやましいことは決して」



「にゅー、兄さま~。兄さまのたくましくて素敵……すー」

  

「…………」


「やましい事は決して……なんですかな?」


「いや、もう何を言っても挽回は無理かなぁっていう気がしてきました」



 僕がどれだけ言い訳したところで二人の寝言が僕を追い込んでくるような気がする。これがウェンディスの言っていた世界の理不尽というやつなのだろうか。はは、ついに理不尽さんは僕を殺しに来たか。


 こんなのどうせいっちゅうねん……。


 そうして苦悩している僕の頭に手を乗せるセバスさん。


 はぁ、もう終わりか。



「そう心配しなくてもよろしいですよ洒水さん。何も言わなくてもキチンと分かっております。昨夜、お嬢様には手を出していないことは重々承知しているつもりですよ」


「へ?」


 予想外。殺られると思っていたのだが、優しく頭を撫でられている……だと!?


「重々承知してるって……なんで」


 それはつまり、純真である僕の事を信じてくれているっていう事で


「昨夜から今まで。洒水さんとお嬢様から目を離さなかったからですが?」


「……あぁ、そすか」


 僕の感動を返して欲しい。いや、どうせそんなオチだろうなと思ったからいいけどさ。


「いやはや。わたくしもまだまだですな。お嬢様が洒水さんの名前を十八回も連続で呼んだときは思わず手が出てしまいそうになりましたからな。はっはっは」


「は、はは、は」


 笑えないよ、怖いよ。危うく永眠するところだったじゃないか。

 しかしセバスさんが居るというのは丁度いい。



「セバスさん。僕、ちょっと外に出てくるんで二人をお願いしても良いですか?」


「畏まりました。どうぞ車にかれてきてください」


「この世界、車は走ってないから難しいかな」


 まったく……。言葉遣いは丁寧だというのに中身はなんて物騒なんだこの執事は。

 そうして僕はエルジットとウェンディスをセバスさんに任せて少し外に出た。


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