第4章 勇者と魔王と妹と

第4章1話『これが修羅場……って黙れぇ!!』



「あ、ユーシャ、見つけたーー!」



「エルジット!?」



 久しぶりに会うエルジットは乗ってきたクルーザーからぴょんっと飛び降りて僕の元へと走ってきて、



「会いたかったよー。ユーシャーーー!」



「どぐふ!?」

「「「む」」」 


 手加減も何もないエルジットのダイブに僕は押し倒され、


「大丈夫ユーシャ? 色々と失ったものとかない!? まだドーテイのまま?」


「いやいや何の心配してますのん!? そして童貞ちゃうわ!!」


 そこはケガが無いかとかの心配をするべきじゃないだろうか?

 しかし、エルジットには僕の答えが聞き捨てならないらしく、



「ドーテイじゃ……無い……それってホント!? 強がりとかじゃなくてホントなの!? 世間体も何も気にせず勇者になるって言い続けて周りから痛い子って思われてたあのユーシャがホントに!?」


「僕ってそんな風に思われてたの!?」


 色々と僕もショックなんだけど!?

 そうしてエルジットに肩をガクガクと揺さぶられている時だった。



「エルジット様……と申しましたか? 確か兄さまの幼馴染の女性ですよね? 初めまして。私、兄さまのいもうとけん、肉奴隷を務めているウェンディスと申します。以後、よろしくお願いいたします」



「外野は黙ってて……って肉奴隷!?」



 ウェンディスの事など気にせずに僕の肩を揺さぶり続けるエルジットだったが、やはり聞き逃せないのか。凄い勢いでウェンディスの方を振り向いていた。


「はい、そうです。毎日朝から晩まで兄さまに開発されて私はこんな変態となってしまったのです。あぁ、兄さま、なんと罪深い殿方なのでしょう」

 

「いや! ウェンディスが変態なのは元からだからね!? 勝手に僕のせいにしないでくれる!? そしてあらぬ事実を勝手に作り出さないでくれる!?」



 話がややこしくなるから黙っててほしいんだ!



「ユーシャは黙ってて!」

「え!? 僕が!?」



 なぜウェンディスじゃなくて僕が黙らないといけないの!? それっておかしくないかなぁ!?



「ちょっとそこのあなた!! さっきの話は本当なの!? あの奥手でヘタレのユーシャがそんな事するなんて信じられないよ!」



 さっきから僕の事を痛い子だのヘタレだのと……そうか。エルジットは僕の事をそんな風に見てたのかぁ。はは、おかしいな。目から汗が出てきたよ。



「もちろんです! 兄さまはもう既にあなたの知っている兄さまでは無いのです! そこの魔王(笑)で童貞を捨てた後に散々私を凌辱するというファインプレーを為す。いわゆるプレイボーイとなったのです!」


 

「謝って!? 今すぐ僕と全国のプレイボーイに謝って!?」



 チクショウ! こんなの黙ってなんていられるかぁ!



「そんな……私のユーシャが……。あ、セバス。うるさいからユーシャを黙らせといて」


「畏まりました。永遠にでもよろしいですか?」


「それは困るから一時間くらい黙らせといて」


「畏まりました」



 エルジットの指示に従って先ほどの執事服のおじいさんが動き出す。しかし執事服でセバスってそのまんまだなぁ。とはいえ、



「執事さんには悪いけど僕は黙る訳にはいかないんだ!! 大体執事さん如きが僕にかなう訳がなぁい!!」



 執事さんが何かをしてこようと僕は黙るもんかぁ! 僕は真正面に悠然と立つ執事さんを見て、



★ ★ ★


 解析……失敗。

 閲覧個体の名称含め、全て解析不能。

 技能:解析LVMAXでは解析できません。

 

 ※解析不能の原因は閲覧個体が上位者であるためと考えられます。



 名前 解析不能 年齢 解析不能 性別 解析不能 レベル:解析不能



 クラス:解析不能

 筋力:解析不能

 すばやさ:解析不能

 体力;解析不能

 かしこさ:解析不能

 運の良さ:解析不能

 魔力:解析不能

 防御:解析不能

 魔防:解析不能


 技能:解析不能


★ ★ ★


「…………………………………………………………………………なんか、色々とすみませんでした」



 僕は立ち向かう事を止めてその場で土下座した。

 勇者としてのプライド? 執事なんかに負けて悔しくないのかって? うるさい! 人間、ときには退くことも大事なんだよ!


「ふむ、私が何かをするまでもありませんでしたな。しかし、丁度いい。あなたには話があったのです。お嬢さま、彼と少し話したいのでここを離れますがよろしいですかな?」



 執事――もといセバスさんがエルジットへと話しかける。



「あなたがユーシャの初めての相手って本当なの!? しかもカヤって確か魔王じゃない。なんで勇者になる事をを夢見てるユーシャがあなたとくっつくの!?」


「いや、その」


「カヤさんとだけではありませんよ。兄さまは私にも手を出しているのですから。でも兄さまの体力の問題もあるのでこれ以上の女性とは付き合えないんでーす。だからエルジットさんの席はありませーん」



「そ、そんな事ないもん。ユーシャが勇者になる為とか言って無駄にトレーニングを続けてたの私知ってるもん。だから後一人か二人増えてもユーシャにとって問題ないはずだもん……じゃなくてあなた達が諦めたらいい話でしょ! 私とユーシャは子供のころから一緒なんだからね!!」



「過ごした年月と愛情の深さは関係ないですよーだ。兄さまが一番に愛しているのは私に決まってるじゃないですか! 私と兄さまがどれだけ激しく愛し合ったのか……カヤさん! この幼馴染という事しか取り柄のない方に教えて差し上げてください」


「いや、わ、童は、その」


「関係あるもん! ユーシャの事なら何でも知ってるもん! ユーシャの事を知れば知るほど、私はユーシャの事が好きになっていったんだから」


「兄さまからしたらあなたは幼馴染以外の何物でもないんですよーだ」





 執事さんの声に気づかず、どんどんヒートアップしていく女性陣達。まぁ主にヒートアップしているのはエルジットとウェンディスであって、カヤは完全に取り残されているみたいだけど。


「ふむ、どうやら聞こえていないようですね。ますます好都合です。少し離れるとしましょう」


「は、はぁ」


 僕に話したいことがあると言っていたが何だろうか?

 なんて事を考えていると頭をガシッと掴まれ、


「では少し離れますかな」


「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

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