第3章39話『賢者の時間』



 ごきげんよう、諸君!!


 いやぁ、良い朝だなぁ。

 まるで僕を祝福しているようじゃあないか。


 ん?

 僕が誰だか分からない?


 おいおい、勘弁してくれたまえよ。今までずっと僕は居ただろう? 洒水ですよ、豊友ほうゆう 洒水しゃすい。気軽に勇者と呼んでくれたまえ。


 なに? 今までと喋り方も雰囲気も違うだって?


 ふっ、まぁ無理もないかな。

 なにせ、僕はこの一夜で急成長を遂げてしまったのだからね!


 

 ところで君たち――――――なぜ戦争はなくならないと思う?


 僕はね、さっきからそんなことを考えているんだ。




 なんで人はみんな争うんだろう?

 みんながこの晴れやかな気持ちで居れば戦争どころか争いなんて起きないと思うんだ。みんなもそう思わないかい?

 そもそも――




「にーーーーいーーーーーさーーーーまーーーー! そろそろ戻ってきてください!!」



「だべるち!?」



 頬に走る痛みに現実に引き戻される僕の意識。



「しかし……兄さまもホント元気ですよねぇ。昨日あれだけしたのに朝にはもう回復してるとか……さすが兄さまです!!」



「貶すか褒めるかどっちかにしてくれない!?」



 僕に寄り添うように寝ているウェンディスの頭を軽く小突く。ウェンディスは幸せそうに僕の腕へとその貧相な胸を押し付けてくる。いつもの僕なら逃げ出していただろうけど、もうそんな事はしない。吹っ切れたとも言う。



 そう、昨夜……僕はカヤとウェンディスとの一線を越えた。


 想像していたよりもそれは気持ちよく、なんで忌避していたのか分からないくらい僕は夢中にさせられてしまった。まぁ、カヤには好き放題されてしまったけどそれはそれで良かった。


 一度してしまった後はもう頭が朦朧していたこともあって本能で動いてしまっていた感が否めない。ウェンディスに対しては蹂躙したいという僕の欲を思いっきりぶつけてしまったし被害者面は出来ないだろう。ウェンディスはそれを嬉しそうに受け入れてくれた。それどころか、あとでその事を謝ったら――



「むしろそこまで思っていただけて私は嬉しいです。私はいつでもどこでも誰が見ていても兄さまを受け入れるのでいつおっしゃって頂いても構いませんよ」



 と言ってくれた。こんな妹を持てて僕は幸せ者だ!



「ってんなわけあるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」



「きゃっ、兄さま、どうしたんですか?」



 いやいや何が本能で動いてしまっただよ!? 理性を持てよ僕! これじゃただのケダモノじゃないか!! 昨夜の僕出てこい! 正気に戻るまでその面ボコボコに殴ってやるぁ!!

 そもそも昨夜の僕はどうかしていたんじゃないのか!? こんな誰が通るかも分からない荒野のど真ん中で何をやってるの!? 馬鹿なの!? 死ぬの!?



「「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」」



「おや、この声はカヤさん?」




 僕のうめき声とは別にカヤのうめき声も聞こえてきた。僕はその声のした方向を見るとそこには全裸のカヤが居て、彼女もこちらを見つめていた。そしてその顔は次第に赤に染まり、



「み、み、み、見るにゃ戯けぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」



「ゴハァッ」



 その辺にあった石を僕へと投げつけてきた。な、ナイスシュート……。



★ ★ ★


「…………」

「♪~~♪~~」

「…………」



 各々がきちんと服を着て、一息ついた後。そこに流れるのはウェンディスの鼻歌のみだった。それを除けば沈黙だけがこの場にはある。

 ちなみに服を着たといっても、僕に関してだけはカヤに着替えを手伝ってもらった。と言うよりも丸投げだ。なぜか僕自身が服を着ようとしてもうまくいかないのだ。これも装備の付け外しが出来るのは武器屋のみという法則が働いているからだろう。その証拠にカヤはたどたどしい手つきではあったが僕の着替えという任を遂行してくれた。



「主様……その……昨日のは違うのだ」



 最初に口を開いたのはカヤだった。彼女は恥ずかしそうに自らの体を抱きしめる。しかしそうか。僕は昨日あの体に弄ばれたんだよなぁ。外見年齢が明らかに僕より幼い子とそういう事をしたこともそうなんだけど、なんていうか背徳感がやばいなぁ。



「主様ぁっ!! 思い出しているであろう!? 昨夜の事を思い出しているだろう!? 忘れろ! いや、忘れてくれぇ!! あれは童ではないのだぁ! あんな理性の飛んだ女はウェンディスだけで十分だ! 昨夜の童はおかしくなっていたのだぁ!!」



「うん、そうだね。昨日はみんなおかしくなっていたね。わかるわかる」



「そうですよ! 恥ずかしがる事なんかありませんカヤさん! それだけ兄さまと私たちの相性が良かったっていう事ですよ! 私なんておかしくなりすぎて何度意識を失いかけた事か……それを兄さまは構わず……(ポッ)」



「だぁかぁらぁ!! そうではないのだ! いや、確かに童も意識を失いそうなほど良かったし、事実途中で意識を手放してしまったが……ってだからちがぁう! あれは童じゃない! 童ではないのだぁ!!」



 ガンガンと激しい音を立ててカヤは自らの頭を地面へと叩きつけ続ける。ふむ、どこかで見た光景だ。まぁそれは置いておいて、



「まぁまぁ落ち着いて。さっきから自分じゃないって言ってるけどどういうこと?」



「そう! 昨夜のは童ではない! いや、厳密にいえば童なのだが昨夜の童は少しおかしくなっていたのだ。主様の血を飲んでからと言うもの、頭がぽわーっとして、それなのに全能感に支配されてあんな理性もかなぐり捨てた言動・行為の数々を……ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」



 そこまで言うとカヤは頭を抱えていやいやとそこらを転げまわる。おっと何なのこのかわいい生き物? お持ち帰り出来ますか?



「ふむ、なるほど。つまり」



 ウェンディスは人差し指をぴんと立てて、



「昨夜のカヤさんこそが理性を捨てた真っ正直な状態のカヤさんと。そういう認識でよろしいですか?」



「……もう生きていけない! さらばだ主様! また来世で会おう!」



「早まらないで!? っていうかウェンディスさん!? いきなりとどめ刺さないで頂けません!?」



 あれだけ昨日の自分自身を恥じているカヤにそんな事を言ったらこうなるなんて事、想像できるでしょ!?



「あら、ごめんなさい。しかしいけませんね。カヤさんに死なれては困るのは私も一緒だというのに。この状態のカヤさんを目の前にするとどうしても弄りたくなってしまうんですよね」



「あー、それはなんとなくわかる気がする」



 昨夜が特殊なだけで、基本カヤは弄られキャラだからなぁ。



「おぬしら本当に童を慰める気があるのか!? そもそも、あれは主様が悪い!」



 なぜかこっちに飛び火した。何故だ。



「主様以外の血は知らぬがあれだけ美味いなんて……油断したらまた飲みたくなってしまうであろうが! どうしてくれる!?」



「知るかぁ!!」



 僕から飲んでくださいと言ったわけでもないのに責任なんて取れるかぁ!!



「まぁまぁ、兄さまもカヤさんも落ち着いてください。それよりも早く帰りましょう。兄さまの匂いに包まれているのは私にとって至福ですけれどさすがにこの状態で村の人たちに見られるわけにはいかないでしょう?」



「ぐっぬぅ、まぁ一理ある。童も体中べとべとしていて気持ち悪い……どこかで水浴びでもしたいものだ……」



 ああ、そうか。昨夜はみんな気を失うまでハッスルしてたからこの場に居る誰もがまだお風呂に入っていないのか。つまり、ウェンディスやカヤは昨夜のままで……だめだ。ついつい想像してしまう。




「あら、兄さま? もしかして想像しちゃいましたか? どんどん元気になってるじゃないですか。しょうがないですねぇ。カヤさん。兄さまの服を脱がすのを手伝ってください」



「イヤだ!! まったく、主様は盛りのついた猿か!? 男と言うのは始めてを迎えてから積極的になると聞いたことはあるがそれにしても少しは節操というものをだな――」



「僕はまだ何も言ってないんですけどぉ!?」



 そうやってギャーギャーと騒ぎながら、僕たちは村へと向かった。


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