第2章 私が勇者!?
第2章1話『ユーシャとの出会い』
前書き
※この章は基本、エルジット視点で物語が進みます。
★ ★ ★
時は
「僕が行ったらエルジットはピアノの稽古に集中できないでしょ? また別の日ならいいからさ」
「むーーー。わかったよう」
ユーシャを私の家に誘ってみたが、やはりダメだった。
なぜかユーシャは私の家に来たがらない。昔、一度だけ私の家にユーシャを迎えたが、その時からずっとだ。その時、何かあったのだろうか?
そんな事を考えていたら、ユーシャの家の前までたどり着いていた。
私の家はここから歩いて5分くらいのところだ。
でも、私は今日のこの時間を……ユーシャと一緒に居られる時間がもっと欲しい。
「それじゃあまた明日ね。エルジット」
「うん。お邪魔しまーす!!」
「待てい!!」
ユーシャの家にお邪魔しようとするが、手を掴まれて止められてしまう。
ユーシャの手、大きいなぁ。昔はもっと小さくて可愛らしい手だったのに、今ではこんなに男らしい手になっちゃって。もっと触れていたいな。
「もう、ユーシャ……まだお外なのに恥ずかしいよ……」
「何勘違いされそうな事言ってるの? 今日は僕の家ダメだって言ったよねぇ!? 帰って! 今日は帰って! ゴーホーム!!」
「ゴーホーム? 行け! お家へ! ってことね? じゃあ遠慮なくお邪魔しまーす!」
「ちっがーーーう!! 帰れ! って言ってるんだよ!? イギリス生まれだから僕よりも英語分かるはずだよねぇ!?」
「日本人の発音って聞き取りづらくて……」
「聞こえてたよね!? ちゃんとゴーホームって聞こえてたよね!? ほら。家の人も待ってるだろうから早く帰りなさい!」
ちぇ、残念。
「はーい」
私は名残惜しいと感じながら、ユーシャの手を離し、自分の家へと帰っていった。
★ ★ ★
「なあんてね!! 私がおとなしく家でピアノの練習なんていう退屈な時間を過ごすとでも? 過ごさないに決まっているじゃあないの!」
私は家に一旦帰ると、今日来る予定の先生の断りの電話を入れて、自室へと戻りユーシャの家に行く用意を始める。
「お嬢様」
そんな時、部屋のドアをノックする音とともにセバスの声が聞こえる。
「ん? セバス? いいよ~。入って~」
「失礼します」
私の許可を得たセバスが部屋へと入ってくる。
セバス・チャン
昔から私の家に仕える執事だ。
年齢は不明。白いひげを生やしたお爺ちゃんだけど、筋肉も程よくついており私はセバスが争いで負けたところを見たことがない。
年齢が不明と言うのは、実はこのセバス、私が物心ついたころからこの外見なのだ。何歳なのか聞いてもはぐらかされるばかり。
身長は2メートルを超える巨漢であり、常に執事服を
これだけ聞くと怪しさ満点のお爺ちゃんだけれど、セバスは私が物心つくまえから私の面倒を見てくれていた。少なくとも私にとってはこれ以上ないというくらい頼もしい存在であり、家族のようなものだった。
「どうしたの?」
「お嬢様。本日の
「そうだけど?」
「また……ですか……。いえ、聞いただけです。それで帰りはいつ頃になりますか?」
「いつも通り」
「いつも通りと言うと……何時に帰るか分からないという事でよろしいですか?」
「うん」
「かしこまりました。しかし、お嬢様。男の家に泊まることだけはこのセバス、承服できかねますぞ?」
「分かってるよ。用はそれだけ? ならもういいでしょ?」
「……ええ、
1礼してセバスは私の部屋から出ていく。
「ハァ」
私はベッドへと突っ伏すように寝転ぶ。
「キツイ事言っちゃってごめんなさい、セバス」
私は聞こえないだろうけど、セバスへと謝る。
本来、私とセバスはあんな冷え切った会話を交わすような仲じゃない。
しかし、話題にユーシャが絡むと話は別だ。
セバスは口にこそ出さないけれど、私とユーシャが遊ぶことを快く思っていない。
セバスは過保護が過ぎるのだ。
私がこの国に来たのは小学1年生の頃。まだ日本語にも慣れていなくて周りの日本人ともうまくしゃべることが出来なかった。
そんな私が悪い意味で注目を浴びることは必然だったのかもしれない。
特に私の外見は日本人とは大きく異なっている。その時クラスでも金髪だったのは、私だけだったと思う。
「こいつ髪そめてやがるぜー。ふりょーだふりょー」
そんな風に学校に入ったばかりの私の髪を馬鹿にして、引っ張って遊んでいたのは誰だったか。
遊んでいる方はいいかもしれないが、遊ばれている方の私はたまったものじゃない。なんでこんなことをするのかと――こんなこと止めてと叫んだ。しかし、
男の子はそれに対してあのとき何と言っていたか? その時は理解できなかったし、よく覚えていない。
私が覚えているのは、私の髪を引っ張ってイヤらしい笑みを浮かべる男の子と、それと同じ笑みを浮かべる何人かの男の子。そして、遠巻きに見ているだけの男子や女子たちだった。
誰も助けてくれない。日本人なんて……日本なんて大嫌い。
そう思っていた時だった。
「止めろよ!!」
そう言って私の髪を引っ張っていた男の子の顔面を殴った男の子。
「いってぇな!! 何すんだよ!」
「それは君たちの方でしょ!? 寄ってたかってか弱い女の子を虐めるなんて許される事じゃあない! 憎むべき悪だよ!!」
今にして思えば少し厨二っぽいセリフだけれど、私にはその時の彼が眩しく見えた。
「おい、こいつ”勇者”だぜ」
「あー、聞いたことがある。こいつがあの”勇者”か。現実とゲームの違いも判らず暴走してる痛い奴だろ?」
「うるさい! 悪に身を染めた君たちに言われてもまったく響かない! いくぞぉ!!」
そう言って”ユーシャ”と言われた男の子は私をイヤらしい目で見ていた男の子たちにその拳を向ける。
「現実とゲームの違いを教えてやるよ!」
私を虐めていた男の子たちは”ユーシャ”と呼ばれていた男の子を取り囲み、がら空きの背中を蹴って、足をすくい、正直”ユーシャ”の惨敗だった。数人の男の子が”ユーシャ”の手足を押さえて”ユーシャ”は身動きできない状態になった。
「ほらほら。”勇者”なら悪に負けてちゃダメだろ? 現実が分かった、か!」
そう言って最初に”ユーシャ”に顔を殴られた男の子がお返しと言わんばかりに”ユーシャ”の顔を殴り返す。しかし、
「ガゥッ」
「いってぇぇぇぇぇぇぇ!!」
その拳を受けてなお、”ユーシャ”はその反抗的な態度を改めなかった。
逆に拳を喰らってすぐに、その拳へとかぶりついたのだ。
「離せよぉ! 犬かよお前はぁ!!」
「ふんぐぅっ」
「いあっだだだだだだだだ。痛い。痛いって!」
殴った方の男の子は、”ユーシャ”の噛みつき攻撃を引きはがして後退した。
「か弱い女の子を虐めるような悪は許さない! 勇者は悪に屈しない!
謝れよ! 痛い思いをさせてごめんなさいってその子に謝れよ! そうしたら僕は君たちを許してやってもいいよ!!」
手足を封じられ、身動きが取れない状態であっても”ユーシャ”と呼ばれる男の子は反抗的な態度を改めなかった。
それどころか、虐めていた女の子に対して謝れと男の子たちに要求すらしている。
「いててて、こいつ……
「カルラ君。こんな奴ほっとこうよ! 関わっても良いことないよ!」
”ユーシャ”を抑えている男の子の内の1人が”ユーシャ”に手を噛まれてその手を擦っている男の子へと言う。どうやらこの男の子たちのグループのリーダーは彼であり、カルラと言うらしい。
「そうだな……行こうぜ! みんな!」
「「「「「うん」」」」」
カルラ君がそう言って
「待てよ!! まだ謝っていないじゃないか!! 逃げるのか!?」
「うるさいなぁ!! ボコられたりないのか!?」
「カ、カルラ君。もう謝っとこうよ。僕もうこんな奴と関わるのごめんだよ」
私を虐めていた男の子たちは内でひそひそと話し合うと、私へと向き直り、
「「「「「「ごめんなさい」」」」」」
心が全くこもっていないような謝罪をしてきた。
もちろん、そんな謝罪をされて嬉しいわけがない。
「よし!!」
「え!?」
驚いたのは私を庇ってくれた男の子がそんな謝罪を良しとしたことだった。
どう聞いても今のは本気で謝ってないよ? 大丈夫?
そうして私を虐めていた男の子たちは教室から出ていった。
「ようし! 悪は去った! 正義は勝つ!」
ボロボロな状態になりながらも、”ユーシャ”と呼ばれていた男の子は満足そうだった。
ガッツポーズで決め台詞らしき物を決めた彼は、
「大丈夫? 安心して! 悪は去ったから!」
私へと手を差し伸ばしてくれた。
「あ、ありがと」
「お礼なんて要らないよ! 悪を倒すのは勇者の役目なんだから!」
「ユーシャ?」
先ほどから”ユーシャ”とは何のことだろう? 男の子たちもこの人の事を”ユーシャ”と呼んでいたけれど……。
「え!? 勇者を知らないの!? ほら、ゲームとかに出てくる悪い奴を倒す勇敢なナイトの事だよ!」
「悪い人を倒す? 警察ってこと?」
「違うよ! うーん、どう伝えればいいかなぁ」
「ご、ごめんなさい。私、イギリスから来たばかりで日本の言葉にまだ慣れていなくて……」
「めっちゃ慣れてますやん!?」
「え? めっちゃ?」
「あー、なるほど。方言とかそこらへんが曖昧なのか~。勇者って言葉を英語に直すと……うーんと」
男の子は腕を組んで何かを考えだす。いったい何を考えてるんだろう?
「勇者っていうのはヒーローの事だよ!」
「ヒーロー? あの空を飛んだりする?」
「うーん、空を飛ぶとは限らないけど……まぁ勇者も空飛んだりするから似たようなものなのかなぁ?」
「ヒーロー……」
「ヒーローじゃなくて勇者ね。はい! ゆ・う・しゃ!」
「ゆ・ユーシャ」
「よし!」
何がよしなのだろう?
それでもその男の子の顔は明るすぎるくらい笑顔で……見てて微笑ましくなった。
「それでなんであんな悪に絡まれていたの? もしかして身代金目的で誘拐されそうになってたりとか?」
「いや、そんなのじゃないけど……」
どうからどう見ても誘拐と間違える要素なんて無かったと思うんだけど……。
「それじゃあ君が昔、魔王を封印した7賢者の末裔の1人とかでその封印を解くために
「どういう発想!?」
所々理解できない単語があったけど、彼が突拍子の無い事を言ってることだけは分かった。
「私があの子たちに絡まれてたのは……その……私の髪がみんなと違うから……」
「神? GOD?」
「ヘアー!!」
なんでここで神様が出てくるの!? 私がどこかの修道女にでも見えるの!?
「ヘアー? ああ、髪ね。髪が違うとなんで悪が騒ぐの?」
「なんでって……」
「可愛いじゃん! どっかのお姫様みたい!」
「お姫さま!?」
「うん! 好きだよ」
「好き!?」
え!? いきなり告白なんて困るんだけど!
でもでも、そんな悪い人じゃなさそうだし、友達からなら……。
「うん、好きだよ! その髪の色!」
……あぁ、そっちね……。
「?? どうしたの? さっきから飛び上がったりガックリしたり」
「なんでもないよ……」
「ふーん、そう言えば君の名前はなんて言うの?」
「私はエルジット。エルジット・デスデヴィア」
「エルジットエルジットデスデヴィア?」
「エルジット・デスデヴィア!」
「エルジットか。よろしくね! エルジット!」
「う、うん。ところであなたの名前は?」
「僕? 僕はもう名乗ってるじゃないか」
名乗ってる? 彼が名乗ってる名前って言うと……、
「ユーシャ?」
「うん! 僕の名前は
「ユーシャ……」
それが私とユーシャの出会いだった。
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