第61話 ヨンとレイのゴールデンウイーク
「なぁ、連休中はずっと一緒にレイの部屋で寝るだろう。これを機にレイの部屋に移りたいんだけど」
ゴールデンウイーク初日、朝食後の散歩でヨンはレイと二人きりになるとすぐに切り出した。
「平日も一緒に寝るってこと?」
「毎日ずっと一緒に寝るってこと。どうだ?」
「じぁ、ゴールデンウィークは掃除と引っ越しだね。一階のクローゼットも整理すればヨンの分も入るし」
「俺の使ってた部屋の家具はそのままでいいよな?」
「うん。下の部屋の本棚もクローゼットも余裕があるし、私は家で仕事することないから、こだわりがないなら机も私のを使って。片づけておくから」
「そうするかな。俺はもともと荷物が少ないしすぐに終わるな。移動するのはニイとイチがいない時にやろう。絶対からかわれるから」
ヨンは連休中ずっとレイの部屋で寝起するつもりだ。ニイもイチも当然そうするものだと思っている。
長い休みの後、平日もそのままヨンがレイの部屋で寝起きしても誰もが抵抗なく受け入れるだろう。
「ヨン、一緒の部屋になることで一つだけお願いがある」
「何だ?」ヨンは少し緊張した。
「喧嘩して気まずくなっても二階の部屋に逃げないで。私も逃げないから」
「わかった。約束する。逃げ場がないと仲直りも早くできそうだな」
「ヨンは何かある?」
ヨンは緊張を解いて一気に言った。
「二人だけで歩く時は手を繋ぎたい。起きた時と寝る前はキスがしたい。休日の朝はベッドの中でまったりと過ごしたい。いい雰囲気になった時はセックスがしたい」
レイは思わず笑ってしまった。
「笑いごとじゃない。切実なお願いだ」
「お願いってより希望だよね。でも、わかった」
まだ笑っているレイを見ながらヨンは「俺が休日の朝、どれだけ我慢しているか知らないだろう」と心の中で訴えた。
ヨンとレイのゴールデンウイークは掃除とヨンの一階への引っ越しに決まった。
「まずは、障子紙の張り替えからだな」
家に着くとヨンが穴の空いた障子を見て言った。
引き戸を障子にしてからこれで三度目の張り替えになる。最初に比べると穴の数は減っていたが、右端の縦一列は見事に穴が開いていた。
家にいたイチにも手伝ってもらい、レイの部屋の引き戸の破れた障子を綺麗に取っているとミータがレイに擦り寄ってきた。
「今から張り替えるけど、派手に破かないでよ」
レイは甘えるミータを抱きかかえ言い聞かせる
三人とも綺麗な状態が一週間保てればいい方だと、半ば諦め期待はしてなかった。
それでもミータが通れるようにと今回も一番下の段は障子紙を張らずにおいた。
レイは自分の部屋に入りクローゼットの扉を開いた。
三畳ほどの空間は十分すぎるほど服をかけるスペースがある。足元はローキャビネ風のダンスがあり服をかけるポールの上は棚になっている。もともとヨンもレイも物が少ない方だし、十分に入る。ただスペースがあると広げてしまうのだ。レイは黙々と整理し始めた。
ヨンも自分の部屋に戻り片付けを始めた。レイの部屋のベッドが大きくてよかった。ばあばがベッドから落ちないようにとダブルベッドにしたらしい。家具を動かす必要がないのは楽だった。
基本的に服だけだな。それもニイほど服が多い訳ではない。すぐに終わりそうだと目処をつけた。
実家では一人の部屋を与えられたことがない。男同士だと縄張り争いをしてしまうのか、よく兄弟ケンカをしていた。二段ベットの寝るスペースだけが自分の居場所のような気がしていた。
レイの部屋で寝るようになった時、自分の部屋ではないのに、実家で兄や弟と一緒の部屋の時に感じていた居心地の悪さがなかった。むしろレイの部屋は自分の部屋のように落ち着くし居心地がいいのだ。
この部屋は初めてできた自分だけの部屋だだった。もちろん愛着もあるがレイと一緒にいられることの方が嬉しかった。
とりあえず、明日の着替えだけを持ってレイの部屋に入って何気なく写真が貼ってある壁を見た。
そう言えば、二人で撮った写真がない。そう思った時、目に入ったのは電車のボックスシートで自分がレイと寄り添って寝ている写真だった。
「イチのやつ。心臓に悪いじゃないか」
ヨンは思わず口に出して言っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます