第55話 旅行のあと
京都二日目。
ヨンとレイは宇治川の運河沿いを十石舟でのんびりと巡り、酒蔵を見学した。
船から街並みを見るのも風情がある。坂本龍馬ゆかりの寺田屋も通るので歴史好きのヨンはテンションが上がっていた。
水の美味しいところで美味しい酒ができるというように、この川沿いには酒蔵が建ち並んでいる。昔の酒蔵や酒造りを見学した。
着替えはホテルから家に送ったので、身軽だ。酒蔵で酒を買い、みんなへのお土産にした。
明日から仕事と言うこともあり早めに家路に着いた。
レイとヨンが家に入るとイチとミータが走って玄関まで出迎えた。
夕食に京都で買ってきた鯖寿司や穴子寿司を並べるとニイは野菜炒めとサラダを作ってくれていた。
「ニイの料理はすごく久々だよな」
ヨンが野菜炒めを自分の皿に大量に取り分けた。
「昨日は舞ちゃんが餃子を作って来てくれたんだ」イチは嬉しそうに報告する。
「だから、俺が作った料理も褒めてくれ。褒められて伸びるタイプなのに」
「じぁ、今週末は舞を呼んで鍋にしない?みんなであれを飲もう」
ニイの言葉は軽く流されて、レイは京都で買ってきた一升瓶を指さした。
「酒豪が三人いても一升瓶だったら足りるよね」イチが朗らかに言った。
「どっちでやるか」ニイがリビングとダイニングを見比べている。
「鍋だからテーブルがいいな。上の部屋から椅子を持ってきて、テーブルを壁から離せば、あと二人はいける」
ヨンが断言した。
「舞ちゃんに連絡するね」
イチはすぐに舞子にメールを送っていた。
*******
次の週の土曜日夕方、舞はやってきた。
「連絡してくれたら、荷物持ったのに」
イチは舞子から手土産の苺を受け取った。
今、この家にはイチしかいなかった。
ニイは夕食には戻ると言って午前中から葵とのランチにいそいそと出かけて家にいない。
ヨンとレイは三時ごろ散歩に出て、まだ戻ってきていなかった。
イチは舞子が来るとわかるとすぐに土曜午後のバイトを変わってもらって、舞子が来るのを待っていたのだ。
「みんなもうすぐ帰って来るから待ってて」
イチは淹れたてのコーヒーを舞子に渡した。
舞子がソファーに座るとミータが膝にのってきた。
しばらくしてヨンとレイが帰ってきたがミータは舞子の膝から動かない。
「ミータも美人が好きなのか」
レイがミータの耳を撫でると肯定するように「ミャー」と鳴いた。
舞子はレイとヨンが付き合っていると聞いてから二人が一緒にいるところを初めて見た。今までと雰囲気は全く変わらなかった。手を繋いでいなかったら付き合っているとは思わないだろう。これだからヨンの両親にも気付かれないのだと納得した。
夕食の準備が終わったころニイも帰って来た。
「うちの鍋奉行が帰って来たから食うか」
ニイが鍋の中に野菜を入れ始めるのを見てヨンが京都で買った一升瓶を冷蔵庫から出した。
「京都ラブラブデートはどうだった?」舞子は春菊を美味しそうに食べた。
「鞍馬も良かったし鴨も食べれたし、楽しかったよ。次回は鞍馬寺に行くのはケーブルカーじゃなくて山の中を歩きたい。雪が残ってて歩けなかったんだ。それと伏見稲荷も行きたい」レイは日本酒を舐めるように飲みながら言う。
「鞍馬寺は山の中にあるだろう。下山した後、次に伏見稲荷に行くかって聞かれた時は思わず勘弁してくれと言ったんだ」ヨンがすかさず言う。
「伏見稲荷も小高い山だよね。全部歩くと最低3時間はみておかないと。最短コースでも45分は坂道を歩くよ」イチは行ったことがあるのか詳しい。
「それはデートじゃなくて修行じゃないか。普通のデートをしろ」ニイは鍋に野菜を入れたりとせわしないく動きながらも会話に参加した。
「普通のデートね。東寺までの散歩も楽しかったよ」レイはヨンを見る。
「鞍馬に行った翌日、レイは朝7時過ぎに散歩に行くって既に着替えてたんだ」
舞子はヨンに同情の眼差しを向けた。
「二人きりの旅行なのに全然ロマンティックじゃない」イチは笑ったが、ニイは「レイと付き合ったら普通の男だと疲労で倒れるな」と呟いた。
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