第37話 クリスマス・イブ の続き

 イチは舞子に指定された場所に来てドアを開けるか一瞬躊躇した。


 イチは半ば断られることを覚悟してクリスマス・イブの夜、舞子を食事に誘った。正直に「失恋後のクリスマスに一人でいたくないから、もし予定がなかったら食事に付き合って下さい」とメールした。すると、会社のクリスマス会に一緒にでるかと言われ、のこのこと来てしまった。


 そこは赤坂にある結婚式でも使われそうな宴会場だった。

 社員の家族が参加しているので子供連れの人もいる。イチは人の合間を通って舞子を探す。一度帰って着替えてきて本当に良かったと自分の姿が浮いてないかを確認した。


 舞子は舞子と同じぐらいの年齢の男女数人と談笑していた。

 イチは声をかけようかやはり躊躇する。レイたちのようにはいかないなと少し離れた場所で舞子を見ていた。

 舞子は白いVネックのセーターに紺のパンツとオフィスカジュアル姿だったが相変わらす綺麗だった。


 「カズくん」舞子がイチに気付き側に来てくれ、イチはホッとする。

 「舞ちゃん、図々しく来ちゃったけど良かったのかな?」

 「大人1名、子供2名までなら誰を連れてきていいから大丈夫よ」

 「そういう意味じゃなくて視線が痛い」

 「あー、恋人とか言われるかもね。弟って言う?」舞子は意に介していない。

 「舞ちゃんの迷惑なるなら弟になるけど」

 「迷惑じゃないから。ビンゴ大会が終わったら抜け出そう。それまで好きなものだけ飲んで食べとこう」

 舞子はイチをビュッフェのテーブルに連れて行った。


 壁際のハイテーブルを確保すると、イチは舞子の分も飲み物を取って急いで戻って来た。

 「お洒落してきたね」舞子はイチの服装をチェックしてジャケットの胸ポケットに自分の青いハンカチを入れてくれた。

 「こういうのは初めてだから服装に気を使った。ハンカチ、使って大丈夫?」

 「予備の分だから大丈夫」

 

 会場ではビンゴ大会が始まろうとしていた。

 イチと舞子にビンゴのカードを配りに来た男性社員が二人を見る。

 「彼氏とペアルック?」

 イチは改めて自分と舞子の服装を見た。そう言われれば白のセーターはVかタートルネックかの違いで、パンツも同じ紺色だ。

 「本当だ。ペアルックです」舞子はそう答え、イチに「うちら凄くない?」と笑ってみせた。


 舞子の会社の人達はイチとの関係を面倒向かって聞く人はいなかった。遠巻きに見てるか、やってきては探りを入れる程度だ。

 「鬱陶しいから、場所変えて飲み直すか」とうとう舞子がキレた。

 「舞ちゃん、カッコイイ」イチは思わず賞賛した。

 ビンゴ大会が続いている中、二人は会場を抜け出した。


 せっかくだからと、クリスマスのイルミネーションを見に六本木ミッドタウンまで足を伸ばす。


 六本木ミッドタウンは想像以上にイルミネーションが煌びやかで幻想的だった。同じようにイルミネーションを楽しむカップルに混じって、イチと舞子はゴールドの光の下を歩く。


 イチは舞子が喜んでる表情から目が離せなくなった。舞子にレイには感じたことのない女性を感じ動揺した。


 舞子が急に走りだす。

 「舞ちゃん、危ないから走らないで」

 イチは舞子に追いつくと舞子が木を指さした。

 「ねぇ、見て」

 舞子が指した先にプレゼントがなるクリスマスツリーがあった。

 「凄いね」イチは思わず口を開け上を見上げていた。

 視線を感じ舞子を見る。

 「さっき、私を年寄り扱いしたでしょう!」

 「してないよ。いつ?」

 「走ると危ないって」

 「だってコケそうで心配なんだもん」

 「それが年寄り扱いだって。そりゃカズくんとは8歳違うから年寄りだけどさ。レイのことも心配するの?」

 「いや。レイは体力、運動神経とも普通じゃない。ニイからバケモノって言われるぐらいだから」

 「私が運動音痴だって言いたいの?」

 「そう言う訳じゃなくて普通だと思っている。ただ心配なだけ」

 イチは舞子の絡みにタジタジになりながらいい訳をする。

 舞子をを見ると笑っていた。からかわれていただけだと安心した。

 「お持ちします。ほら、今日は俺がご馳走するから機嫌を直して」

 イチは舞子の鞄を持って子犬のように舞子に纏わりついた。

 






 

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