第27話 体力の秋

 11月最初の土曜日の昼過ぎに4人は東京近郊にある自然体験型アスレチック施設にいた。

 先日ニイが持っていたチケットはここのものだった。専用のハーネスを付け森の木々の間を空中移動していく。自然の中で大人でも楽しめる施設だ。

 「ニイがアクティブなものを選ぶなんて珍しいね。最近、忙しくてテニスもしてないのに」

 イチがニイとヨンに軍手を渡す。レイは念入りにストレッチをしていた。

 「会社で貰ったんだ。最近運動不足だし、こういうのもいいだろう」

 4人は施設の従業員の説明を聞き、練習コースを難なくこなす。ヨンは日頃から運動しているが、ニイ、イチ、レイも高校までは運動部に所属していて運動にも体力にも自信があった。


 半分をこなしたところでニイが根を上げた。

 「いざ本場になると、さすがにきついな。腕がパンパンだ」

 「運動不足のニイは辛そうだね」

 後ろからイチが声をかけてきた。

 「俺は大丈夫だから、レイを見てやってくれ」

 「レイにはヨンがいるから大丈夫だよ」

 少し休憩できる足場に来るとニイとイチは前にいるヨンとレイを見る。2人は息を切らすことなく動く丸太の上を歩いていた。

 「次は簡単そうだよ」

 「イチはまだ若いし筋力も落ちてないから簡単かもしれないが。見た目とは違うと思うぞ。あいつらバケモノだな」

 簡単そうに見えて実際は体幹がしっかりしていないと丸太が揺れに揺れた。ニイとイチが最後のアドベンチャーに着いた時、ヨンとレイは待っていてくれた。

 「ヨンとイチはこのくらい楽勝だと思ったが、レイがそんなにできるとは思わなかった」

 「私も定期的にスパークリングとしてるし最近ピラティスを始めたんだよ」

 レイはドヤ顔だ。レイはダイエットとストレス発散のため日頃から家にあるサンドバッグでスパークリングやストレッチを欠かさない。

 「やっぱりお前たち二人揃ったら怖すぎるぞ」

 ニイはヨンとレイに向かって言い、すでに筋肉痛になりそうな自分の両足に気合を入れるために叩いた。

 

 最後のアドベンチャーはこの施設最大の売りで、ハーネスで約500メートルの傾斜を降りて行くものだ。足がつかないし、見晴らしが良いだけに結構な恐怖心を煽る。順番を待っている間、怖がる女性客が多かった。

 ニイは筋力を使わないだけ楽ができると喜んだ。ここに来て初めて4人の中で一番目に出発した。

 ニイは着地地点も無事終わり3人を待っていると、イチもヨンも何事もないように降りてきた。でも、レイがなかなか降りてこない。

 「遅いね。まさか、ビビってるんじゃないよね?」

 イチが訝しげに思っていると、ハーネスから手を離し、両手を広げて満面の笑みのレイが3人の前を通り過ぎて行った。着地も完璧だった。

 「一番の男前はレイだよな」ニイは称賛を通り越して呆れた声だった。

 

 「せっかくだから、鰻食べて帰ろう!」

 ハーネスを取ったニイは意外と元気だった。早い晩ご飯だったが、施設の人に教えてもらった有名だという鰻屋に行った。鰻が焼き上げるまで時間がかかるというので、鰻の肝やお新香をつまみに瓶ビールを4人で分けあった。

 四人ともお腹が膨れ、身体を動かした後のアルコールだ。帰りの電車で四人掛けのボックス席に座ると直ぐに全員寝落ちした。

 イチは途中で目を覚ました。前の席にレイとヨンが寄り添って寝ていた。イチは思わず写真を撮った。


 翌日、ニイは全身筋肉痛でベッドから這い降りた。

 レイはいないが、イチとヨンがリビングで湿布を貼りあっていた。

 「二人も筋肉痛で安心した」

 「日頃鍛えてないところを使ったから、俺もイチも上半身がパンパンだ」

 ヨンはイチの右手腕に湿布を貼り終えた。

 「レイは?」ニイはヨンを見る。

 「俺はさっき起きたとこだ」ヨンは胡坐をかいた膝の上にミータをのせる。

 「さっき猫やぐらを手作りするって毛糸を買いに行った」イチが答える。

 「レイが一番のバケモノだな。俺も少し見習って運動しないとな」

 

 「貼ってあげるから」イチが湿布を持っている。ニイはトレーナーを脱いで背中を向けて座った。

 「皮膚が見ないぐらい全体的に貼ってくれ!」

 イチとヨンが笑った。




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