167 標25話 あたしって、ほんとバカ。ですわ 1


 あたしの家は日本橋と言っても本当の日本橋ではない。

 東の方だ。

 近くには少し歩くとアニメやらおもちゃ屋やら電気製品で有名な街がある。

 地元の人間にとっては誰でも知っている有名な話だけれども、ここって結構有名な街道が通っている。

 子供の頃は遥か遠くに感じていた電器の街も今では歩いていたらたどり着く距離だ。

 そもそも電車の駅だってあるし、その手前にはメトロ……つまり地下鉄の駅だってある。

 眠らない街とかって表現のあるらしいけれども、あたしの実家はまさに眠らない街にある。

 もう、横道にでもそれない限り街灯はてかてか照らしているし自動車はびゅんびゅん走っている。

 真夜中に女の子が一人で出歩いてもまったく危険を感じない。

 それがあたしの住む日本橋!……の東だ。


 んで、新聞のテレビ欄をチェックし終えたあたしはチャンネルを換える気にもなれず、テレビを見る。

 駄目だね、デジタル化の弊害だ!……のかな?

 どのチャンネルのどの時間帯もあたしの知っている番組ばかりだ。

 ま、テレビなんて大きなデジタル時計だよね。

 スクリーンセーバー代わりにサウンド付きの動画を流しているようなもんだ。

 朝、一番重要な情報は現在時刻!……異論は認めない。

 人によっては交通情報を重要視する人は多いらしいけれど、これって結局は遅刻の問題だから優先順位は現在時刻に負けるんだよね。


 電車もなー。

 国鉄時代からJRへと駆け抜けた激動の時代。

 定刻到着、定刻発車を守り抜いてきたんだけれども山形だっけ?……2005年の羽越本線。

 なんか強風にあおられて一両当たり自重49トン強の特急6両編成が全車両脱線。

 うち3両が転覆。

 あー、こりゃ駄目だ。車体が重くても意味がない。

 強風対策で重量至上主義を貫いてきた鉄道会社はこの事故以降、簡単に運行中止を行なうようになったんだって。

 あたしの生まれる前の話だから聞きかじりだけどパパが言っていたんだからこれには間違いないよ。

 雪国とかだと、この事故以降は大雪でもついでに簡単に運行中止になるようになったんだってさ。


 変わらないのは帰宅時間帯の東京都内中央線かなー。……昔から凄いんだって!

 これもパパ情報だけど、本当に心の底から他人の迷惑は考えて欲しいらしい。

 またかよー、またかよー、またかよー、またかよー。

 30分強で運行を再開するJRの特殊処理班には脱帽しますとか。

 宇都宮線だと一件で1時間は掛かるんだと。

 駅に着いたら隣のホームに止まっている電車とホームの隙間にブルーシートが掛かっているのって嫌なものらしいけれど、ついつい目を向けちゃうんだってさ。

 お寺の説法で一番人気は地獄についてらしいから、人間ってのは怖いものが好きなんだよね。


「そだ。ママ。これ、宿泊費。今回は6泊7日で滞在7日間だから21万円」

「サヤカ。気にしなくてもいいのよ?」

「どっちみち余所よそのホテルに泊まったら同じくらい掛かるんだからいいよ。観光するよりパパの顔を見ている方が楽しいし、外食するよりママのご飯を食べた方が美味しいから」

「そう?じゃあ、あとでパパに見せておくわね」

「うん」


 どこの誰もが知らないけれど、やった誰もが知っている仕送りの具体的な意外な効果!

 なんと!

 親にお金を渡すと、ちまたで良く聞く「ちゃんとご飯を食べているかい?」の台詞を親に言われる事がありません!

 わー!拍手ーっ!パチパチパチパチパチパチパチパチパチー!


 あたしは今、小学時代からの友人四人組でルームシェアして住んでいるんだけど、この『仕送り』はその内の一人である彩音に聞いた裏技だったりする。

 なんでも彩音は先に家を出たお姉さんに教えてもらったとの事だ。

 話によると親は仕送りをしてくる自分の子供がご飯を食べていないとは考えないものらしい。

 ついでに言うと、元気できちんと働いているとも考えるとの事だ。

 それもそうだよね。

 子供に仕送りする親じゃあるまいし、自分がご飯を食べずに子供が親に仕送りするとか普通は考えない。

 はーん。いい事聞いちゃったと実践してみたらこれがどんぴしゃ。

 世の中そんなもんだよね。


 あたし・あいサヤカと木林彩音、遠藤優華、粕田美苗の四人組は結構気が合うのか仲良くやっている。

 話が合うのは当然だけど、一番大きいのは趣味が四人ともまったく違うと言うのが強みだ。

 食費のあたし、酒盛りの彩音、イベントの優華、交通費の美苗。

 昔あたしが彩音に「旅行先で値段の書いていないクラブによく飲みに入れるね?」って聞いた時の事だ。

 「値段の書いていない寿司屋に入るあんたには言われたくない!」って返された。


「いや、店構えを見たら値段は分かるでしょ?」

「わたしは入った事がなくてもクラブの値段なら分かるけれど、寿司屋の値段は無理」

「どう考えても寿司屋の方が安いよ?」

「あんたが覚悟して入る寿司屋ってわたしの通っているクラブよりも高いって知ってる?」

「それは四人分で計算するからでしょ?」

「わたしだって酒代は四人分出しています!」


 とか、結局堂々巡りになっちゃうんだよね。

 結論として触れず触らずが四人の暗黙のルールになったんだけれども、未だに良く分からない事がある。

 どうして三人とも店構えだけで寿司屋の値段が分からないんだろう?

 高いお店ってオーラとかじゃなくて妖気があるよね?絶対……入っちゃ駄目って言うか、そんな恐怖感。

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