166 標24話 夜中の夜明けですわ 12


 月明かりの無い星空の下で、まだジュエリア四姉妹の三女マッドジュエリアを名乗るゴーレムとナリアムカラの闘いは続いていました。

 二本の逆刃刀を使うマッドジュエリアに対し、ナリアムカラは拾い上げた錫杖しゃくじょうで迎え打ちます。

 聖女の肩書きを持ちながらも杖術じょうじゅつの使い手でもあるナリアムカラは武術においても達人です。

 しかしながら未来から来たと自己紹介するゴーレムにとってはこれも織り込み済みの情報です。

 自身の攻撃がまったく届かないナリアムカラは舌を巻いて、すべらせます。


「やりますね、マッドジュエリア。くっ!」

「そりゃそうよ。我が偉大なる創造主のお言葉によれば、ジュエリアの名を持つ者は防御において無敵らしいから」

「そ!う言う情報は聞きたくありませんで、した!」

「わたしもあんたがここまで使えるとは思っていなかったわよ、イスカンダルさん」

「は!イスカンダルは私の前世の名前です。今はバオラと呼んでく!ださい」

「それは申し訳なかったわね、黎明れいめい聖騎士イスカンダルさん」


 涼しい顔で剣を振るい続けるマッドジュエリアを相手にナリアムカラは奮闘を続けます。

 マッドジュエリアが振るう二本の逆刃刀。

 ゴーレムは生物ではないゆえに成長がありません。

 けれど失策も行ないません。

 ナリアムカラにとって敵との会話は自身の不利を隠すための戦術です。

 そんな苦戦を続ける日輪聖女の頭上でメッセージ・サークレットの目が輝きます。


『イスカンダル?ナリアムカラ、貴女は本当にサーシャの生まれ変わりなのですか⁉』

「あ。テリトリー・ディスペルがタイム・アップしたんだ」

「親愛なるメッセージ。お久し振りです」


 そうだ、メッセージ。久し振りだな。

 ナリアムカラは頭上のサークレットに話し掛けます。


『しかし先日、貴女はオーロラの事を知らないと言われました』

「貴女たち三人が義姉妹の契りを結んでいる事は本当に知りませんでした。ですから話を聞いて驚いた事は事実です」

「ファイヤー・アロー」


 テリトリー・ディスペル『マジック』の効果終了に気付いたマッドジュエリアはナリアムカラ目掛けて魔法術で攻撃します。

 ですがそれは錫杖しゃくじょうに付与されているシールドで防御されます。


「ヤ!シュ!」


 続いてマッドジュエリアは物理攻撃に出ます。

 ルーンジュエリアが得意とする長さ三十センチメートル、太さ三ミリメートルのコロニーと呼ぶ細い棒をシュートでぶつける戦術です。

 ナリアムカラは飛んでくる複数のコロニーを、回転させた錫杖しゃくじょうで叩き落します。


「ヤ!シュ!ヤ!シュ!」

「念力」

「ち!これは、」


 マッドジュエリアはナリアムカラの頬が震えるのを見落としませんでした。

 そのつぶやきはマッドジュエリアが放ったコロニー群を自分の目前の空中に静止させます。

 コロニーはナリアムカラを中心に水平で浮かぶと反時計回りに彼女の周りを回転し、胸の前へ移動すると次々にマッドジュエリア目掛けて飛び返って行きます。

 これをマッドジュエリアは両手につかんだ逆刃刀で交互に叩き落します。


(そか。こいつ、回転ミサイルが得意技だったっけ)


 矢や玉を飛ばせば相手に弾を与えるだけだと気付いたマッドジュエリアが作ったほんの一瞬の隙。

 それをナリアムカラは見逃しません。

 右手に持った錫杖しゃくじょうを掲げて魔法術を唱えます。


「偉大なるソラのちからたる輝きよ、光を超えて我を救え、我が道をふさぐ全てを消滅せよ、タキオン・ボール!」

「わー!」


 ナリアムカラの持つ錫杖しゃくじょう上部に付く日輪の装飾の前に光の玉が現われます。

 と思ったら、それはマッドジュエリアの顔の横を通り過ぎていました。

 無意識に思いついて横に飛び退いていなかったら顔面直撃だったかな。わたしがゴーレムでなきゃ、こめかみからひとしずくの汗が流れているシーンね。

 飛び退いた拍子で横目だけでにらんでいたマッドジュエリアは、その顔を相手に向けます。

 すると彼女は笑顔を浮かべていました。


「残念。はずしましたか」

「そうだ、あんた、火炎直撃砲も使えるんだったっけ。忘れてた忘れてた」

「火炎直撃砲?その名前は知りませんがタキオン・ボールの存在は知っているようですね。これを初見でかわせる筈がありません」

「それには同意だわ。あれは初見だと絶対にかわせない」

「未来から来たゴーレム。どうやら信じない訳にはいきませんね。貴女は知りすぎている」

「お構いなく。信じられる方が普通じゃないから」

「では、これもご存知ですか?」


 ナリアムカラは胸に飾り直した太陽の花リンダのドライフラワーに指を掛けます。

 それを見たマッドジュエリアは焦った様に後ろへ飛び退き、右手のひらで相手を制止します。


「え、ビッグファイヤ!

 待って、待った!選手交代を申請します!」

「選手交代?ここに、ほかに誰かいると言うのですか?」

「いるんでしょ、ファイヤースターターさん!ここまで誘い出したんだから、あとはお願いね!」

「ファイヤースターター?」

「忠告するわファイヤースターターさん!この女はメギド・フレアを神聖属性と光属性で重ね掛けしてくるから気をつけてね!ワープ」


 マッドジュエリアはナリアムカラへに対する防御の構えを取ったまま、視線をはずす事無く叫び続けます。

 そして言うが早いか、言うだけ言ったマッドジュエリアの姿は一瞬でナリアムカラの前から消え失せます。

 どこへ逃げ出したのかと辺りを見回しますが、まさか相手が真上へ逃げたとは考えません。

 すぐに捜すのをあきらめます。


「逃げ足の速いゴーレムです。それにしても……五十年後の未来ではゴーレムが魔法術を使えるのでしょうか?」


 ナリアムカラの知る常識では魔道具であるゴーレムは魔法術を使えません。

 その秘密を暴く前に逃げられてしまった状態です。

 そう思考を巡らせた所でナリアムカラは首を左右に振ります。


「いいえ、違いますね。私は今闘ったのですから、現代にすでに存在しているのですね」


 そして再びゆっくりと周囲を見回します。

 逃げ去ったゴーレムの言葉が事実ならば、この闇の中に何かが隠れ潜んでいます。

 ナリアムカラはそれを呼び出します。


「それで?いるのならば出て来なさい、ファイヤースターターとやら」

「まあ。お呼びとあらば即参上、ってところかしら」


 星明りの下、闇の中の明るい部分が何かを形作ります。

 つむじ風がちりあくたを纏め上げていきます。

 それは白いドレスを着た銀髪の少女に変わりました。

 少女は片手でドレスをつまみ上げます。


「初めましてバオラ十四世閣下。バースのファイヤースターター・エマージェンシー・アルカディアと申します」

「次はアルカディアですか。遠路はるばるようこそ。先程のゴーレムのお仲間と考えてよろしいのでしょうか?」

「いいえ、全然。

 あれは誰かしら?ウエルスの関係者にあんな使い手がいるとか、聞いた事が無いわ」

「ウエルスではない。素直に信じられる言葉ではありませんが、今は信じたい心持ちです。ウエルスにあそこまでこちらの情報が筒抜けだとは考えたくもありません」

「同感かしら。こっちの情報も筒抜けだったし、どう考えてもあり得ないわね」

「そちらの情報が、ですか?」


 先程のゴーレムにはこのアルカディアも当惑している?

 この推測が正か否か、ナリアムカラは疑心暗鬼気味にファイヤースターターの様子を伺います。

 当のアルカディアはそれを気にしません。

 ヒューマなど脆弱な種族と、強者の余裕をかもし出しています。


「あのゴーレムが去り際に言っていたでしょ。ファイヤースターターさん、あとお願いねって。そう言う事よ」

「ひょっとして、私は誘い出されたのですか?」

「らしいわね。こっちはどうやって招き入れようかと思案していたのに手間がはぶけたわ。

 誰も知らない筈のこちらの作戦をあいつがなんで知っていたのか。背筋が凍る思いよ」

「それは怖いですね。

 それで私をここまでおびき出してどうするのですか?」


 ここでファイヤースターターは改めてナリアムカラに向き直ります。

 先程までの口元にこぶしを当てて考え事をしていたのが嘘の様に明るい笑顔を振りまきます。


「少しばかり小耳に挟んだのですが、バオラ閣下はリーザベスにソラを落とされるとか。冗句にしては性質たちの悪い事、この上無し。確かめに参りました」

「それは貴女になんの関係が?バースのアルカディアが出向いて来る理由には少しばかり物足りないのではないですか?」

「小さな湧き水が巡り巡って大河を成すのは世のことわりです。私はある方に頼まれました。事実であるなら止めてもらいたいものだと。

 ウエルスから手を引いてはくれませんか?」


 ファイヤースターターは自分の独断である事を隠して、さもウエルス王国の誰かから依頼を受けたような言い回しを行ないます。

 これをナリアムカラは面白そうに笑います。

 高貴な事を自慢する吸血種が人間種の依頼で動くとか、普通に考えてありえません。

 それは先程の未来から来たゴーレムに匹敵する突飛な話です。


「ふふ。遣い走りにアルカディアを送るとは放胆な方ですね。

 それで貴女にどんな得があるのでしょう?」

「良い酒を飲ませてもらう約束よ」

「ははははははははは。酒で動くアルカディアとは、さっきのゴーレムと大同小異ですね」

「んー。人生を楽しむ上ではとても大切な事なんだけど、分からないかしら?してバオラ閣下。返答は如何に」

「お前に指図される覚えはありません」


 ナリアムカラは笑顔の仮面をはずして答えます。

 これに対してファイヤースターターも微笑みの爆弾を投げ捨てます。

 それは見事に炸裂して、その笑顔を情け無用に作り変えます。


「ふーん。つまり私の顔に泥を塗ると。この私が他人ひとさまに笑われても気にならないと、そう言う事かしら?」

「そうなります」

「たかがヒューマが良くぞほざいた。おのれがどこに立っているかも分からぬままにな」

「どう言う意味でしょう?」

「そこよ」


 すでに笑顔を捨てているファイヤースターターは肩越しに手を振って右腕でナリアムカラを指差します。


「お前の立っているそこがどこだか分かるかしら?」

「そことは?」

「ソーラー・シフターとコントロール・タワーの中間地点。つまり、自動防衛システムはそこには届かない!」


 ファイヤースターターは一枚の板がるたを取り出します。

 親指と人差し指で挟んでいたそれを手のひらの中に落として握り潰します。


「ルビーズ・リング。婿殿、頼んだ!」

「くそっ、しまった!」


 砕けた木片は手の中で発光し、指の間をすり抜けた白い光線が天へのぼります。

 それは天上で八方に広がり、それぞれが更に遠くで八方に広がり、それらもまた八方で広がります。

 そして出来上がった網目の内の一本が赤く染め変わります。


 ナリアムカラは身構えて星空を見上げています。

 ですがその光が自身に対する攻撃に変わる様子はありません。

 上空を警戒しながらも吸血種の少女に顔を向けます。


「残念でしたね、ファイヤースターター。驚かされましたが、どうやら不発の様です」

「何を言っちゃってくれちゃっているのかしら。見えないの?空が」

「空?」


 ナリアムカラはファイヤースターターを警戒しつつ、星空を見上げます。

 しばらく見ているとそこによっつの星が流れます。

 と同時にナリアムカラ目掛けて四本の光束が熱線となって落ちてきました。

 しかもその熱線は最初の四本で終わりではありません。

 数十本がナリアムカラ目掛けて落ちてきました。


「きゃあああああ!ソラよ、我が身に支援を、ヒール‼︎いやあああああああああ!」


 スターライト・シャワーの攻撃が終わったあとの地面には、焼け焦げたナリアムカラが無様に倒れています。

 しかしその体はわずかな光に包まれながら傷が回復していきます。


(ふーん。身体強化魔法でどうにか生き残って、残ったダメージを治癒魔法で再生中かしら。こんな夜中にソラの加護の光に包まれるとか、本物の聖女であることは間違いないのね)


 自らの体を治癒再生した地面に伏した体勢で呼吸を整えます。

 荒い息をきながらも錫杖しゃくじょうを突いて立ち上がります。

 その様を見物していた吸血種の少女は再度訊ねます。


「どう?お返事は?」

「貴様に屈する言葉は無い!」

「そう。ルビーズ・リング!」

なんだと!やあああああああああ‼︎」


 次の板がるたをファイヤースターターが握り砕くと、再び光束となった熱線がナリアムカラを襲います。

 今度はスターライト・シャワー発射魔道具側にいるポルターガイストの準備ができているためか、攻撃はすぐに行なわれました。

 ナリアムカラは逃げ出すまもなく、大地に撃ち倒されます。

 その体目掛けて先程よりも長く、百本以上の熱線攻撃が続けられます。


 熱線攻撃の終わった大地に残されたのは黒焦げのナリアムカラです。

 すでに動く様子は見られません。

 しかしその体が薄い光に包まれていきます。

 ファイヤースターターは三枚目の板がるたを握り潰します。


「ルビーズ・リング」

「きゃあああああああああ!」


 今度こそ本当に息の根が止まったか?

 そう、様子をうかがうファイヤースターターの耳につぶやく様な小声の呪文詠唱が聞こえてきました。


「……我等が主神、天空に輝けるソラよ……そのあふれる慈しみと加護を我等に、貴方様に仕える子羊達に与えよ……酒は血となり、パンは肉となり、この我の糧となる恵みを与えよ、ソーラー……ブレッシング」

「スターライト・シャワーが効かないなんて腐っても日輪聖女、って事かしら。肉体強化魔法だけで勇者と同レベルとはね」

「今のは相当つらかったですよ、ファイヤースターター。次は私の番で良いのですよね?」

「どうぞー。私が耐え切ったらまた次は私の番よ。一撃で倒せる技を撃ってね」

「ご安心下さい。先程のゴーレムが最後に言っていた魔法術を使いますから」

「最後?」

「メギド・フレアに神聖属性と光属性の重ね掛けです」

「ああ、言ってたわね。そんな事できるの?」

「念力」


 そうつぶやいたナリアムカラの体が徐々に空中に浮かんでいきます。


(予想外でした。王都リーザベスを守ろうとするウエルスの行動は当然ですが、ここまでの手練達を集められるとは世界は広いと言う事ですね。ですがこれを成さねば私の望みは叶いません。何よりもすでにポリペーモスを巻き込んでいるのです。ソーラー・シフトだけは絶対に成功させる必要があります。

 アルカディアよ。ここで私の為に死になさい!)


 超能力を使うナリアムカラは自分の心が震えていることに気付いていません。

 上空三十メートル。

 ソーラー・シフターの石舞台よりも高く空に上がったナリアムカラは胸に飾った、すでに魔力を引き抜かれてドライフラワー同然となっている太陽の花を右手にとって掲げました。


「天空のソラよ、光に満ちた大地よ、そしてここに咲く太陽の花!ゲット・ア・シャイン!」


 時は夜中であるにもかかわらず、太陽の花リンダに向かってソラの光が集まります。

 それは魔力となってナリアムカラへと流れ込みます。

 光属性……、いいえ、太陽属性の魔力に満ちていくナリアムカラの体はまぶしく光り輝き始めます。

 地上に立つファイヤースターターは手を挙げて指の隙間からその様子をうかがっています。

 ナリアムカラは最後の呪文を唱えます。


「主神ソラに仕える、主神ソラに授かる我が力を見よ、シャイン・スパーク!」


 まぶしいまでに白くナリアムカラの体を包み込んでいた日輪の輝きは巨大に広がり、ソーラー・シフターのある森全体を白く包み込みます。

 それは全ての魔を焼き払う聖なる光です。

 それは全ての存在を焼き尽くす灼熱の光です。

 俗称ビッグファイヤと呼ばれる超広範囲殲滅魔法術。

 夜中の森に出現した太陽はファイヤースターターに逃げる隙を与えません!


「なんなの、これー!」「俺の背中に入れ!」


 突如現われた、大楯を持ったサンストラックの騎士がファイヤースターターの前に立ちました。

 銀髪の吸血姫はその背中へ飛び込みます。


「持たない、一人で逃げれるか!」

「あんたは!」

「俺は復活できる!」

「礼は言う!」


 コントロール・タワーの中に逃げ込めるか!

 ファイヤースターターはちりになって宙を舞います。

 駄目!体が焼ける!

 その日の真夜中の頃、ジューンブライド公爵領領都ソラのはずれにあるソーラー・シフターのある森に陽が昇りました。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 ファイヤースターターが起こしたルビーズ・リングによる星空の異変はジューンブライド城を混乱に陥れていました。

 そしてナリアムカラの起こした夜明けにも匹敵する輝きは混乱に拍車を掛けました。

 この混乱はジューンブライド城だけの話ではありません。

 領都ソラの住民達や都市中央に鎮座する日輪正教ソリテール大神殿も例外ではありません。

 先代日輪聖女オリビア八世も不安気にこの異変あふれる星空を見上げていました。


「間違いありません。あれこそは伝説のビッグファイヤ。神が戦っておられる証です。

 誰か、まだ次なる情報はありませんか!」

「申し訳ありませんオリビア様。方向からって陽が昇った場所はおそらくソーラー・シフターであるとしか分かりません」

「それくらいの事はこのわたくしにも分かります。知りたい事は神が何と戦っているのか、神はご無事なのか、その二点だけです!」

「申し訳ございません」

「もう良い。ではわたくしが直接確かめに行くより手はありませんか。

 チャーリースペンサー卿の浮遊破城砕は次の操騎士が未だ未定のままですね?」

「はい、新たな操騎士が決まったとは聞いておりません」


 ソリテール大神殿の中央広場に立つオリビアは胸に飾った日輪ロザリオを手につかむと、その掛け紐を引き千切ります。

 そして高く天に掲げると叫びます。


「ゴーレーム!」


 それに驚いたのは周囲を囲む日巫女ひみこたちです。

 次々とオリビアの行動をいさめます。


「お待ち下さいオリビア様。ただ今は神の御指示によりソーラー・シフター付近への立ち入りが禁止されております。それに例えオリビア様が先代の神で在らせられるとは言え、浮遊破城砕の御使用はお体に触られます」

わたくしの老体でもソーラー・シフターまでならどうにかなります!」

「ですが、」

「くどい!神が何かと戦っておられるのです。今行かずとしていつ行くのです。今でしょ!」

「お待ち下さい。例えオリビア様であっても神の御指示に反しては、ただでは済みません!」

「構いません!わたくしは神の無事なお姿を確かめる事ができた暁ならば、どのような罰でも受けましょう」

「「オリビア様……」」


 そこに一人の日巫女ひみこが走り寄ります。


「伝令!神のご命令をお伝えします。ソーラー・シフターに異常事態が確認されたならばオリビア様は神に代わられてソリテール大神殿防衛の指揮をお取り下さいとの事です」

「茶番を。ここが襲われる事も無ければ理由も無い。

 主神よ。ソラの御名みなもとに神をお守り下さい」


 どこかで轟音を立てて何かが崩れる音がしました。

 日巫女ひみこたちは浮遊破城砕の到着だろうと推測します。

 星空を見上げるオリビアは、ただナリアムカラの無事だけを主神ソラに祈ります。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 んー、なんかカーテンが明るいな。朝か。起きなきゃ。

 あたしは薄掛けをまくって腕を頭の上に伸ばす。

 当然ベッドの上にある小物置き場にぶつかるから仕方が無く腕を曲げた体勢で伸びをする。

 夕べ寝たのが遅かったせいか、まだ眠くてあくびが出る。


「ふわぁあああああー。へんな夢、見ちった」


 そうだ。今日からゴールデンウイークになったから最終の新幹線で日本橋に帰ってきたんだ。ここ、あたしの実家だ。

 あたしはパジャマ姿のままでリビングに行く。

 ママが朝食を作っている。


「おはよう、ママ」

「おはよう、サヤカ。早いのね。今日はゆっくりと寝ていると思ったわ」

「うん。それは明日あしたからする予定。パパは?」

「顔洗っているわ」

「あー、じゃー、トイレはあとか」


 あたしはソファーに座ると新聞を手に取る。

 見るのは当然最終ページだ。

 就職しているあたしのすみとこの家がある日本橋では書かれている内容がまったく違うから精査しておかなきゃならない。

 あたしが新聞を熟読しているとママが目の前のテーブルに両面焼きベーコンエッグの皿とお箸を置いてくれた。

 パパがまだ来ないから、パパの分のおかずを回してくれたみたいだ。

 こうしてあたしの四ヶ月振りなあい家ライフが始まった。

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