113 標18話 ルーン対ユリーシャ対グローリアですわ 7
最強の敵ルーンジューナの前に立つグローリアジューシー。
そして共に相手の動向を監視する三人の勇者たち。
そんな彼らに向かって一本の光の帯が伸びてきます。
その帯は光でできた道を為します。
突然の事にグローリアジューシーは首を傾げます。
「グランドライト・ウェーブレール。グランダッシャーでも使う気?」
今グローリアジューシーの目の前にある光の道は敵に対して高速接近する手段としてルーンジュエリアが考案しました。
その最も効果的な攻撃方法は体当たりを含む突撃です。
だからこそグローリアジューシーは疑問を感じます。
そんなごく普通の攻撃ではノートに手傷を負わせる事は難しいからです。
しかしすぐに顔色が変わります。
ルーンジューナの仕草から、ある魔法術の名前を思いついたからです。
「ゴッド・ラムー‼︎エターナル・ブレーズ!」
グローリアジューシーは慌てて一枚のアステロイドチップをフリックしました。
相手の意図する攻撃に予想がついた彼女は勇者たちに説明する暇も惜しんで迎撃準備を急ぎます。
そして魔法術を詠唱します。
「インベントリー!チャージ!チャージ!チャージ!チャージ!」
空間収納から取り出した羊皮紙スクロールを次々と起動します。
エターナル・ブレーズの木札はスクロールから放出される魔力を次々と吸収蓄積していきます。
その間にも湖の遥か向こう岸からはルーンジューナが竜巻で身をくるみ、スピンして頭から飛んできます。
勇者たちは驚きの目でそれを見つめます。
彼らは様々の戦いで風属性魔法であるトルネードを目にしています。
しかしそれらは全て下から上に向かい地上の物を吹き飛ばす、縦に荒れ狂う竜巻です。
横になって向かってくるトルネードなんか、話を耳にした事も目撃した事もありません。
ましてや竜巻を身にまとって飛んでくる魔法術なんてこの世界の人間には想像できる道理がありません。
けれどもルーンジュエリアは科学の知識を持っています。
彼女にとっては
グローリアジューシーは魔力の補給を急ぎます。
「チャージ!チャージ!チャジ!チャジ!チャジ!チャジ!チャジ!」
ゴッド・ラムーのベースとなっている魔法術ソニック・インパクトは音響魔法です。
この世界ではソニック・インパクトを大音響で鳴らして相手の注意を逸らしたり、驚かせて動作を停止させたりする目的で使います。
けれどもルーンジュエリアは違います。
持てる科学知識を使って超短波振動魔法に改良しました。
固形物なら粉砕、生物なら体内を破壊します。
既にルーンジューナは竜巻とスピンを解き、右腕を大きく引いて正拳突きの構えを取りながら飛び込んできます。
対するグローリアジューシーは、エターナル・ブレーズのアステロイドチップを貫きながら左正拳突きを繰り出します。
「ヤマト・アタック‼︎」
「アルカディア・クラッシュ‼︎」
身体強化をまとった二人の魔法術がぶつかります。
ルーンジューナは右正拳が当たると同時に握りを開いてゴッド・ラムーを撃ち出します。
それを予期していたグローリアジューシーは体の芯では攻撃を受けませんでした。
左腕一本を捨てるつもりで体の横でその一撃を受けます。
「お願いします!」
「「おう!」」
振り向くグローリアジューシーの言葉に応えてイドとガハマが剣を振ります。
グローリアジューシーの左腕を通り抜けた超短波振動波が勇者二人の間の地面を直撃して大きな穴を開けます。
立ち込める土煙りの中でルーンジューナの体を捉えられなかった二本の剣がぶつかります。
それを踏み台にしてルーンジューナは大きく飛び上がります。
「ワープ」
四人から二十メートル程の距離をとって湖面に残る氷の上に降り立ちます。
それと同時に腰を落として揃えた両手を右腰に構えます。
グローリアジューシーは振り向かずに叫んで注意を促すと、自分の左腕に治癒魔法をかけます。
「来ます!わたしの後ろに入ってください!ハン」
「何が来ると
「ゴッド・ラムー、――ソニック・インパクトです!」
「はあ?ソニック・インパクトは攻撃魔法じゃないだろ?」
「見なかったのか!今、大地を穿ったのはソニック・インパクトだ!」
「え?あれが?」
「ジャマー・ウォール!」
グローリアジューシーの創り出したジャマー・ウォールはハの字に開いて十列並びます。
先は狭く、自分に向かってカーブを描き大きく開いています。
なぜかルーンジューナからグローリアジューシーに向かって
これをイドが指摘します。
「嬢ちゃん、壁が抜けている。攻撃が来るぞ。大いなる神に居並ぶ輝きの柱よ、ソラより舞い下りて我に有れ、して我が前を閉ざす全てを灰と成せ、ファイアボール!」
イドは立ち並ぶ透明なジャマー・ウォールの中央、口を開けている隙間を抜けるファイアーボールをルーンジューナ目掛けて撃ち出します。
しかしそれはルーンジューナの数メートル手前で消失します。
「無駄です。彼女は抗魔石を身に着けています」
「抗魔石だと?」
「しかし奴は魔法術を使っているぞ?」
「抗魔石の無効化くらいならわたしでもできます!」「ゴッド・ラムー!」
グローリアジューシーの言葉と同時にルーンジューナは超短波ソニック・インパクトを撃ちました。
「ジャマー!」
ジャマー・ウォールで拡散したゴッド・ラムーは単なるジャマーで防がれます。
肩で息をするルーンジューナは空を見上げました。
そして転移魔法を起動します。
「ワープ」
ルーンジューナの転進を見届けたグローリアジューシーの顔に笑みが浮かびます。
背後に立つ三人の勇者に向かって振り返りました。
その顔に再び緊張が浮かびます。
まだ戦闘は終わっていない!
身をひるがえして走り出すのもまどろっこしく目標に向かって転移します。
「ワープ!」
ノートの目の前に現れたグローリアジューシーはその胸めがけて両手で掌底を打ち出します。
「「ゴッド・ラムー‼︎」」
前後から撃たれた二つのゴッド・ラムーがノートの胸の中でぶつかり合って相殺します。
その余波を受けたノートは血を吐いて右膝を突きます。
「ハン」
グローリアジューシーの治癒魔法が起動します。
イドとガハマが振り返るとノートのすぐ後ろに青い顔をしたルーンジューナが立っていました。
「パラ」
ルーンジューナはルーンジュエリアに戻ります。
スカートをつまむと顔色が悪いままイドとガハマへ膝を折ります。
「ワープ」
ルーンジュエリアの撤退を見た二人の勇者は息も絶え絶えなノートの元へと駆け寄ります。
「大丈夫かノート!」
「ああイド……。ゴッド・ラムーの威力は……、
「何を言っているんだ!」
「大丈夫か令嬢!」
グローリアジューシーもまたノートと同様に苦しげです。
その表情は曇っています。
「ゴッド・ラムーは
「そうでもないだろうよ」
治癒魔王で一命をとりとめたノートが苦し気な声で励まします。
「おそらく、次の攻撃までには時間がかかる筈だ」
彼が見たルーンジュエリアの表情も苦しそうでした。
それは力尽きた表情ではなく終わらないことに対する苦悶の思いに見えました。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「セタップ。ハイパーエム」
保有魔力量が大きく減少していたルーンジュエリアは転移した最初に魔力の補給を行ないます。
そして今後の戦略について検討します。
「予想以上にリア様は厄介ですわ。ジュエリアと同じ知識を持ちながら、なんでここまで戦局対応が異なりますの?」
そう考えていたルーンジュエリアは背後に人の気配を感じます。
誰かが転移アウトして来たのだろうと推測します。
そうこうしていると背中側から声がかかります。
「ルーンジュエリア様、エリスジューサーでございます。少々お時間を頂きたく思いますがよろしいでしょうか?」
話しかけてきたのはハイバワード化したエリスセイラです。
お嬢様は振り向きもせずに答えます。
「エリスジューサー。ジュエリアは今、戦争をしていますわ。ジュエリアの一番楽しい時間をくだらない話で邪魔するのはやめなさい」
「なるほどなるほど。それではハンデは不要でございますか?」
その言葉を聞き留めたお嬢様は振り向きます。
「どの様なハンデですの?」
「あの侯爵令嬢にわたくしが手を貸さず、共闘しないハンデでございます」
ルーンジュエリアの顔に黒い笑みが浮かびます。
「不要です」
「あらあらうふふ」
「ふみ?どうかしましたんですの?」
今度はエリスジューサーが黒い笑顔で微笑み返します。
「先程までの勇者はルーンジュエリア様にとって言うなれば第三艦橋勤務の
「期待しますよエリスジューサー」
「
ここは魔法がある世界ですわ。けれども、なんでもかんでも魔法で解決できてはつまりませんわ。
そう考えたお嬢様は母の言葉を思い出します。
「ああ。そう言う事ですの」
ジュエリア、人生は遊戯ではありませんよ。
魔法で全てを片付けようとするルーンジュエリアをたしなめたルージュリアナの言葉です。
「お母さま。今のジュエリアは悪い子ですわ。しかしジュエリアは復讐を忘れない、子供ですわ」
お嬢様は自嘲します。
そうと分かったとしてもルーンジュエリアは止まりません。
倒すべき敵はノート。
けれども心の中にあったはずのノートへの憎しみは消えたように感じていました。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
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