112 標18話 ルーン対ユリーシャ対グローリアですわ 6


 転移魔法からワープ明けしたグローリアベルは短縮呪文を詠唱します。

 対戦相手はルーンジューナです。

 予期していた中で一番まずい相手です。

 しかし予想外の敵ではないのですから助かったと言う気持ちも間違いではありません。


「ヒート・アップ!グローリアジューシー!」


 勇者たちはその様子を見ていても特に何かを言いません。

 ただなんとなく、ルーンジューナがルーンジュエリアと呼ばれる先程の少女の変身した姿である事を察します。

 辺りを見渡したあとで勇者イドがまず会話の口火を開きます。


「ここはガンリ大湖水か?」

「北端になります。先ほどまでいた南端より二十ケロメータほど移動しました。それで、話の続きとなりますが勇者様方はご自分達もあの子との戦いに参加するお気持ちにお変わりはないのですね?」

「ああ、そうだな」

「発端が誤解である事ははっきりしたのだ。なんとしても彼女を説得したい」

「いいえ、ですから、誤解ではないという所が一番困っているのです」

「誤解ではないのか?」

「ルーンジュエリアは聡い子です。間違っているのは自分だと理解している筈です。ただ、頭でそれを分かっていても心が拒んでいる状態の筈です。だからわたしが説得します」

「説得と簡単に令嬢は申されるが、そんなものではない事くらいは我々の目から見ても判別できるぞ?」

おのが非力を恥じいりたく存じます」


 グローリアジューシーはこうべを垂れます。

 これにノートが話しかけます。

 今は警戒中ですから、自分の言葉が終わったイドとガハマはすでに辺りを伺っています。

 

「話を変えよう。僕たちはどうすればいい?」

「最良は皆様のご避難ですが次善の策を挙げるなら、大変心苦しいのですがおとりになって頂きたく存じます」

おとり?」

おとりか」

「はい。あの子の狙いは皆様、――ノート様です。ルーンジュエリアがノート様を付け狙うその間にわたしはあの子に近づきます」


 そう言いながらも彼女の顔色は優れません。

 自分が離れている間の勇者たちの防衛が心配なのです。

 強敵が相手ならば自分もそれにふさわしい武器を使う必要があります。

 そう考えると一対一の戦場こそ望むところであり周りに人は不要です。


「しかし彼女はまた飛び道具を使った攻撃を仕掛けてくるのではないのか?」

「その、令嬢がまとっているアステロイドチップの輪は言うほど万全の様には見えぬ」


 勇者たちの考える防御とは味方を守る防御です。

 これに対して魔法術師の考える防御とは自分一人を守る防衛です。

 自分の身を捨てても仲間を守ろうとする意志と自分がいるからこそ仲間を守れるという考えは相いれません。


「このさんじゅうのアステロイドリングは中央にいるわたしを守る為の防御です。外周にいる皆様を守る為にはちから及ばずである事を否定できません。だからこそ皆様にはわたしより遠く離れていて頂きたいのです。そちらの方が皆様を防衛する作業が簡単になります」

「うーん。手はあるんだね?」

「お任せください」


 グローリアジューシーは目の前に浮かぶアステロイドチップの一つをフリックします。


「ベル・エレクトリックスティック!」


 顕現したのは一本の杖です。

 それはなんの飾りもない長さ二メートル程の細い棒です。

 あえて挙げるなら模様と言うか色だけです。

 鉄道踏切の遮断棒のような模様が黒と銀色で交互に塗り分けられています。

 その杖を見たノートから疑問の声が上がりました。

 魔法術師が使う杖には魔力を補う魔力石か魔法術的な意味を持つ飾りが彫り込まれています。

 ただの細長い棒を使う魔法術師なんて彼らは見た事がありません。


「それが君の言う手かい?」

「決戦攻撃用飛び道具を持っているのはあの子だけではありません。わたしと応援に来る予定のもう一人もそれぞれ自分用の無敵兵器を持っています。ですがこれを使う為には味方が誰もそばられない事が必要です。

 最終兵器は十四歳。ジューナに負ける気はありません」


 それは暗に勇者たちが足手まといとは言わないまでも邪魔であることを意味しています。

 勇者たちもそれなりに強力な武器や技を持っていますのでその心は理解できます。


「ノート。この令嬢の言葉は信じて良いものと考える」

「あの飛び道具に対抗できるっていうんだ。俺たちが手を尽くすよりも簡単で間違いないんじゃないか?」

「お前たちの言う事も正しいな。確かに俺もそう思う」


 勇者たちは輪になって相談します。

 だから今はグローリアジューシーが監視をしています。

 話がまとまった勇者たちの輪からノートが歩み出ます。

 そして湖のふちに立ちました。


「なら、俺はここにいるよ。俺が見つからなければ話が始まらない。援護は頼んだぞ」

「おう!」

「まかしとけ。む!」


 残りの三人が目を向けると離れた湖水の向こう岸に立つ人影があります。

 イドの言葉にグローリアジューシーは右足を大きく引いて仗を相手へ投げる構えを取ります。

 が、すぐに気が付きます。

 大勇者ノートのそばから仗を投げては彼がルーンジューナの攻撃射線から外れません。


「ちっ!ここではジュエリアショットの射線上ね!」


 グローリアジューシーは相手の気を自分へ引き付けようと考えます。

 投擲姿勢を崩さずに狙いだけを変えました。

 エレクトリックスティックを頭上高く投げ上げるとそれを追いかけて飛び上がります。

 空中でエレクトリックスティックに追いついたグローリアジューシーはそれを掴むと一度鉄棒のように大車輪を回って体勢を直し、反対岸の茂みに立つルーンジューナ目掛けてエレクトリックスティックを投げつけます。

 それはジュエリアショットに撃ち弾かれて、勇者たちのそばに着地したグローリアジューシーの手元へ返ります。

 ベル・エレクトリックスティックはグローリアベル、あるいはグローリアジューシーなどの変身後の姿が手を挙げるだけでその手の中に飛び戻ってくる機能があります。


 既におとりであるノートの姿は相手に見つかっています。

 四人は数本の木立ちの陰に隠れます。

 しかしその木立ちはジュエリアショットの連射によって撃ち倒されます。

 向かい合う二組はお互いの姿をはっきり確認します。


 顔を上げたグローリアジューシーは、振り向くと同時にジュエリアショットがノートを狙っていることに気づきます。

 勇者たちもそれを気付いているはずですが、身を隠す暇がありません。

 剣か盾で防ごうとしていると考えます。

 ですがそれでは連射を防ぐ事ができません。

 相手にジュエリアショットを使った攻撃が無駄であると教える必要があります。


(なにか……、なにかないの?)


 グローリアジューシーは知識の奥を掻き回します。

 そしてルーンジュエリアからもらった記憶の中に可能性のある対処法を見つけます。

 

(そうだ!わたし達にはまだヤシマがあるわ!)


 グローリアジューシーが仗を投げるのと同時にジュエリアショットが撃たれます。

 時が止まる程の進みが遅い時間の中で彼女は自分が投げた仗を見つめます。


「ヤシマ……」


 ベル・エレクトリックスティックのリニアシステムは電子の流れを加速することで超電磁磁界を形成します。

 互いに超高速で飛行する仗と弾丸。

 それらがすれ違うと同時にわずかに弾き合います。

 二つの着弾はそれぞれの狙いを外れます。


「くそ!超電磁の磁界で狂ったか!」


 それを見届けたルーンジューナは言い捨てます。

 確かにエレクトリックスティックに対してジュエリアショットは不利とは言わずとも有利ではないように見えます。

 けれどルーンジューナは連射によるちから押しで不利を有利に変えようとします。

 続いて必殺の一撃をノート目掛けて撃ち出します。

 グローリアジューシーが手元に戻ったエレクトリックスティックを構えようとしていますがルーンジューナの読みではわずかに間に合いません。


「勝った」


 ルーンジューナはつぶやきます。

 ですが彼女の放った銃弾はノートの目前で何かに弾かれました。

 ルーンジューナはジュエリアショットを空間収納へしまいます。


「ミサイルアロー。セイラ登場ですか」


 エリスセイラが敵に加勢した。

 これはルーンジューナにとって想定外です。


 一方グローリアジューシーは辺りを伺います。

 そして振り向きもしないで勇者たちに説明します。


「ご安心ください皆様。援軍が参りました。これからは接近戦になります」


 グローリアジューシーは考えます。


(おそらくユリーシャも近くまで来ている筈。三人でならどうにかなるわね)


 相手がルーンジューナですから二人とも用心して接触どころか念話すらしてこないでしょう。

 けれども何処かにいるのは間違いありません。

 ここからは反撃開始です。

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