026 標5話 闇最強の魔獣?ジュエリア危機一髪ですわ 4

 

 エリザリアーナの前。

 その食卓の上に薄く輪切った人参の煮物が盛り付けられていました。

 どう見ても人参です。

 当然の様にエリザリアーナは口にしません。


「わたし人参きらーい」


 ぶーたれています。

 その横からラララステーラのトングが伸びます。

 一切れ摘まんで、ソースを付けると口に運びます。


「何これー!まるで人参じゃないじゃない!」

『はっはっはっはっは。我こそは大魔導ラッシーである』


 ルーンジュエリアの自信作です

 ラララステーラなら問題なく美味しく頂ける料理です。


「ジュエリア。なんで今頃こんないい物を作るのよー。わたくしが人参を食べれるようになるまで、どれくらい苦労したと思うのよ?」

『はっはっはっはっは。我こそは大魔導ラッシーである。姉にそんな事を言われても妹は困るだけである』

「んー!まあいいわ。グランブル。今日の夕食はこれをお願いね」

「畏まりました」


 よほど美味しかったのでしょう。

 献立のリクエストが飛び出しました。

 エリザリアーナが訝しげます。

 家族がグルになってるのではないかと疑わしく思います。


「ステーラおねえちゃん。その人参、おいしい?」

「美味しいわよ。人参と言うよりお菓子ね。いくらでも食べられる自信があるわ」

「ぶー!わたし人参きらーい」

「大丈夫よ、美味しいから」


 姉の言葉にエリザリアーナは意を決して口にします。

 人参に絡まる練っ張りは確かに甘くて美味しいと思います。

 でも味は人参です。

 ですが今まで食べた人参と違ってあまり我慢しなくても食べられそうです。


「ぶー、やっぱし人参だー。でもおいしいかな?」

『はっはっはっはっは。我こそは大魔導ラッシーである。リアナ。その人参は美味しいであるか?』

「うん!おいしい!」


 エリザリアーナが明るい声で答えました。

 ミッション成功です。

 長年サンストラック家の幼い娘たちを苦しめてきた三つの呪いの一つが解かれました。

 しかし安心はできません。

 次の世代、その次の世代でこの呪いは復活するかも知れません。

 頑張れ、大魔導ラッシー。

 負けるな、大魔導ラッシー。

 親たちの期待は君に。

 君たちに集まっているのだ!


『はっはっはっはっは。我こそは大魔導ラッシーである。我も頂くとするかな?』


 人参料理を食べようとしたルーンジュエリアの箸が止まります。


「ふみ?ソースが二種類もありますわ?」

「人参を含め煮た白ぶどう酒もソースにしてみました。人参がお嫌いな方には好ましくないでしょうが、人参がお好きな方には喜んで頂けると思います」

「さすがはグランブルですわ。良い仕事です」

「お褒めを頂き嬉しく思います」



 さて次なるお題は、じゃないです。

 次の呪いは義祖母よりそれを聞かされていたと言うシルバステラが語ります。


「これはあたしがこの家に嫁に来た時の話だ。お爺様とお婆様への挨拶を済ませたあたしに、何故かお婆様は二人きりで話があると言われてきた。なんの話だろう。あたしはそう思った」


 ぽつりぽつりと昔話が語られます。


「嫁入りして来たばかりのあたしにお婆様がお話下さった事。それはサンストラック家の呪いについての話だ。サンストラック家の呪いはあたしはこれ一つしか知らない。そしてこの話はルージュが語った呪いとは別の話だ。だからあたしはこれが三つの呪い、残る二つのうちの一つなんだろうとは思う」


 シルバステラの視線が天井を見上げます。

 ふいんきがあります。

 何故か変換できません。


「それでその、なんだ。あたしが知っている呪いの内容なんだが、あたしは教える必要が無いんじゃないかと思っている。ポール。はっきり聞く。あれを子供たちに教える必要はあるんだろうか?」

「教えるべきだな」


 ポールフリードは力強く答えました。


「確かにお前が子供たちを労わる気持ちは理解できる。だがサンストラックに生まれた以上、遅かれ早かれ知る事だ。ならば早いに越した事は無いと俺は思う」

「そう。ポールがそう言うならあたしはそれを支持するわ」


 どちらかと答えるのなら、観念した。

 そんな表情のシルバステラです。


「あたしがお婆様から受け継いだサンストラック家の呪い。それは――」


 皆が息を飲みます。

 横に控える長女ラララステーラも母の顔を見つめます。

 視線が離れません。


「どれほど見目美しく育ち上がろうともサンストラック家の娘は羊乳を美味しいとは言わない!」

「横暴です!」


 ラララステーラが声を上げました。


「それ、どう考えてもわたくしの事ではありませんか!」


 ラララステーラ・オブ・シルバハート=サンストラック、十歳。

 実の母に物申したい心が満ち溢れました。


「お母様!黙って聞いておりましたがあの様なしょっぱい物を美味しいなどとは申せません。しょっぱすぎて口が曲がりますわ!」


 羊乳の塩辛さは異常です。

 羊の赤ちゃんはあんな濃い塩水を飲んで塩分取り過ぎにならないのでしょうか?

 生命の神秘です。


「大体お父様もお父様です。今ステラお母様が語られたサンストラック家の呪いに付いては何時いつ頃からご存じだったのですか?」

「いや。たった今が初耳だ。しかしステラの気持ちも考えて欲しい。お前ももう十歳だ。縁談の打診は既に来ているぞ」

「羊乳の味と輿こし入れは関係ありません。羊乳もアマナンバンも人参も無理して食べる必要はありません。食べられないなら別の物を食べれば良いだけです」


 ラララステーラが正論を主張します。

 ですがそこでシルバステラが水を差します。


「んーと、ステーラ。お前の気持ちは分かったが、大魔導ラッシーの都合もある。話を進めていいかい?」

「あ!ごめんねジュエリア」


 えーと。

 それでいいんですの?

 いくらなんでも簡単すぎますわ。

 ルーンジュエリアは戸惑います。


「あのー。お母様。それでいいんですの?」

「うん?なんか問題があるかい?」

「あると言うより問題が無さ過ぎて拍子抜けですわ。とてもじゃありませんが大魔導ラッシーの出る幕ではありませんわ」

「言うねー。こちらはそれでいいよ。ステーラが羊乳を美味しいと言ってくれるなら、こちらとしては満足だ」

「ふみ。それでは第二の呪いはそれで決定ですわ。ついでですから第三の呪いも同時にこなしたいですわ」


 ルーンジュエリアが大見得を切ります。

 本当に大丈夫なのでしょうか?


「第三の呪いはグレースですか?」

「へ?私?」

「順番的にそうだろうね」


 ルージュリアナの言葉にグレースジェニアが驚きます。

 シルバステラは異論なさそうです。

 でも……。

 二人がグレースジェニアの実子である長男、次男を思い返します。


「あの二人に嫌いな食べ物ってありましたでしょうか?」

「二人とも男の子だしね」

「何を言っているんですか、二人共」


 グレースジェニアは呆れた顔で奥様達二人に告げました。


「居るじゃありませんか。どうしようもないのが」


 そして大魔導ラッシーの顔を見据えます。


「大魔導ラッシーにサンストラック家最後の呪いを伝えます」

『はっはっはっはっは。我こそは大魔導ラッシーである』


 グレースジェニア対大魔導ラッシー!

 最後の戦いが始まります。


「大魔導士ラッシー。貴女にはサンストラック家最強最大のバケモノが受けている呪いを打ち破って頂きます!」

「ふみ?」


 誰の事だろう?

 ルーンジュエリアは考えます。

 考えても分かりません。

 周りを見渡しても、誰も分かっていないようです。


「当サンストラック家の次女ルーンジュエリア。彼女がアマナンバンを食べて心から美味しいと思う料理。それを作る事が出来れば貴女を大魔導士ラッシーと認めましょう!」

『ふみー‼︎』


 この時、大魔導士ラッシーは一つの事を思い出していました。

 ジェニアお母様もアマナンバンが大の苦手でしたわ。

 そうです。

 大人だってピーマンは大の苦手です。

 みんな我慢して食べているのです!

 子供たちへの教育上、そう言う事にしてください。


 大魔導士ラッシーがキサラと料理長を手招きます。

 しゃがみ込んだ四つの顔が向かい合います。

 魔獣ラッシーは既に無関心です。

 遊び心が無いので全く興味を感じていません。


「グランブル。黄砂糖と糖蜜はありますか?」

「試作品は共に三ケログーム程ずつあります」

「ふみ。鳥の玉子はガウガウの他はありますか?」

「クワックと、ケーンは六個ほど有った筈です」

「ケーンが六個と言うのは間違いないです?」

「はい」


 きじの玉子なら濃厚なコクが出せますわ。

 ルーンジュエリアが思索します。


「ではケーン全部とガウガウ四個で玉子豆腐の準備を。玉子は溶いた後細目のざるで完全に水にします。玉子と羊乳にそれぞれ二割の重さの黄砂糖を入れてかまかし、玉子液に少しずつ羊乳を合わせて泡が出ない様にかまします。それを再度ざるで濾し、あとは蒸した上に糖蜜をソース代わりにして終わりです」


 玉子豆腐と茶碗蒸し。

 玉子の比率が大きいのは玉子豆腐です。

 何故なら茶碗蒸しは汁物なのです。


「砂糖と羊乳で作った甘い玉子豆腐ですか。皆様の驚く顔が見ものですな」

「ですがジュエリア様。それで羊乳を美味しいと言うのでしょうか?」

「キサラ、違います。言うのではなく言わせるのです」


 ルーンジュエリアには奥の手があるようです。

 勝ちは決まった!

 料理長が言葉にします。


「すらっとそのような料理が出て来る辺りジュエリア様の知識には感服いたします。あとはジュエリア様がアマナンバンを美味しいと言ったら終わりですな」


 しかしグランブルの言葉は否定されました。


「グランブル、それは違いますわ。アマナンバンを美味しく食べるのはジェニアお母様です」

「ほう。それはどうしてでしょう?」


 話が違います。

 キサラも料理長もそのような話を聞いていません。


「ジュエリア様。グレースジェニア奥様がアマナンバンをお嫌いだからですか?」

「まあ、そんな様な理由ですわ。ジェニアお母様はご自分のお名前を出す訳にはいかなかったと言うのが本心だと推測しますわ。そしてジェニアお母様のお気持ちはただ一つ」


 ルーンジュエリアは目を閉じました。

 そして呼吸を整えると目を開けて二人を見ます。


「嫌いなものがあるのって人生が損ですわ。だと思いますわ」

「それは、ジュエリア様がいつもその様にお考えだと言う事ですよね?」

「ふみ。ですわ」


 料理で人を幸せにする。

 その考え方にグランブルが共感します。

 ですがルーンジュエリアはそんな事を考えていません。

 他人の話ではなくて自分の話をしています。


「分かりました。ではアマナンバンの調理はどうされますかな?」

「そんなものがあるならジュエリアが教えて欲しいですわ」


 本心です。

 それはそうでしょう。

 数々の美味しい料理で家族の舌を満足させてきた少女です。

 自分に嫌いな物があるなら、真っ先にそれをどうにかする筈です。


「ジュエリア様でもアマナンバンは無理ですか」

「できるならとっくにっていますわ。分っていてもできないからっていないのが普通の人間ですわ」

「ではどうなさるのですか?」

「二番手を使いますわ」

「二番手ですか?」

「ジュエリアが無理でも、ジェニアお母様ならどうにかなるかも知れないと言う話ですわ」

「ふーむ。やはりアマナンバンの苦みは厳しいですか」

「あの味と香りは子供には体罰ですわ」


 ピーマンを嫌いなお子様たちは大人になるまで待っていてください。

 必ずや味覚が鈍くなってピーマンを無理せず食べられる様になります。


「それでは具体的な調理法をお願いいたします」

「具材は下味付きの豚肉天ぷらと野菜の素揚げですわ。アマナンバン、芋、キイロウリ、人参、玉ネギを大きくぶつ切りです。これに酢と糖蜜をだし汁で煮たてて合わせ、馬鈴薯澱粉でとろみをつけた目っ茶甘酸っぱいソースをごってりと添えます」


 油通しではなく、素揚げにするのがポイントです。

 しゃきしゃき感は減りますが、苦みは飛びます。


「水溶き澱粉は鉄鍋の周りに回して、焼く方法ですな?胡瓜の素揚げは皮をきますか?」

「ふみ。固ければいて下さい。あ。アカナスケチャップの在庫はあります?」

「ございます」

「ではだし汁ではなくケチャップで」

「畏まりました」


 水溶き澱粉を混ぜて煮ると透明になる前に調理を終わらせたくなります。

 これが食感を落とします。

 澱粉は強火で透明にする。

 澱粉のとろみが透明になるまで煮込みを終わらせてはいけません。


「あのー。今のご説明ですと以前お作りになられた酢豚と同じに聞こえますが、煮込みではないのですか?」


 煮込み酢豚は味が均一になります。

 つまり全ての食材が同じ味です。

 食べやすい味で作らなければなりません。


「今回の酢豚はアマナンバンを美味しく食べる事が目的です。甘酢餡を別に添える事でとても濃い味に作る事ができる訳ですわ。掛ける方法もない訳ではないですが、付き過ぎた甘酢を取り除くのは見苦しいのでこれは避けます」

「つまりアマナンバンを甘酢で食べるのではなく、甘酢餡をアマナンバンで食べる訳ですな?」

「結果が同じなら途中はどうでもいいですわ」


 すくっ。

 ルーンジュエリアが立ち上がりました。

 そして三人の母たちを見渡します。


『はっはっはっはっは。我こそは大魔導ラッシーである』

「なに?相談がまとまったの?」


 シルバステラが大魔導ラッシーに問い掛けます。


『はっはっはっはっは。我こそは大魔導ラッシーである。調理場へ行くのである』

「行ってらっしゃーい。ステーラが待っているから急いでねー」

「わたくしは待っていませんわ」

「ジュエリアの料理よ?」

「んぐ。んぐぐぐ。分かりましたわ」


 なんとなく釈然としない様子でラララステーラが答えます。

 このまま流されていいのでしょうか?

 本人にはそんな不安が尽きません。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




『はっはっはっはっは。我こそは大魔導ラッシーである。先に羊乳である。アマナンバンはのち程参るであろう』

「ジュエリア。これは何?玉子豆腐に見えるんだけど」


 ラララステーラの前。

 食卓の上には玉子豆腐四皿とコップに入った羊乳三杯があります。

 まさか三つとも全部飲めって言うの?

 その不安は現実になります。


『はっはっはっはっは。それは玉子豆腐である。合計四皿ある。まず一つ玉子豆腐を食べるが良い。しかる後にもしもお替わりが食べたければ羊乳をコップ一杯飲み、美味しい、お替わり!と言うが良い』


 きょとん。

 まさか自分がきょとんとするなど思っていませんでした。

 それほどラララステーラの理解が追いつきません。


「何それ?バカみたい」

『はっはっはっはっは。玉子豆腐は四皿ある。三回お替わりができるのである。横に添えてある黒いソースをかけて食べるが良い』


 玉子豆腐の横。

 黒いソース。

 確かに黒いソースがあります。

 しかし問題はそこではありません。

 香りが甘い。

 これは明らかに甘い料理ですわ。

 二つ目、三つ目を食べる為には羊乳を飲まなければならない。

 これ以上の悪い予感はありません。

 ラララステーラにできる事はこの玉子豆腐が美味しくないことを神に祈る事だけでした。


「セラフィン、どう思う?」

「大魔導ラッシー様の勝ちですな」

「ほー。お前もそう思うか」

「ここに居る全員がそう思っている事でしょう。かく言うわたくしも一口で良いですからあの玉子豆腐を食べたく思います」

「夕食で屋敷内の全員分を用意できるか、グランブルに相談してみる」

「よろしくお願いいたします」


 長女様の不安をよそに周りは勝手を言い合います。


「ステーラお姉ちゃん、ずるーい」

「ずるーいっです」

「ずるくありません!これはお姉さんとしての試練なのです!」

「わたしも玉子豆腐食べたーい」

「玉子豆腐たべたーい」


 小さな妹たちにまで追い込まれます。

 これで食べないと言う選択肢はなくなりました。

 いえ、最初から無かったのかも知れません。


『はっはっはっはっは。食べるが良い、食べるが良い、美味しいと叫ぶが良い。はっはっはっはっは』

「大いなるヤハーよ、今日の恵みに感謝いたします。いただきます!」


 玉子豆腐に黒いソースを掛けてスプーンで一掬ひとすくい口に入れます。

 無言です。

 二掬ふたすくい目を口にします。

 無言です。

 暫くしてラララステーラの瞳が潤みました。

 前にあるのは空になった玉子豆腐の小皿です。

 涙がこぼれます。

 右手が羊乳に伸びます。

 両手でコップを包みます。

 手が震えています。

 両手が震えています。

 空になったコップを持ってラララステーラが叫びます。


「美味しい!お替わりー‼︎」




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「ジュエリア!覚えておきなさい!」

『はっはっはっはっは。我こそは大魔導ラッシーである』


 空になった四つの小皿を前にしてラララステーラが声を上げます。

 それを合図にして食堂の扉が開きます。

 扉の外で待機していた様です。

 今度の料理は二皿です。

 グレースジェニアと大魔導ラッシーの前に置かれます。


『はっはっはっはっは。我こそは大魔導ラッシーである。この料理はルーンジュエリアとジェニアお母様が同時に食べる必要がある』

「へ?私も?」

『はっはっはっはっは。そうである。二人が同時に食べなければ最後の呪いは解けないのである』


 ポールフリードが執事長に問い掛けました。


「セラフィン。あれはステリナとリアーナも美味しく食べられると思うか?」

「少なくともわたくし達は美味しく食べられるものと推測いたします」

「結末を見られなくなる事は申し訳ないが急ぎグランブルへ直接、夕食の献立追加を頼んできてくれ」

「畏まりました」


 サンストラック家にいにしえより伝わる三つの呪いは解かれました。

 家族の顔に明るい笑顔が溢れます。

 おそらく今日の夕食を楽しみにしているのでしょう。


 そしてルーンジュエリアの危機は回避されました。

 あんな魔獣が居るのなら多少の事はどうでもいいとグレースジェニアが考えたからです。


 しかしここに、もんの表情の男がいました。

 セラフィン・マクベス、四十六歳。

 サンストラック家の執事長です。


「お館様、申し訳ございません!」

「どうしたのだ、セラフィン!」


 執事長の不穏な様子にポールフリードが問い掛けます。


「実は、お館様には秘密にしておりました事がございます」


 苦しげに言葉が吐き出されます。


「当サンストラック家には代々の執事長のみに伝えられる七つの呪いがございます」

「なんと!我が家には、その様な秘密が!」

『お前ら、なー‼︎』


 無事に七つの呪いが解けた執務室と執事室は壁に十二・十二の暗記用計算表が貼られ、二種類の算盤そろばんと六種類の計算尺が使われています。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 ここはルーンジュエリアの自室です。

 お嬢様はキサラと二人で風流をしています。


「ふみー。和みますわ」

「お嬢様、ご満悦ですね」

「キサラもリンリンムシの声は楽しめるようになりましたか?」

「はい。わたしはジュエリア様に毒されたようです」

「ふみ。それは喜ばしい事ですわ」


 二人が鈴虫の声を楽しんでいると、遠くから絹を引き裂く可憐な声が聞こえます。


「フン、ギャーーーー‼︎」

「ふみ?」

「ラララステーラお嬢様のお声ですね」

「ラララお姉さまは相変わらず楽しいお声を上げられますわ」

「様子を見て参りましょうか?」

「ジュエリアも参りますわ。愉快な話題が待ち構えていそうですわ」



「ケダモノよ、ケダモノ。この館からあのケダモノを追い出して!」

「何事ですか、騒々しい」

「グレースお母様、あれが、あれが出ました」

「クラウディア。それはどうなりましたか?」

「はい、グレースジェニア奥様。あれは廊下の壁にいて、その、ラララステーラお嬢様の目の高さにおりました。お嬢様のお声に驚いたらしく足速く逃げて行ったのですがー、」


 クラウディアは一度言葉を切りました。

 そして意を決して続けます。


「ラッシー様が食べてしまわれました」


 あー。

 それは駄目ですね。

 特に女性はあの黒い物が触れた物さえ触るのを嫌います。

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