022 標4話 親友フレイヤデイ侯爵第一令嬢グローリアベル様ですわ 5
ルーンジュエリアとグローリアベルは川原に立ち、対岸の崖を見ます。
距離十五メートルくらい。
程よい距離です。
「ではリア様。魔力量増強計画を始めますわ」
「具体的には何をするの?説明しなさい」
「ふみ。魔力は体力と同じく体を鍛えれば増加しますわ。魔力を使って体を鍛える。簡単に言うとそれだけですわ」
ルーンジュエリアはその内容を説明します。
魔力が空になるまで頑張って、その回復を待つ。
彼女自身が五歳の時から毎日続けている鍛錬のやり方です。
他にもっと良いやり方があるかも知れませんが、お嬢様はそんな都合の良い他のやり方を知りません。
結果として鍛錬の効果は必ず現れるから問題は無いですわ。
そんな風にも考えています。
「そんな話は初めて聞くんだけど、本当に上手く行くの?」
「それはジュエリアが実体験済みですわ。ジュエリアの魔力量を推測した上で効果が期待できないと思うのでしたら他の方法を提案しますわ」
「他に方法があるんだー」
「効果が表れるのが遅いからお勧めはしませんわ」
「ではさっさと効果が現われる方のやり方を教えなさい」
「ふみ。体力と同じですわ。疲れてぶっ倒れるまで魔力を使って、魔力が回復したらまたぶっ倒れるまで魔力を使う。それを何十回と繰り返す。ジュエリアの経験で言うとこれが一番手堅く魔力量の増加に繋がりますわ」
「いいわ。それで行きましょう。手順はどうやるの?」
「リア様が得意とする魔法術で一番大きく魔力を消費するものはなんでしょうか?」
「んー。ファイヤーボールね」
お姫様の一言でお嬢様が笑顔になります。
ファイアーボール。
憧れの攻撃魔法ですわ。
やっぱし攻撃魔法と言えばファイアーボールですわ。
「それは好都合ですわ。ジュエリアはファイアーボールを教えて欲しいですわ」
「知らないの?」
「ジュエリアの様な子供にファイアーボールを教えてくれる大人がいる訳はありませんわ」
「そりゃそうね。見ていなさい。大いなる神に居並ぶ輝きの柱、ソラより下りて我に有れ、我が前を閉ざす全てを灰と化せ、ファイヤーボール!」
お姫様がかざした左手の前に直径三十センチメートルほどの火球が現われて崖へ向かって飛んで行きます。
火球はぶつかった崖を少しえぐり、四散する事無くそこで燃え続けてやがて消えました。
純粋に魔力だけを燃料として炎を燃やし続ける。
これは魔力の消費量が多そうです。
「どう?結構なものでしょ」
「時間が無駄ですわ」
ですがお嬢様は不満を口にします。
だらだらと呪文を読み上げていたらとっさの時に間に合わない。
それはお嬢様のポリシーであり、忘れられない実体験です。
「ふーん。どう無駄なのかしら」
「リア様はどの様な状況でファイアーボールを使うとお考えですか?」
「それは……、魔獣とかの敵を前にした時ね」
「ジュエリアは大きな虫と闘っている時にライトを使おうとして、物凄い苦戦をしましたわ」
「闘っている最中にライトって、――あの、物を焼き切るライトの事?」
お姫様は叔母に見せてもらった光魔法を思い出します。
小さくもない銅像の腕を焼き切り取った光魔法術。
極めれば鎧を切り裂く事もできるのだろうと推測します。
「ご存知ですか。ですわ」
「ヤは使わなかったの?」
「ヤは相手を串刺しにして物に固定する魔法術ですわ。その時は相手の力が強すぎてヤをことごとく折り千切られてしまいましたわ。苦渋の策でライトを使いましたが相手の動きが早すぎて当たりませんでしたわ。
ジュエリアを助けて下さった方がいなければ死んでいた可能性もある程に無様な戦いでしたわ」
ルーンジュエリアは自分の失策を思い返します。
原因は簡単です。
何かがいる、との推測を立てながらその為の対策を立てずに行動を起こしました。
航海先に立たず。
船に乗った後で忘れ物に気づいても手の施しようがありません。
事前準備は事前にするものです。
事後準備は次の為の事前準備です。
「そのライトとわたしのファイヤーボールが同関係するのかな?」
「ライトが当たらなかった理由が呪文詠唱の間に逃げられるってお粗末な猪路末な十姉妹な話でしたわ」
「あ!」
お姫様にお嬢様の説明の内容が判りました。
攻撃魔法の呪文を詠唱している間に反撃を受ける。
実戦で最も忌避すべき事態です。
「例えばですわ。昇る炎よ、灯れ、火よ起きれ。ジュエリアはファイアーボールを知らなかったので、ファイアーを使いますわ」
ルーンジュエリアがかざした左手の前に直径三十センチメートルほどの火球が現われます。
先程グローリアベルが使用したファイアーボールの火球とほぼ同じ大きさです。
「我が手を飛び立て、かくあるものを
ルーンジュエリアはシュートの魔法術を使います。
火球は崖にぶつかり、そこをえぐり焼きます。
ファイアー+シュート。
その威力はファイアーボールに引けを取りません。
それを見たお姫様は、問われた言葉に答えます。
同じ威力なら負けは認めません。
「そんな事、やって見なくちゃ判らないわ」
「ふみ。その通りですわ」
お嬢様は崖を向きます。
手など上げるとか無駄な動きはしません。
「ヒ、シュー」
ルーンジュエリアの胸元から撃ち出された火球が崖に突き刺さります。
威力は先程と全く同じです。
「もう一度お聞きしますわ。リア様とジュエリアが対峙したらどちらが勝つと思われますか?」
「――ユーコよ」
「どの辺りの時間が無駄なのか、ご理解いただけましたか?リア様」
ルーンジュエリアは短縮呪文でファイアー+シュートを再現しました。
その起動時間は無詠唱と呼んでも過言ではありません。
これが実戦だったら。
間違いに意地を張るほどお姫様は頑固ではありません。
「ではリア様。手っ取り早く詠唱呪文を短縮しましょう。何にします?」
「何にする、ってそういう風に決められるものなの⁉」
「短縮呪文はその場に合わせて言いやすく、できるだけ短く、詠唱呪文である事を相手に気付かれないものが望ましいですわ。リア様はヤを聞いて、どのような魔法術かすぐに思い出せますか?」
「できるわ。見た目がそのまんまじゃない」
「ではヤと聞いて詠唱呪文だと思いましたか?」
「思う訳ないでしょ。普通は無詠唱だと思うわよ」
「それが望ましい短縮呪文ですわ。んー。ファではいかがですか?」
「ファはファイヤーのファ?」
「ファイトのファではありませんわ」
「いいわ。それで行きましょ」
お姫様に笑顔が戻ります。
見守る家臣たちもくつろぎます。
会話の中身は聞こえませんが、その一手一歩が楽しそうです。
それくらいは遠目でも分かります。
「ふみ。ではジュエリアに続いて下さい。大いなる神に居並ぶ輝きの柱、ソラより下りて我に有れ、我が前を閉ざす全てを灰と化せ、」
「大いなる神に居並ぶ輝きの柱、ソラより下りて我に有れ、我が前を閉ざす全てを灰と化せ、」
「我汝を呼ぶのなら唱えよう、参れファ也。ファ」
「我汝を呼ぶのなら唱えよう、参れファ也。ファ」
並んだ二人の左手から合わせて二つの火球が飛び出します。
そして崖をえぐります。
「ふーん。いいじゃない。ファ」
満足顔なお姫様です。
調子に乗って連射します。
そもそも魔力を浪費する鍛錬です。
やめる理由はありません。
「ファファファファファファファファファ」
「リア様?」
見守る家臣たちは青い顔です。
やがて笑顔が広がります。
さすがは我らのお
あのようなファイヤーボールの連射など噂話にも聞いた事がない。
此度の旅行が成功だったと確信します。
「ファファファファファファファファファ」
「リア様の魔力はいつ頃空になりますか?」
「ファ!んー。いい汗かいたわ。わたしの魔力なら空よ。今すぐ座り込みたい位もの凄く疲れたわ」
「ふみ?魔力が空なのになんでリア様は立っていますの?キサラはどう思います?」
「え?いえ。わたしには分かりかねます」
キサラは魔法に詳しくありません。
キサラの側のもう一人のメイドは質問の意味自体が分かりません。
「それもそうですわ。リア様、失礼いたしますわ」
「え、なに?」
ルーンジュエリアの経験では魔力が空になったら立っていられません。
座り続ける事さえできません。
体を起こしていられない程に疲れ果てます。
リア様の魔力はまだ大分残っていますわ。
おおいたではありませんわ。
そう考えてお姫様の背中に右手を当てます。
唱えるのは魔力を同調させる魔法術です。
「我と汝は同じ物、神々の名は与えられし力を我に留める。汝我にその手を開く、その嵩は限りを知らず。ファ」
「ぇ!」
グローリアベルの胸の前からファイアーボールが飛び出します。
自分の魔力が使われている。
その疲労感からそう判断します。
「まだ残っていますわ。ファファ」
「待っ、て、た、す、け……」
「ファ。まっ。こんなもんですわ。ハン。リア様、とっととお起き下さい」
魔力を使い果たしたお姫様が崩れ落ちます。
そう、これが普通の姿ですわ。
ルーンジュエリアは安堵します。
ですが慌てふためいているのはお姫様の家臣たちです。
お
離れていたメイドと従者と騎士が駆け寄ります。
「「「お
「ふみ?ヤ‼︎」
お嬢様は驚きません。
足の甲を地面に縫い付けます。
四人とも転びますが足は地面から離れません。
「ハン。キサラ。しばらく見張りをお願いしますわ」
「おのれ、貴様。お
遠くで騎士が唸ります。
ヒールは掛けたから問題ありませんわ。
見張りはキサラに頼んであります。
「無いから覚悟する気は無いですわ」
「ジュエリア様、よろしいのですか?間違いなく問題になりますよ」
「その辺りはリア様にお願いしますわ。ふみー。リア様。さっさと起きて下さらないとジュエリアの立場が悪くなりますわ。お急ぎください」
お嬢様には毎度の事です。
たかが魔力切れでいつまで寝ているんですの?
そうお考えになられています。
しかし初めての体験にお姫様の心は追いつきません。
魔力が回復している自覚はありますが、精神的な疲労は全く癒えていません。
「あんた、ねえ、はぁ、はぁ」
「既にヒールで魔力は回復している筈ですわ」
「はぁー、はぁー。今のに、どんな、意味があった、のか、説明しなさい」
「ふみ。ジュエリアは治癒魔法を掛けてくれる人がいませんでしたわ。ですから今のがジュエリアの一日分の鍛錬ですわ」
「ふーん、はぁー。成る程。効果は抜群だ、って感じね。確かに効いてるわ」
今の数分が彼女の鍛錬の一日分?
まあ、魔力切れを一日に何度もやったら周りが五月蠅いわよね。
お姫様は納得します。
「そう言う事ですわ。それでリア様。こちらの方々に今の事を説明して頂けるようお願いですわ」
「なーに?これ。弱い者いじめにしか見えないんだけど」
お姫様は地面に座り込む家臣たちを見渡します。
四人がかりで子供一人に無様なものね。
わたしにこれができるかな?
一度お嬢様へ目を振ります。
「エルパイン、大変そうね」
「お
「わたしは息災よ。あなたは――痛くないの?」
「ご心労をおかけ申し訳ございません。彼奴はこの状態で治癒魔法を唱えました。見目とは異なり健常そのものでございます」
「そう、良かった。あなたも気づいているでしょうが彼女はわたしよりも上です。わたしは彼女の教えを受け、自らの力を更に押し上げるべくこの旅を計りました。わたしを信じて皆と共に見守って下さい」
「は!お
「皆の者も頼みましたよ。信じております」
「お
家臣たちをなだめたお姫様はお嬢様を振り向きます。
そしてにっこりと微笑みます。
「ユーコ、これでいい?」
「ふみ。本物のお姫様みたいですわ。ヤー!」
「本物の姫よ」
「では本物の姫様、失礼いたしますわ」
「え、ちょっと!」
ルーンジュエリアはグローリアベルの背後に回るとその背中に手を当てます。
お姫様の戸惑いの声なんて無視です。
今日は陽が高いうちに帰るつもりです。
あと一時間程度しかありません。
グローリアベルは魔力量増強を
一泊二日。
明日の昼食前には帰ります。
時間が惜しい。
心は宗像コーチです。
「我と汝は同じ物、神々の名は与えられし力を我に
家臣たちは悩みます。
止めるべきか、信じるべきか。
すでに心は決まっています。
お姫様を信じると決めました。
「汝我にその手を開く、その嵩は限りを知らず。ファ」
その家臣たちの前でお姫様がファイアーボールを連射します。
「ファファファファファファファファファファファファ」「「「「お
頭はのけ反り、棒立ちです。
時たま手足が痙攣しているようにさえ見えます。
見間違いだろうと頭を振ります。
「ファファファファファファファファファファ、打ち止めですわ」
地べたに潰れたお姫様がうつろな瞳でルーンジュエリアを見上げています。
「あ。今度はまだ余裕がありそうですわ。ハン」
「ユーコ。あんた、ねえ、はぁ、はぁ。待てって言ったでしょ!」
「ヒールで魔力は回復しますから問題ないですわ」
「はぁー、はぁー、はっきり、言う。体は、ともかく、心が持たないのよ。待てって言ったら、待ちなさい!」
「と、訳の分からない供述を繰り返すのは結構ですが時間がもったいないですわ。三回目、行きますわ」
ルーンジュエリアは止まりません。
時間が惜しい。
時間を無駄にしてはいけない。
新と言う名のりぴーとが頭の中に浮かびます。
主題歌は探偵団です。
「我と汝は同じ物、神々の名は与えられし力を我に留める。」「お願い待って!」
お姫様の叫び声が聞こえます。
「汝我にその手を開く、その嵩は限りを知らず。ファ」「いやー‼︎」
お姫様の絶叫が聞こえます。
家臣たちはお姫様の雄姿を見守ります。
メイドの一人がキサラへと近寄ります。
「もし」
「ご用でしょうか?」
「少しばかりお話を伺っても構いませんでしょうか?」
「はあ。お二人のお邪魔をする訳で無いのでしたら不都合はありません」
キサラは二人と相手が両方とも目に入る方向へ顔を向けます。
相手のメイドも同じような事をしています。
「今されている内容はお
「そうですね。わたしもそう伺っております」
「ヒールで相手の魔力を回復した時はそれ相応の魔力を失います。そちらのお嬢様は何故魔力切れにならないのでしょうか?」
「ああ、その理由でしたら簡単です。わたしの主人にとってあの程度の魔力は使っていないも同然です」
「左様ですか?」
「はい。それがルーンジュエリア様です。御年五歳の時から三年間、後ろに従ってきたわたしだから判ります」
魔法に疎いキサラにでも測れます。
ジュエリア様の魔力量は異常ですね。
「それでは理解が及ばないわたくしに教えて頂きたいのですが、あのような方法の鍛錬で著しい効果が期待できると思われますか?」
「わたしは魔法に疎いもので確信はありませんし、断言もできません。ですがルーンジュエリア様を信用しております」
「信用ですか?信頼ではなくてですか?」
「同じようなものだとは思います。ただ、わたしがルーンジュエリア様に持つ感情は信用ですね」
「分かりました。わたくし方もわたくし達のお
「いいえ。なんぼのものでもありません」
二人並んでそれぞれの主を見守ります。
ただ主を見守り続ける。
それもメイドの仕事です。
「だから、待てって言ったら待って、ねえ、ほんとに心が死んじゃう、」
「我と汝は同じ物、」
楽しそうですね。
そうキサラは考えます。
水を得た魚のよう、そう表現すれば良いのでしょうか?
もうすぐ帰宅の時間です。
その時まではじゃれあう二人を見守るのがキサラ自身の仕事です。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
サンストラック邸の玄関前で馬車を降ります。
お姫様はへとへとです。
ヒールで魔力と体力は回復しています。
けれども心の疲れは取れません。
「あー、酷い目に遭いました」
「ジュエリアはとても面白かったですわ」
「わたしを虐める事は愉しめた?」
「ふみー。楽しくて甘やかしすぎたと反省していますわ」
「どっこがー?」
二人並んで歩きます。
体半分、お嬢様は後ろです。
「ふみ?リア様。ジュエリアの部屋で休みますか?」
「招いてくれるんだ」
「ふみ」
部屋の前まで着きました。
ここはサンストラック邸です。
キサラが扉を開けようとします。
「待ちなさいキサラ。先に入って控えなさい」
「……?かしこまりました。失礼いたします」
キサラは入室すると扉を閉めます。
「リア様。どうぞ」
閉まった扉の前でルーンジュエリアはその扉を指し示します。
グローリアベルの心が
「ユーコ?まさか!」
「ふみ」
「入るわ。我に天界を望み、為しさせよ。我は天界へ羽搏く。始めさせよ、我が前にこそ道がある、エブリボディ・キャンドゥ!」
お姫様の口元が笑います。
これほど心
心が躍るとはこの事でしょう。
お姫様の両手は扉の板を搔き分けます。
その体が扉の中へ消えさります。
従うお姫様のメイドは驚きの表情を隠せません。
ルーンジュエリアは後ろを向いて微笑みます。
メイドののどが鳴ります。
「我に天界を望み、為しさせよ。我は天界へ羽搏く。始めさせよ、我が前にこそ道がある」
続いてルーンジュエリアが扉を抜けて部屋に入ります。
出迎えたのはお姫様です。
椅子に腰かけてふんぞり返っています。
「いらっしゃい、ユーコ。待っていたわ」
「ジュエリアの部屋ですわ。キサラ。お供の方を出迎えなさい」
「かしこまりました」
「ははははははははは。ユーコ、最高。最高の気分よ!ははははははははは」
グローリアベルは高笑いを上げます。
椅子から立ち上がるとルーンジュエリアを見つめます。
仰々しく右手人差し指を向けます。
「ユーコ。あなたの全てをこのグローリアベル・オブ・アルベリッヒ=フレイヤデイに差し出しなさい!ははははは、ははははははははは」
「ふみ。お心のままに」
グローリアベルは笑います。
天を仰いで笑います。
両手を掲げて笑います。
魔王になる気分が判りました。
そんな事さえ考えます。
ルーンジュエリアは初めて出来た同等の友人がはしゃぐ様を見ます。
そして我が事の様に喜びます。
「ユーコ。あなたって好きな殿方とか将来を誓った殿方っているの?」
「いますわ」
「居るんだ。どんな人?」
「ふみ?脈絡が分かりませんですわ?」
コイバナです。
この辺りは普通の子供です。
「ん?わたしにも好きな男の子は居るんだけど結構手ごわい相手なのよ。だからユーコはどーかなって思ったんだけど」
「ジュエリアの愛を独り占めるお方は高根の花ですわ」
「そなの?意外だわ。どっち?」
「ふみ?」
お嬢様は戸惑います。
ウエルス王国には高根の花と呼ばれる男性が居るのでしょうか?
「だから、王子殿下のどっち?」
「違いますわ」
「え?」
「ジュエリアの愛する殿方はお父さまですわ」
「そなの?」
お姫様は在り来たりな答えに落胆します。
「ふみ。リア様の想い人は王子殿下ですの?」
「そよ。第一王子殿下。ユーコはお父様ってサンストラック伯なの?」
「男の子の初恋は母親、女の子の初恋は父親と相場は決まっていますわ。ジュエリアはまだお子様ですから父親への初恋をこじらせているのですわ」
「結婚できない事は知っているのよね?」
「難しいだけで方法はありますわ。お母様方の内、一人でも禄じゃない方がおられたら否応なく禁断の恋を突っ走りますわ。残念ながらジュエリアは家族の愛に恵まれていますわ」
「いい事じゃない」
「ですからジュエリアは喜劇の主人公ですわ」
「悲劇じゃないんだ」
ふとルーンジュエリアは上に目を向けます。
人は何故考え事をする時、上を向くのでしょうか?
「王子殿下もいいかも知れないですわ」
「なに、ユーコ、わたしの恋敵になるの?」
「抱き合わせ販売ですわ」
「抱き合わせ?」
これでも貴族の娘です。
縁を結ぶなら家の繁栄を考えます。
「リア様が正室、ジュエリアが側室。二人一緒が婚約条件ですわ」
「なになに!いいの?それでいいの?」
「ふみ。リア様はよろしいですか?」
「よろしいですわよろしいですわ、ユーコと二人ならもう一つの夢も現実になるわ!」
お姫様がはしゃぎます。
お嬢様が一緒なら引く手数多は間違いありません。
「ふみ?他にも想い人が居るんですの?」
「違います。皇帝妃になって国母になる夢よ。ユーコと二人ならできるわ」
「協力しますわ」
「期待するわよ!」
「任されますわ!」
女子会のコイバナは続きます。
控えるメイド二人は笑顔を合わせます。
そして優しく見守り続けます。
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