せっかく魔法があるのですから働いたら負けですわ(標準語版)

紅稲沢凛

標一章 八歳・春 大魔導ラッシー編

001 標1話 デスバトル!G消滅作戦ですわ 1


 北半球中緯度に存在するカミイ大陸。

 トンデン半島の南部を大きく占めるイノバッド中平原にウエルス王国はあります。

 サンストラック伯爵領があるのは王国東方の低い山々に囲まれた谷合いの平地です。

 ルーンジュエリアはそのサンストラック伯爵家の第二令嬢です。


 ルーンジュエリアには、物心着いた頃から奇妙な思い出がありました。

 異世界に生きた自分の記憶。

 たくさんの人々が住み、生き、働き、暮らしていた科学文明の世界。

 それは自分が認識できるこの世とは全く違う空想と妄想の世界でした。


 それとは別にルーンジュエリア本人としての記憶もあります。

 一番古い記憶、家族たちに聞き訊ねた話によるとそれは三歳の頃の様です。

 ルーンジュエリアは病気で寝込んでいました。

 家族の話では麻疹はしかだったようです。


「ふみーぃ」


 ルーンジュエリアには変わった口癖があります。

 古い記憶をたどれば、それは異世界に生きていた頃から続く口癖です。

 けれど本人としては今の自分と異世界の記憶は区別できません。

 単に昔の自分と今の自分であり、別人と言う区分けはできません。

 あの頃と今の様なものと言う表現が一番近いかも知れません。


「ふみーー」


 枕元ではメイドが控えて看病しています。

 時刻は夜が更けて数時間後、もうすぐ日が変わります。

 ですが病人に時間は関係ありません。

 メイドがおでこに載せた濡れタオルを替えていると扉がノックされました。


「もし。ルージュリアナ奥様です」

「はい。お待ちください」


 壁際の椅子に腰かけていたもう一人のメイドが扉を開けるとメイドを二人伴った年若い貴婦人が現われました。

 ルーンジュエリアの実母である第三夫人ルージュリアナです。

 彼女は寝ている娘の枕もとにしゃがみ込むとその頬に手を当てます。


「奥様。ご病気がうつってしまいます」

「エリザリアーナはステラに預けて来ましたから心配は要りません。今夜はわたくしも付き添いいたします」


 ルージュリアナはもう一人の娘を第二夫人に預けてきたと答えます。

 この世界でも経験則として麻疹はしかは一度かかると二度と掛からない事、麻疹はしか患者に近づいた未感染者だけが発病する事は知られています。

 ですから触った人が近づいただけでも未感染者が発病するのではないかとも考えられています。

 正しい隔離の考え方がまだ存在していませんので看病は手探り状態です。


「容体は安定しているようですね」

「はい、奥様。今晩が峠の様です」

「ジュエリアなら持ちこたえてくれると信じています」


「ふみーぃ」


 ふとルーンジュエリアがうなされます。

 ルージュリアナは布団の中に手を入れ、小さな手を握りました。

 まだ三歳の子供は頼りなくその手が握り返してきます。


「ジュエリア。母はここに居ますよ。日差しここに在りて、ソラの恵みは魔を打ち据え」


 ルージュリアナは初期レベルの介護魔法を唱えます。

 病気を治すような大きな効果はありません。

 ただ何となく気分が良くなったり、体が楽になった気がするだけです。

 それでも娘の顔は幾分柔らかくなったように見えます。


「こういう時に限って治癒魔法を使える方が出払っているとは運が悪いです」

「明日の昼にはグレース様が帰って来られます。それまではジュエリアに頑張ってもらいましょう」

「お嬢様なら大丈夫です。このお歳でこれだけ聡明なお子様など滅多にいるものではありません。創造神ヤハーの守護に恵まれている事は間違いありません」



 一夜が過ぎました。

 外の光でルーンジュエリアは目覚めます。

 ですが熱でぼーっとした頭では何も考えられません。

 それでも枕元に自分の母の姿を見つける事が出来ました。


「おかあ……た、ま」

「ジュエリア。気が付きましたか?」

「ふみー」


 まだ頭の痛みは取れませんが、母の笑顔を見ているだけで安心できます。

 今頃になって母が自分の手を握っている事に気が付きます。


「おかあたま。気持ちいい」

「ああ、それは母の魔法です。母のひ弱な魔法がジュエリアの助けになってくれるなら幸いです」

「まほう?」

「そうですよ」

「魔法があるのー?」

「ええ、有りますよ」


 ルーンジュエリアはとても大切な事を聞いている気持ちがあります。

 ですが熱で呆けた頭の中ではそれをうまくまとめる事ができません。

 だから考える事をやめて別の話に移ります。


「ふみーん。だっこー」

「まあまあ、まだ病気だから駄目ですよ。病気が治ったら幾らでもだっこしてあげますね。今はおやすみなさい」

「ふみー」


 ルーンジュエリアはこの時の事を何も覚えていません。

 何があったかは家族やメイド達に教えてもらいました。

 ただ幼い頃のおぼろげな記憶の中には母の温かい手のぬくもりだけが刻まれています。

 この時ルーンジュエリアは、母が自分に使った介護魔法と出合った事でその人生に一つの目標ができました。


(魔法が有るんなら、魔法を覚えれば一生働かなくていいんじゃね?)


 石造りの屋敷に住み、執事、従者とメイドに傅かれ、緑と川に囲まれた自然の中でのどかに暮らすルーンジュエリア。

 これはルーンジュエリアと言う少女が家族の愛に囲まれてやんちゃに生きる物語です。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 ゴキカブリと言う名の虫がいます。


 ゴキとは御器。すなわち食器です。

 食器の中へ頭を入れて覗き込む。

 まるで食器を被ろうとするがごとく、その中を這い回る姿から名付けられた虫です。

 元々は林の中。木のうろや朽ち木の割れ目に住んでいますが、人間の家屋が多くなるに従い、家庭内昆虫の代表として大頭だいとうしてきました。

 ゴキカブリはコーロギの遠縁です。

 しかしコーロギと異なり羽をこすって鳴く事はせず、集団生活する事で種族維持する事に特化した生態をします。


 ウエルス王国は地震がほぼ無い安定した大地です。

 ほぼでは無くまったく無いと言い換えてもいいでしょう。

 故にその家屋の多くは石造りです。

 とは言え、草ぶきの屋根、木の梁、草や糸で編んだ敷物。

 適度な湿気は炊事場以外でもこの昆虫の生息に適していました。


 ここ、サンストラック伯爵領領都ホークスには一般的なゴキカブリが二種類います。

 チャイロはいいです。

 全長十ミリメートル。大きくても十五ミリメートルなら問題はありません。

 しかも足が遅く、動きは怠慢です。

 だがクロよ。あなたは駄目です。

 全長五十ミリメートル。

 カサコソと高速で動き回る大柄な昆虫を特に女性が忌み嫌いました。



「ふみー。なごみますわ」

「ジュエリア様、ご満悦ですね」


 まだ八歳の少女が自室のソファーに座って虫の声を楽しんでいました。

 少女の名はルーンジュエリア・オブ・ハッピーレイ=サンストラック。

 ウエルス王国、武のサンストラック伯爵家の第二令嬢です。

 肘まで流れるストレートのバターブロンドは手入れが十分にされており絡むこと無くてかり輝きます。

 優しい瞳は澄んだパープル、眼元がはっきりとした二重です。

 白い肌は透き通る様ですが、見目好い血色は血の筋が見える事など有りません。

 見た目だけはあたかも人形のようで美しさよりも愛らしさが際立つその姿に、もう少しお淑やかであればと親たちが思っている事は公然の秘密です。

 小さな虫にも声を上げる様な可憐な見た目にも関わらず、虫のたぐいを部屋で飼うお転婆な趣味を持っていました。


 ルーンジュエリアは今も鈴虫の音色を楽しんでいます。

 しかしながらウエルス王国には虫の声を楽しむ習慣はありません。

 外国人は虫の声が判らない、と言う意味不明な言葉があります。

 これには人間が丸や横棒を見た時に目や口を連想する事と大きな関わりがあります。

 音の高低でアクセントを付ける日本語を使う人は音を聞くと言葉を連想します。

 これが日本語に擬音が多い理由でもあります。

 ですが世界中のほとんどの言葉は音の大小でアクセントを付けるリズム言語ですから自然音を聞いても言葉を連想しません。

 「リーンリーンと鳴いているのがスズムシで、ガチャガチャはクツワムシ、ルルルルルルルルルルルルルがカンタンです」と教えられた外国人は、「どのメロディー鳴き声演奏し鳴いている楽器がそれなんだ?」と答える破目になります。

 これとは逆の現象で例えると強い音を長く発音するリズム言語があります。

 ウインナーワルツの三拍子は日本人には難しいと言われています。

 ウエルス王国の言葉は音の大小でアクセントを付けるリズム言語です。

 ルーンジュエリアの行動は極めて異端と呼べるでしょう。

 だからこそこう言います。


「ジュエリアとしてはキサラがリンリンムシの声に馴染んだ事の方が嬉しいですわ」

「え?わたしは虫の声に馴染みましたでしょうか?」

「そうですわ。つい先日まで虫を世話するジュエリアを死んだ目で見ていた事が嘘のようですわ……ヤ」


 ルーンジュエリアは短縮呪文を詠唱します。

 これは手頃な物を伸長、拡大して転移させる魔法術です。

 この伸長、拡大した物をコロニーと呼んでいます。

 例えば髪の毛をヤでコロニー化した場合だと太さ三ミリメートル、長さ三十センチメートル程の大きさになります。

 ルーンジュエリアが跳ばしたコロニーは部屋の隅に突き刺さり、大きな虫を一匹床に縫い付けていました。


「また嫌な虫がいましたわ。クロですの?チャイロですの?」

「ジュエリア様、チャイロです。相も変わらずジュエリア様の魔法はさすがですね。わたしの目ではいつコロニーを飛ばしているのかさえ分かりません」

「キサラは命の危機に際して時が止まったという話を聞いた事はありませんか?実は人の目は時の全てを見ていますわ。ですが目で見えても体の動きはその速さに追いつきません。だから人の目は時を百に分けた内、一しか見ていませんわ。つまりキサラの目はリンリンムシが羽をこする動きを見分けていますが他に大切なものがあるからその辺りのどうでもいい事は捨てているのですわ」


 ルーンジュエリアは密閉容器の加温加湿飼育で早春から鈴虫の声を楽しんでいます。

 そんな鈴虫の飼育方法をキサラは去年の一年間で覚えたようです。

 ルーンジュエリアの深い話題に戸惑う事無く付いていきます。


「わたしの目は怠け者ですね」

「それをいつでもできるように騎士たちは修練を続けているのですわ」


 騎士たちだけではなく自分たちのような普通のメイドも動体視力のちからを持っている。

 キサラは自分の目の能力に驚きます。

 そしてその事を知っていたルーンジュエリアの知識に舌を巻きます。


「ジュエリア様。このような難しい話は騎士様たちならどなたでもご存じなのでしょうか?」

「ジュエリア以外、知る訳ありませんわ。ああ、キサラは今聞いたから知っていますわ」

「以前から不思議に思っておりましたがジュエリア様はどちらで色々な知識をお知りになるのでしょうか?」

「元ネタはみんなが話をしていますわ。ジュエリアはそれを聞いただけですわ」


 ルーンジュエリアには別の世界の知識があります。

 こちらの世界でも同じく常識として通用するか?

 通用するならルーンジュエリアの知識は無限です。

 その一つ一つを確認しています。


「モトネタですか?」

「種の事ですわ。芽が出て花が咲くかは人それぞれですわ」

「所で先程のお話ですが、わたしの無礼には目をつむって頂いていると言う事でしょうか?」

「ジュエリアは自分のしている事が世間の主流から外れている事くらい知っていますわ。そんなさいな事で虫の音を共に楽しむ友人を手放したりはしませんわ」

「ありがとうございます、ジュエリア様」


 そんな二人の耳に可憐な少女の悲鳴が届きます。

 うら若い乙女の叫びです。


「フン、ギャーーーー‼︎」

「ふみ?」

「ラララステーラお嬢様のお声ですね」

「ラララお姉さまは相変わらず楽しいお声を上げられますわ」

「様子を見て参りましょうか?」

「ジュエリアも参りますわ。愉快な話題が待ち構えていそうですわ」


 ルーンジュエリアはキサラを引き連れ、声の元へと急ぎました。


「消滅よ、消滅。あれを滅ぼす事は領民、いえ王国民の義務です」

「何事ですか、騒々しい」

「グレースお母様、あれが、あれが出ました」


 自分のお付きメイドであるクラウディアにラララステーラが演説します。

 そこへ第一夫人グレースジェニアがやって来ました。


「クラウディア。それはどうなりましたか?」

「はい、グレースジェニア奥様。あれは廊下の壁にいて、その、ラララステーラお嬢様の目の高さにおりました。お嬢様のお声に驚いたらしく足速く逃げて行きました」

「ふーっ」


 グレースジェニアはため息をつきます。

 まだ子供とは言えはしたなく大声を上げるとか、娘の先行きが心配です。


「グレースお母様。クロですよ、クロ!わたくし、食べられるかと思いましたよ!」

「食べられなどしません。ステーラは適齢期なのですから自らの品を落とさぬように自重なさい」

「お母様。とっさの際に品の良い叫び声を立てる等できるものではありません」

かたわらに思い寄せる殿方が居ればできます。何方どなたがそのお方になるか分からない以上、何時如何いついかなる時もその心構えで動きなさい」

「そうです。その為にこそあれを消滅すべきです。まずは我が屋敷、いえ、わたくしが歩む廊下、室内だけでもず!」


 虫一匹で大騒ぎする。

 これが多くの令嬢淑女の姿です。


「ご機嫌良ろしゅう、ジェニアお母様。

 お姉ちゃん、如何いかがされましたか?明るいお声がジュエリアの部屋まで届きましたわ」

「あれよ!あれが出たのよ‼︎そうだジュエリア。貴女のコロニーでこの屋敷内のあれを全て串刺しにしてちょうだい」

「はぁ、あれですか?あれ?ああ、ああ、あれですね?アレ。しばしお待ちください」

「何をしていますか、ジュエリア?」

「えーと。屋敷内のあれを数えていますわ。んー。駄目ですわ。屋敷内のあれを全てコロニーで串刺しにしたら、使う本数のせいでジュエリアの頭に十サンチ以上の大きな無毛部ができてしまいますわ」

「嫌ーーー‼︎」


 ラララステーラは両手で両耳をふさいで叫びます。

 聞きたくないものを耳にしたくない。

 その様はまさに叫びです。


 廊下から場所を居間に移して重役会議の開催です。

 まずルーンジュエリアがお伺いを立てました。


「さて、どうしましょ?」

「ジュエリア。貴女のコロニーで屋敷内のあれを全て串刺しにするのは、貴女が無毛部の存在を我慢すれば良いだけなのよね。やって欲しいと思うのはわたくしの身勝手かしら?」

「身勝手ですわ。お姉ちゃんの髪がそうなったらどういたしますの?」

「ジュエリアお嬢様。コロニーに使うのはジュエリアお嬢様のぐしで無ければならないのでしょうか?例えばキサラの髪では無理なのでしょうか?」

「お待ちください、それは困ります!」


 グレースジェニアお付きメイドであるブリジッタの言葉にルーンジュエリアお付きメイドのキサラが異議を唱えます。

 ウエルス王国でも髪は女の命です。

 そう易々と失う訳には行きません。


「是か非かで述べるなら、誰の物でも構いませんわ。述べ足すのなら切った髪でも構いませんし、そもそもしばの小枝、芝の葉でも可能ですわ。それを踏まえてで不都合を言い上げるなら、串刺した虫を誰が掃除するかですわ」

「あんな物、話に聞くのすら嫌よ。放って置きなさい」

「運が悪いとお姉ちゃんの部屋の壁に飾りが増えているかも知れませんわ」

「ステーラはジュエリアが嫌いですわ」


 お姉ちゃんは口が悪い妹の真似をします。


「ヤーでしたらメイドの中に使える者たちがおります。後始末はさせて頂きます」


 ヤーはヤで大きくしたコロニーを元に戻す魔法術です。

 害虫退治にはこの二種類の魔法術をセットで行ないます。


「そうね。仕事を増やすけれどもお願いしたいわ」

「いえ。あれが駆除されるのであれば皆喜ぶと思います。死骸の後始末位なら苦情も出ないのではないでしょうか?」

「あ、串刺しても生きてますわ」

「へ?」「「えっ?」」


 予想外の内容を耳にして三人の驚く声が並びます。


「ふみー。虫の生命力を侮ってはいけませんわ。刺さり方と大きさ次第では三日位生きていてもおかしくありませんわ」

「ジュエリア。それは本当なの?」

「さー」

「さあ?」


 ルーンジュエリア自身は知識として虫の生命力を知っています。

 ですがそれを実験、確認した事はありません。

 足が取れても生きているその生命力の強さには例えようもない脅威を感じます。


「ジュエリアは実験した事が有りませんわ。実験する気もありませんわ」

「つまり、どーなるかは分からないと?」

「そう言う事ですわ。ですが虫の寿命は儚くとも虫の命は逞しいですわ」

「ふー」


 ラララステーラはため息をつきます。

 虫を串刺しにしたところでそれが消えてなくなる訳ではありません。

 誰かが掃除や後始末をしなければいけないのです。

 貴族の娘とは言え十歳はまだまだ子供です。

 自分がやるのは嫌だなーとか考えます。


「ステーラお嬢様。生きていても死んでいても串刺しの物なら些細な事です。わたし達は気にしません」

「そう。そうね。そうしてくれる?」

「かしこまりました」


 メイドたちは害虫駆除ができるなら、その掃除はすると言います。

 それはそうですね。

 誰が考えても誰にとっても嬉しい話です。


「ふみー。じゃあ、食器に刺さったとか高価なものに刺さったとか言う場合はお母様たちかジュエリアへの問い合わせをお願いですわ。ジェニアお母様とシルバお母様はヤーは使えますし、年齢的にジュエリアへの打診が一番楽ですわ」

「お心遣い、有難うございます」


 メイド達から感謝の言葉が飛び出します。

 状況次第では問い合わせるべきか否かを悩む事態も考えられます。

 事前に問い合わせの許可をもらえる事はメイド達にとって仕事が楽になる事を意味します。

 だからお礼の気持ちが並びます。


「それでお姉ちゃん。計画実行はいつにしましょ?」

「ん?今すぐでいいんじゃないの?」

「事前連絡無しで実行したらジュエリアが大目玉を喰らいますわ」

「あはは、そうね。ではクラウディア、明日の朝礼で報告してもらえる?」

「判りました。調理場と執務室には今日中に連絡しておきます」

「実行は一段落着いた頃がいいわね。朝食後八時でどうかしら?」

「いえ、それは……」

「朝の……一休み……」

「あ!音楽会」

「ふみ?」


 ルーンジュエリアの耳には歯切れの悪い言葉が並びます。

 おそらくは私用の予定が詰まっているのだろうと考えます。

 すると姉の方でも同じような結論に行き付いたようです。


「ジュエリア。メイド達にも都合はあるらしいわ。朝十時決行でやりましょう。貴女たちも大丈夫よね」

「「はい、ステーラお嬢様」」

「ではお姉ちゃんのお心のままに。大いなる創造神ヤハーよ。ついててここに授けよ」


 ルーンジュエリアは魔法術で木の板を作り出すとそれをメイドに指し示します。


「キサラ。これを扉の横に立て掛けて置いて欲しいですわ」

「なに?ジュエリア。見せて」

「看板ですわ」

「消滅作戦本部、ひつ・ルーンジュエリア。この最初に書いてある記号は何?」


 G消滅作戦本部。

 エング系魔法文字を知らないラララステーラはGが読めません。


「あれの事ですわ」

「ジュエリアお嬢様もお好きですね」

「ですわ」


 姉のお付きメイドであるクラウディアの言葉に返事を返したルーンジュエリアは、うんとこどっこいしょとソファーから立ち上がります。

 この世界には魔法があります。

 なんでも出来ちゃう筈なのです。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


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