第83話 男社会とオーク肉

「さあ、3人共! やっておしまいなさい!」

 3人は私の声と同時に茂みから飛び出し縦横無尽に駆け回る。


 無数の氷の矢ヒェロ・エクハが降り注ぐ混乱の中、五体満足でロペス達3人に対応できる豚頭オークもオーガも多くない。


 無事だったリーダーは私が降らせたと察した様だが、サブリーダーが負傷し、残ったオーガ達では自力で混乱を立て直すことができないようだった。

 指示系統が混乱している中、飛び出したロペス達めがけて襲いかかる者、私とイレーネを見つけて襲いかかろうとする者、負傷者を安全な所に運ぼうとする者と分かれ、それぞれが思い思いに行動し始めていた。


 ありがたいことにロペス達は自分達に向かってくるものと私達に来ている者を手分けして対応してくれている。

 魔力回復飲み薬ポーションが聞いてきたのか、力の戻ったイレーネを引っ張り起こすと、個別に氷の矢ヒェロ・エクハで対応できるように体勢を整えた。


「動ける?」

「まだ、ちょっとふらつくかな、でも少しなら魔法使えそう」

「じゃあ、あとちょっとだから頑張って」

 イリュージョンボディをまだつらそうなイレーネにかけるついでに自分を含めて戦場の空気の中で邪魔にならないように存在を希薄にして戦況を確認する。


 立っているのは3割以下、無傷でロペス達と戦っている豚頭オークとオーガは1割を切る状態で私とイレーネは自分の仕事を終えてじっとする作業に入る。

 流石に危険な場合は介入しようとは思うけれども、きっと彼ら同士で連携するだろう。


 まだ体調が戻ってない癖に飛び出したそうな気配を覗かせるイレーネの手を握って制しながら、数を減らしていくオーガ達とその間を駆け回り、捕まらないように左右にフェイントを入れながら振り回された武器を弾き飛ばし、伸ばされた手足を切断して回る様を見守った。


 1体1体足を止めて倒すより、足を止めることがないのでオーガ達が一斉に集まってきて袋叩きにあいづらい。

「やるねえ」

「今のあたしじゃ無理だね、一気に切断まで押しきれないよ」

 と、私のつぶやきに答えた。

「真髄に届いてやっとって感じかな、ま、がんばろうね」


 ロペス達が負傷してもなお戦意を失わないオーガと豚頭オークを始末し、ミレイアさんに隊長さんへの報告と素材回収要員を手配をお願いし、私達はキャンプへ戻り、休憩後ファラスに帰投することになる。

「来てもらってすぐに解決とはさすが士官学校生だな! 今素材の量を確認しているが、なにせ量が多いからな今日は泊まっていってくれ」

 隊長さんは笑顔で言うとロペス、ペドロ、ルディと握手をして肩をバシバシ叩いているのを、私とイレーネは後ろから眺めた。


「魔力はいい具合になってきたけど、やっぱり近接戦闘が課題だね」

 割り当てられたテントに入り、イレーネにお茶を淹れてあげながら今後の話しをしようとイレーネに話しかけると、簡易ベッドに腰掛けたイレーネがぽつり、とつぶやいた。

「今日もあたし達はいないみたいだったね」

「リーダーだけっていうのならともかく男だけっていうのはよくないよねー」「なんかカオルは平気そうだね」

「面倒なのが嫌いだからね、勝手に話が終わってくれるなら大歓迎さ」

 それと実は女じゃないからね、と、心のなかで付け加える。


 「この手甲の時は話が通じなくて大変だったから、是非時代を先にすすめてほしいものだよ」

「時代なの?」

「だれかが最初の1人になると時代が変わるもんさ」

 そういうとイレーネはわかったようなわからなかったような顔で紅茶を飲むと大きく息を吐いた。


 昨日から走り詰め働き詰めで疲れたので、せめて夕方まで仮眠を取ろうと簡易ベッドに横になると寝づらいベッドでも襲ってくる睡魔に身を任せた。


 それから起きたのは完全に日が落ちてからだった。

 ミレイアさんに起こされ目を覚ますと、私達が討伐した豚頭オーク肉が夕食に出るそうだ。


 ミレイアさんに連れられて食事用の場所の前の方にロペス達と座らされる。

 私は後ろのほうが好きなんだけど。


 ろくな明かりのない野外に8人掛けのテーブルが20台ほど並び、ハンター達は前の方に詰めて座った。


 隊長とミレイアさんは私達のテーブルの前に座り、次に私とイレーネが向かい合って座り、私の隣にロペス、向かいにペドロ、ルディと並んだ。

「イレーネが女だから無視されたって気にしてるから機会があったら気にしてあげて」

 隣に座ったロペスに小声で伝えた。

「すまんな、おれもあれはどうかと思ったんだが勢いに押されて口を挟めなかった」

「私としては面倒な挨拶が勝手に片付いてよかったんだけどね」

「お前はそういうやつだよ」

 と言って苦笑いをした。


 そのあと、焼いた豚頭オークが運ばれてきてハンター達と一緒に晩御飯を取ることになった。


 森の驚異は去ったということで酒も運ばれて来て隊長が席を立って

 我々は押し返すしかできなかったがファラスの貴族たる士官学校生がすべての問題を解決してくれた! というと、ハンター達から歓声が上がった。


「英雄たる彼らに挨拶をしてもらおう」

 ペドロが立ち上がりそうな所をロペスが目配せして立ち上がった。

「私はペドロ・バレステロスだ、ウルファラから来た。

 英雄として紹介されたが今回は真の英雄を紹介したい、彼女らだ」

 そう言うと、やりたいことに気づいたらしきペドロが目を丸くしているイレーネを立たせた。

 私もしょうがなく、やれやれ、と立ち上がりロペスとイレーネと一緒に前に出た。


 篝火が焚かれている中、後ろの方の人の顔は見えないし、向こうからもあまり私の顔も見えていないだろう。


「諸君らは想像できるだろうか、この空一面無数に広がる致死に至る氷の矢を、彼女らはそれを行使し100体を超えるオーガ共の8割以上を死傷させたのだ」

 イレーネと私にイ・ヘロを力いっぱい使ってやれ、と耳打ちした。

 イレーネと2人でイ・ヘロを使い、広場を一気に明るくしてみせた。

 たった数メートルほどだが顔もよく見えるくらい明るくなると、奥の方ではどうせ見えないと思ったか、焼いた豚頭オークにかぶりついている姿がよく見え、手に持った肉をそっと置いてごまかした。


 おお、と驚きの声が上がるのを確認し、ロペスが続ける。

「これが彼女らの魔法だ、この光の様に発現させた氷の矢が蹂躙し尽くしたあと我々が後始末をしただけなのだ」


「真の称賛は彼女達へ! 彼女達に拍手を!」

 ハンター達は私達に惜しみない拍手をしてくれた。

 外行きのロペスかっけーな、と思いながらイレーネをそっと見ると、誇らしそうに笑顔を浮かべ素直に称賛を受け取っているのが見えた。


 挨拶を終えて席に戻った、隊長さんの隣には座りたくなかったのでロペスと場所を入れ替えると隊長さんが

「そんな馬鹿な話があるか、彼女らは補助だろう?」

 というまったくもって失礼なことをロペスに不機嫌そうに小さな声で言っていたが普通に聞こえた。

「おれが言ったことは本当ですよ、ミレイアさんも見てましたし」

 ミレイアさんも頷いた。

「女がそんなことできるわけないだろう、手柄をゆずる約束でもしてたんだな? 色香にでも惑わされたか?」

 鼻をふんと鳴らして酒を煽ると、ミレイアさんが済まなそうな顔をした。


「いまのは聞き捨てならないな、明日起きて臆病風に吹かれて忘れていなかったらどっちかに勝負を挑んでみるといい」

 ペドロがそう言うと、むっとした顔の隊長さんが立ち上がろうとしたが、身体強化を掛けたロペスがまあまあ、と肩を押さえて座り直させた。

 子供の力相手に、どんなに力をいれても立ち上がれないことに目を白黒させながら隊長さんはボトルのワインと食べかけの肉を持って寝る! といってテントに戻ってしまった。


「すみません、彼は女性とみるといつもああして見下さないと気がすまないのです」

「そんな人の下で働くのも大変ですね」

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