第81話 雪解けと急ぎの用事

 なんだかんだあったけれども、新学期が始まりラウルとフリオはやっぱり治安維持隊の方にいくのだそうな。

 春までは一部の授業以外は一緒に訓練するらしいのでそれまでの短い間、よろしくという挨拶があった。


 春までの課題は相手に掛かっている身体強化や龍鱗コン・カーラなどの魔力を見るというもので、接敵した際に正しい人数と対応を取るために必須となる。


 相手の魔力が見れる方法くらい治安維持隊に転属する彼らに教えても良さそうだが、これから覚える『相手が今どれくらい魔力を使っていて、どのくらい余力を残しているか』という課題を中途半端にできるようになると

 表面上の見える魔力をすべてと思い込み、逆に危険なので教えないほうがいいそうだ。


 しばらくは相手の魔力を見て、自分の魔力量を調整して、剣で軽く打ち合うという訓練が続く。

 自分と相手の魔力量を見て調整するという反復の中で、

 今、自分がどのくらい魔力を出していて、まだどのくらい余裕があれば、

 まとう魔力はどの様に見えるか、という『ゆらぎ』がわかるようになってくる。


 熱心な生徒であれば2年生中にできるようになるのだが、

 熱心でない生徒は3年に入ってしばらくかかるらしいので、どちらかというと熱心でなかった彼らは参加が許されなかったのだろう。


 私とイレーネとロペスは魔法障壁マァヒ・ヴァルをぶつける練習をしていたせいか、思ったより早く『ゆらぎ』がわかるようになり、

 ルディとペドロは3年になる前に『ゆらぎ』がわかるようになった。


 そして、あっというまに雪解けの季節になった。

 最後に送別会とかするのかと思ったらこっちではそういう風習はないらしく、ルイス教官からちょっと説明され、次は3年で、と解散して終わりだった。

 別に特別仲良かったわけじゃないけど、別れを惜しむ的な情緒がないよね、とイレーネにいうと相変わらず変なこと気にするのね。と、言われた。



 都市部では雪が溶け、歩きやすいいつもの道になる頃、冬眠していた動物が目覚め、餌が増えた魔物が活発に活動をはじめる。

 そして、それを獲物にするハンター達も活動を始める。


 ある日、エリーに朝食を持ってきてもらって一緒に食事をしていると、慌てた様なノックの音が響いた。

「開いてますよ」

 と、答えると、すまない! と、いうと同時にバン! とドアが開けられ

 しらない男が手紙を持って来た。


「ハンター協会からの緊急事態の手紙だ」

 そう言ってハンター協会から来た男はエリーに私とイレーネの分の手紙を渡して帰っていった。

 イレーネはノックしたけど返事がなかったそうだ。


 思わずエリーと顔を見合わせて笑ってしまった、後で声をかけよう。

 渡された手紙を読むと雪解けに合わせて移動してきた豚頭オークの群れと

 冬眠から覚めた熊が魔物化しているので討伐の手を借りたい、という内容だった。


 今年は数が多く、登録しているハンターに声をかけているらしい。

 基本的に私は2階に立ち入りは禁止されているのでエリーに伝言を頼み、

 私はルイス教官のところへ行く。


「まーた面倒なことを」

 そう言って後頭部をバリバリとかいた。

「よし、授業の一環ということにしよう!  予算の確保と教育の成果と国への貢献!」

「ん? 予算? 国からはでないんですか?」

「ちょっとやりたいことがあってな、予算外の活動になるから諦めようと思ってたんだ」

 そう言ってニッと笑った。


「ということはいくら稼いでも持っていかれてしまうんですね」

「まあ、そういうなよ、低級の悪魔マイノール・ディーマの魔石で儲けたんだろ?」

 1回換金しただけですでに知られているとは、と驚いて鼓動が早くなる。

 平静を装いながら

「お金というものはいくらあってもいいものですからね」

「まあ、そういうなよ飯くらい好きなだけ頼んでいいからよろしくな」

 そう言って私に背を向けて手をひらひらと振って追い出した。

「その言葉忘れないでくださいね!まあまあいい店予約しますからね!」

「お手柔らかに頼むよ」

 という声を背後で聞いて、通用門へ急いだ。


 通用門ではすでにイレーネとロペス達が私を待っていた。

 ルディは面倒そうだったが、ペドロは骨折自体の治療は済んでいるが、衰えた筋肉のリハビリと魔力量の増加でルディ達に置いていかれているので、

 体を動かしたくて仕方がないらしい。


 私はルイス教官との話しを彼らにして、稼ぎは学校のものになるが終わったら、好きな店を選んでいくらでも食べていいと許可を得た話をすると食べ盛り達は大喜びではしゃいでいた。

 

 みんなでぞろぞろとハンター協会まで訪ねていくとフリオとラウルがハンター達の受付と配置の整理しているのが目に入った。

 私は見て見ぬ振りをしたほうがいいかな? と、考えているうちにペドロとルディがさっさと話しかけに行ってしまった。

 無神経じゃないのか、いいのか、大丈夫か、と後ろの方で心配しているとフリオとラウルもなんだか普通に話しをしているので杞憂だったようだ。


 君たちコミュ力高いな、と感心しつつ一緒に話しかけに行く

「元気そうでなにより、ルイス教官に稼いでこいって言われてるから一番いい所を頼む」

「そんなこと言われなくても士官学校の3年生は最前線だってよ」

 フリオが笑って答えた。



 ハンター協会の案内により、ファラスから出て、南へ徒歩10日ほどの所にある山の麓に配属になった。

 身体強化あるから遠くてもよかろう、ということか。

 まあ、いいけどさ、と心のなかでつぶやいて駆け出し、1日と3時間ほどで到着した。

 クルティエーナという宿泊施設の無い農村にたどり着き、先に待っていたハンター協会の偉い人と合流し、配置について打ち合わせる。

「増援をよこしたって連絡きたが、ガキじゃねえか」

「隊長、士官学校の生徒相手に思ったまま口に出すのはやめてください」

 秘書っぽい補佐の女性が無精ひげの隊長をたしなめた。

「おお、悪いな。手紙によると巨大猪グレートボアとか手長熊辺りなら1人で対応できるとあるが間違いないか」

 表情がキッと引き締まると一番前にいたペドロに聞くと、それならこいつに聞いてくれ、とロペスを示した。

「確かに1年半くらい前に3人でやった」

 やりはしましたが、正面で対応したのは彼1人ですよ、と補足した。


「十分だ、では、学生に大変なところを押し付けるようで悪いが、5人で一区画受け持ってもらいたい」

「では、討伐に専念するために討伐証明部位を回収できる人の派遣をお願いできますか」

 ロペスと隊長の間で交渉が進むのを黙って見守った。


 クルティエーナから半日ほど歩いた辺りにある山と山に囲まれた盆地へ続く道から盆地にかけてが受け持った区画となる。

 私達が受け持つのは野生動物ではなく、豚頭オークやオーガをメインとした群れを作って移動する魔物が相手になるそうだ。

「すまないが、どれだけ人を割いても普通のハンターじゃぶつかった時の損害が大きすぎる」

 というのは隊長さんの談。


 山を超えて見られないように隠れながら休憩を取れるというのは中々の知恵と社会性があるのだなぁ、と感心した。

 そういう話しを走りながらイレーネに話すと、またそんなことばっかり考えて!情が移ってもしらないよ!と怒られてしまった。


 討伐しているハンターのキャンプに着き、討伐の進捗や引き継ぎをした。

 現在は狭くなっている盆地の出口でバリケードを張って膠着状態になっている。

 森の中を迂回して来られない様に罠を張っているので入らないように、と言われた。


 偉い人を1人と補佐を1人と100人近くいたハンター達の半分を残してクルティエーナへ帰ってしまった。

 半分残ったハンターたちは夜間の警戒要員として残り、夜間、襲撃が合った場合は私達が起きるまでの間食い止めるだけで、戦ってはくれないらしい。

 丸投げされている、と少し憤りを感じるが、技術があっても魔力のない人達にうろうろされると、同士討ちの危険が増すだけなのでいない方がいいはずだ、と気を取り直した。


「では、休憩後、作業に取り掛かります」

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