第78話 着膨れる私と雪中移動
帰る日の朝となり、私はまず、制服を着ると、その上からセーターとカーゴパンツを重ね着した。
そしてその上から上着を着てモコモコに着膨れる。
ロビーにある食堂の受付にイレーネの分の朝食を頼み、自分の分のパンとスープを完食すると、イレーネに朝食をお届けする。
「んうぅ、ありがと」
イレーネは自分の鞄から二日酔い
イレーネの食事の脇で鞄に荷物を詰め、靴にいれた暖か中敷きの動作確認がてら食料の買い出しにでかけた。
必要なのは今日の分だけなので硬いパンではなく、いつも食べてる多少柔らかいパンで十分、イレーネの分も買って宿に戻ることにする。
宿に向かっている最中にここでは珍しいお茶を扱う商店で見かけた茶葉を買った。
マグカップに直接茶葉を入れて飲むものらしく、飲み終わったらまたお湯を注げば何度か飲めるという代物だった。
1人で何度も飲んでたらお腹がたぽたぽになりそうだが、回し飲みすれば大丈夫だろう。
冬季だけでももうすこし移動中の食事に種類がほしい。
動くエネルギーのためだけに摂取する味気ない食事が続くのは辛いのだ。
「準備はどうだい?」
部屋に戻ってイレーネの様子を伺うと食後のお茶を飲んでいたイレーネが親指を立てて答えた。
イレーネの分のパンをテーブルに置いて
「先行ってるよ」
と、部屋を後にした。
ロビーで皆を待っていると、ロペスとルディが降りてきた。
「おはよう、早いな」
「おはよう、起きちゃったから朝ごはん食べてパン買ってきた所だよ、今日中に帰るから手ぶら?」
「僕は昨日のうちに硬パン買っておいたよ」
「おれはこれから買いに行ってくるよ」
「そっかー、今日だけだから硬いパンの必要ないからね」
そういうと、ルディがはっとして私の顔をみた。
「長距離移動中の食事は硬パンっていうのは先入観に囚われすぎだね」
思わず笑ってしまってルディに言うと、ロペスと一緒に普通のパンを買いに行った。
「あ、もしよければスープでも頼んで堅パン食べちゃってよ」
と、付け加えて駆けていった。
「すみません、少し大きめの器でスープもらえますか」
ルディとロペスを見送ってからスープを頼み、ルディに貰った堅パンをスープに沈めた。
スープに堅パンが浮いてこようとするのをスプーンで沈めながらふやけるのを待つ。
数分待つと、スープの中でぐずぐずに崩れた堅パンは、パン粥みたいな見た目になり、暇つぶしに食べていると、ルイス教官とペドロ達がやってきた。
腕を吊ったままではトレイの持ち運びに困るだろう、とペドロを席に座らせて、ペドロのトレイを持ってきてあげた。
「すまん、ありがとう」
と、いうペドロに困った時はお互い様ってことで、と答えると
ルイス教官が、もう準備できたのか?と聞いた。
おお、先生っぽい。と感心しながら、もちろんです。と答えると
ルイス教官は満足げに頷いた。
ロペスとルディが帰って来た頃、イレーネが準備を終えて降りてきた。
「おはようございます、いつでも出れますよ!」
「めずらしく元気だな」
「カオルのおかげです!」
と言って機嫌良さげなルイス教官にびっと親指を立てて答えるとルイス教官が呆れながら答えた。
「1人でできるようにしろよ」
ラウルとフリオ、ペドロがものすごい勢いで食事を終えて、移動中の食事を買いに出かけようとしていたので、トレイは戻しておくから置いといていいよ、と声を掛けペドロ達を買い物に行かせる。
それから全員が揃うのを待って移動を開始する。
「まあ、長々と大迷宮前で過ごしたが、こういうのは運がいいと思えよ、
普段は野営だからな、あと定期的に休憩は取るが暖は取れると思うなよ、
あとは隊列は、おれを先頭にしてカオル、イレーネを前に、その次がペドロとフリオ、ラウル、ルディ、殿がロペスだ」
ルイス教官を先頭にして駆け足でファラスへと進軍する。
冬になると馬車もあまり走らないようで、腰まで雪が積もる中、ルイス教官が
私がやると広がって発現する
ルイス教官は舌打ちすると、止まれ、と言い全体を停止させ小声で2人だ、と全体に伝えた。
「我らは!アールクドット
ユベール・ド・グエーラ!」
と、叫ぶともう1人が
「
と、名乗った。
2人は布のインナーの上に金属を貼った革鎧にマントを着ている。
帰還命令を無視したのか命令が来なかったのかわからないが、季節外れの格好でひどく寒そうだった。
「本来なら1対1で経験にしたいんだが、丁度いい教材にさせてもらう」
コンディションが万全でないと見たのか、ルイス教官は悪い笑顔で私に言った。
「イレーネと2人で真髄に到れるか試せ、できなくても2人でなら
私は、はあ、と気のない返事をして、イレーネと2人で
「ロペスとルディはおれと一緒に
「げえっ」
「まじかよ」
そう言われるがまま、3人で
2人でかかるほどだろうか、と。
そう思っていると、イレーネが手のひらを上にして、上に手を重ねろ、と言ってくる。
なにがしたいのだろう、と思い、なんとなく手を重ねると、
「まずは身体強化ね」
と、指示され、一緒に身体強化をかけた。
まずまずの強化がかけられ、これであれば真髄なぞに至らなくても2人で押し切れるんじゃないかと思いつつ、イレーネを見ると、やっぱりやる気らしいので付き合うことにする。
「
私の青い魔力とイレーネの赤い魔力がキラキラと煌めき、私とイレーネの周りを混じり合いながら私達の体にまとわりついた。
次は剣を抜く必要がある。
イレーネの手を離して腰の鞘を左手で後ろに引きながら、右手の人差し指と親指で鍔をつまんで抜く。
手首が固定されては抜けなかった時に、また悲しい思いをすることになる。
「
剣を構えて一緒に使うと、いつもは剣にだけふわっとまとわりつく魔力がイレーネとの魔力と混ざり合って剣に帰ってきた。
前のともちょっと違うな、と思いながら前より強くかかった身体強化に驚いた。
イレーネと目を合わせるとイレーネも驚いたようで大きな目がますます大きく見開かれていた。
「じゃあ、やろうか」
改めてイレーネと一緒に剣を構え、一緒に飛びかかった。
上段から両手持ちで斬りかかる私の剣を、威力の相殺を狙ったのか
そして、反対側から切りつけるイレーネの剣を、盾で抑えるためにぐっと腰を落として身体強化をかけた。
イレーネの剣は盾で受け止められていたようだが、私の剣は、
片手で受けきれるほど弱い一撃ではなかったようだ。
私はとっさに取り落した剣を蹴り飛ばした。
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