しぶとさ

勝利だギューちゃん

第1話

「さすがに、疲れた」

ローカル線の田舎の駅に、降りて伸びをする。


この場所には、10年ぶりにやってきた。


今、僕が乗ってきた列車は、165系という車両。

国鉄全盛時に、急行型車両として製造され、日本各地を走った。


若いころは平気だったが、ボックス席に4時間は厳しい。

寄る年波には勝てない。


だが、165系に乗ってみて思ったのは・・・


【まだ走っていたのか。しぶといやつめ】


でも、もう乗り納めか・・・

そう思うと、悲しいな・・・


「えーと、確か海沿いの喫茶店だったな」


目的地に向かって歩き出す。


「マスターは、元気かな」

心の中で思う。


10年前に、マスターはすでに70を過ぎていた。

生きていたら、80過ぎ。


さすがに、カウンターにないないが、元気だといいな。


目的地の喫茶店に着く。

安堵と落胆の溜息が出る、


「全然、変わっていない」


あの頃のままだ。

でも、営業は出来ているみたいだ。


しぶといな・・・


ドアを開ける。

カランカランと音がする。


これも変わらない。


「いらっしゃいませ・・・って・・・」

「マスター?」

「よう、兄ちゃん。久しぶりだね。10年ぶりか・・・立派になったね」

「本当にマスター?まだ、現役だったんだ」

「失礼だね。まあ、健康が取り柄だからな。紅茶だね」

「うん」


カウンター席に座る。


「今日は、どうしたい?活躍しているみたいじゃないか」

「まあね。おかみさんは?」

「かみさんかい?遠い所だよ」


悪いこときいたかな・・・

マスターよりも、年上だからな・・・


「出雲に行ってるよ。娘と一緒に出雲大社に」

「娘さん、まだ独身だったの?」

「ああ。もうらいおくれてる。いるかい?」

「いらない」

「だよな」


贅沢だったからな・・・

好みのタイプ。


カランカラン


「らっしゃい・・・あっ、来てるよ」

新たな来訪者が、僕のところにくる。


この村にいたころの、幼馴染の女の子だ。


「まだ、生きてたんだね」

「開口一番それかい?」

「私と君の仲じゃない」


彼女は、アイスコーヒーを頼む。


「まさか、君が本当に、ああなるとは思わなかったよ」

「悪かったな」

「あきらめ悪かったからね。しぶとく」

「そのしぶとさのせいで、時間はかかったが、ここまできた」


淡々と語った。


「で、今後は?」

「また歩き始める。今日は、エネルギー補給だ」

「できた?」

「ばっちり」


何事も大事なのは、しぶとさかもしれない。


さてと・・・


「もう、帰るの?」

「ああ」

「泊っていかない?」

「独身女性の部屋には、泊まれない」

「失礼ね・・・結婚ならとっくに・・・」

「してるの?」

「・・・してません・・・・」


そっか・・・


「ねえ、わたしをもらってくれない?」

「断る」

「どうして?」


「ここへ帰ってくる理由が無くなる」


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しぶとさ 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

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