短編(~21歳まで)

ちくわ書房

縺れ

「先生!仲間が殺られた!」

「隣の処置室に運んでおいてくれ」

 また騒がしくなって、先生のお部屋から出て、私の寝室と化してる病室に戻った。怖くて、小走りで。

「おっと」

 ぶつかって、跳ね返った。尻餅ついて、見上げると、大きな男の人。森先生よりも大きくて、恐くて、血が出てて……

「ここの子かな?」

 声が出なくて、ただ頷くだけ。大きいゴツゴツした手が、ぬっと伸びてくる。腰には拳銃がいくつも。

「ぃ……っ」

「森先生には善い贈り物になりそうだな」

 手がじんわり熱くなって、床石を裂くように、お花……お花じゃなくて、蒲穂みたいな、紅い……

「異能力者か!」

 何も考えてないのに、立とうと床に手を着いたら、そこからもお花。地面が割れるように、植物が生えてくる。山吹が、距離を稼ぐように、垣根を成す。ナイフでお花を切りながら、男は尚も向かってくる。先生の所、行かなくちゃ。這いながら処置室を目指す。足首に痛みが走った。熱い、痛くて、叫びたいのに、声が出ない。息が詰まる。上半身を持ち上げて、陸に打ち上げられた、人魚姫。御伽話なら、此処で、王子様が来てくれるけど。

「お嬢ちゃん、痛い思いはしたくないだろう?だったら、協力してくれよ」

「しない、私は……っ」

 私は、森先生と、母様と、一緒に……

 心臓がぎゅっと締め付けられて、力強く、一回だけ、飛び跳ねた。さっきよりも熱くて、でも痛くはない。暖かくて、母様に、ぎゅっとしてもらってるみたい。私を取り巻く空気が葩に変わる。ぱきぱきと罅割れて、桜の葩かしら、刺さったら痛そう。すっと手を持ち上げると、それに合わせて、ふわり。だったら。行け、と命ずるように、前へと腕を伸ばす。勢いよく飛び出した手下は、目の前の男に、所構わず突き刺さる。

 吹き出る血が、噴水のようで、呆然として、頬に降り落ちるのも構わず、眺めていた。

 眼球が上転し、そのまま、崩れた。

 私

 私、初めて


「卯羅ちゃん、起きたかな」

「……先生……」

「頑張ったね」

 先生が、お茶とお菓子を持ってきてくれた。身体が怠くて動かせない。腕も動かしたくない。私の背に枕に入れて、起き上がらせてくれた先生は、一寸楽しそうだた。

「先生、私……」

「生きる為だ。卯羅ちゃんが生き残る為、あの男は死ぬしか無かった」

 掛け物に、ぽたぽた涙の滲み。

 まだ覚えてる。

 血が飛び散って、噴き掛かって、顔中、血だらけになって。

「検査の結果、血液から引き起こされる感染症の兆候は無いから、安心し給え」

 喜んで善いのか解らなくて、曖昧に笑った。

「生きるためには、非道な選択をしなくてはならない。これから先、そういう事がどうしても増えてしまう。一々心を悼めていては、壊れてしまうよ」

「そうなのかな……」こんな力、無ければ善かった。「母様は『こんな子、要らない』って云わないかな」

「その逆だよ。よくやったと、褒めてくれるよ」

「なら、善いのかな、こんな、危ない力でも……」

「銃が何故、抑止力になると思う?その暴力性は勿論だが、扱い方を知らなければ、主にも仇を成すからだよ。だから、お勉強と一緒に、異能の使い方も学ぼうね」

 おあがんなさい、と勧められる儘に焼菓子を口にした。甘くて美味しい。

 あのお花は何だったんだろう。束子みたいにとげとげ。細長いの。後で図鑑を見てみよう。

「美味しい」

「なら善かった」

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