エノキのから揚げ

Shinogu

エノキのから揚げ

ピンポーン!


そのチャイムが鳴ったのはそろそろ夕食も食べ終わったしのんびりとテレビでも見ようかなと思ったその矢先だった。


もしかしてあいつかもな。


玄関の扉を開けると予想通り彼女がそこに立っていた。


そして、挨拶もなしに


「じゃあ今日はこれでお願いします」


そう言って彼女は何やら食材の入ったタッパーを顔の横まで持ち上げ笑顔。


よく見るとタッパーの中身はエノキだった。


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彼女は僕が住んでいるアパートの隣の住人だ。


最初は挨拶を交わす程度の仲だったが紆余曲折あり仲が良くなった。


ある日、お酒は好きだがここら辺の居酒屋を知らないので飲めない、という話になった。


僕は料理ができるのでそれをつまみにいつでも飲んでますよという話になり、それはずるいから一緒に飲もうと話が進んでしまった。


さすがに手ぶらでつまみを食べるのを悪いと思ったのか、彼女はビールと食材を持ってくるようになった。


そうして、時々こうやって部屋を訪ねて来ては冷蔵庫の中にある食材を持ってきて僕がビールのつまみを作るのだ。


ある日は八百屋で買ったというキャベツを持って来て僕が塩昆布キャベツを作ってあげた。


またある日はおしゃれなものが食べたいと言いながらブロッコリーだけ持って来たのでアヒージョを作った。


無茶な要求でもそれに応えないわけにはいかない。

職業病だろうか?


とにかく、毎回僕が作ったつまみとビールを一杯だけ飲むと

「またねー」

と言って隣の部屋に帰っていくのであった。


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そして今回、彼女が持って来たのはエノキだった。


エノキでビールのつまみを作って欲しいと思う彼女のセンスに脱帽だが、幸いなことに今回は特にどういった風の料理が食べたいということは言わなかった。


さてどうするか。


普段、エノキを料理するならワカメと合わせて酢の物とか味噌汁を作るだろうが。


それじゃあ普通すぎて作ってる方もつまらないな。


ビール、つまみ、エノキ…。

うーん。


となるとアレを作るしかないか。


ちらりと見ると僕の苦労もつゆ知らず彼女はスマホをいじりながらテレビを見ていて

時折「あははー!」

と笑い声が聞こえてくる。


呑気なものだ。


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つまみが出来上がったのでテーブルに冷やしておいた彼女のビールと僕の分のジントニックを用意した。


作ったのはエノキの唐揚げだ。


まずエノキの根元を包丁で切り、軽く水につけ片栗粉をまぶす。


そして鍋に入れた油を高温にして一つずつ房から取り丁寧に揚げる。


キッチンペーパーを敷き、少し待ってから粗胡椒と塩をふりかけて出来上がり。


たったこれだけでエノキを揚げただけとは思えないビールのつまみになるのだ。


そのまま食べてもおいしいがマヨネーズかアボカドのペーストを用意すればさらに良いアクセントになる。


彼女は僕が持って来たエノキの唐揚げを見るやいなや、手でつまみ口に運ぶ。


熱いぞ、という暇もなく

「おー!これはビールが進むねぇ」

と満面の笑みだ。


しばらく彼女はおいしそうにエノキの唐揚げとビールを飲んでいた


しかし、突然真剣な顔をして、はい!はい!と手を上げ始めた。


「え?なに?」

「エノキとかけまして君と説く!」

「…その心は?」

「白くて細いでしょう!」

「……」


何もうまくないしかかってなくてびっくりした。

というか肌が白いことと体が細いことを遠回しにいじられたような気がする。


「あーこれおいしそー!」


彼女が夢中になっているテレビでは豚肉と白菜のミルフィーユ鍋の特集がされていた。


そろそろ寒いし鍋もありだな。

彼女とつまみを作ってビールを飲むこの関係もまだまだ続きそうだ。

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エノキのから揚げ Shinogu @tanakadayo_7

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