第31話:相棒兼○○




「はぁ……はぁ……ッ! ―――みお……!!」



 決着の一撃を放った後。

 僕が最初に考えた事はと言えば、当然に仲間の安否だった。


 塵に変わりゆく敵を、しかし最後まで警戒しつつ。

 それでも、何より早くと駆け寄り、彼女の前でひざまずく。 



「―――私は……大丈夫、です」



 そして、今に崩れ落ちていた彼女は。

 何度か咳き込みながら、顔を上げる。


 ……良かった。

 本当に、致命傷を受けていたわけではないみたいだ。



「それ、よりも……導主は」

「うん。いま、塵に……」


 

 あの男が今迄の魔人と明らかに異なっているのは事実だろう。

 しかし、心臓を貫いた感覚はあり。

 ダメ押しの切り上げで身体を大きく斬り裂かれたことにより、倒れたまま身体は塵に変わりゆく。


 完全に朽ちかけの肉体だ。

 立ち上がる事は愚か、話す事も……。






「……ッ…ハハ―――ハハハッ……」






 ……………。



 ……………。



「うそ……。まだ……動けるの―――?」



 冗談じゃないよ。

 生命力の強い黒幕とか、厄介というレベルの話ですらなく。

 今更ながらに。

 大陸を敵に回し、陰で暗躍し続けてきた男の厄介さが身に染みて。



「ハハ……、まことに、素晴らしい。私がここまで手傷を貰ったのは―――あの日以来、でしょうか。それも、彼の弟子たち……同じ技術とは……ッッ」



 僕達の見ている前で、ゆっくり……膝で立ち、起き上がる導主。

 男が何を言ってるのかは分からないけど。

 文脈的に、七年前の事なのだろう。

 

 いま重要なのは、昔話などじゃなく。

 ここで逃したら、絶対にダメだという事。


 あの男は、此処で……!!



「は、はは……僅か、ごく僅か、に。機を逃し、ました……ね」



 仲間の安否が取れた事で後顧の憂いが無くなり。

 剣を握り直した僕は、覚束ない足取りながらも油断なく導主へ間合いを詰める。


 再び、剣の白刃が軌跡を描く。



「―――変成、無間牢獄」



 しかし、その軌跡が男の頸部を断つより早く。 

 大きな地響きが一帯を支配し。

 床から、壁から。

 突然伸び出てきたのは、無数に枝分かれし、鋭い棘を持つ岩石。


 ……その形状は、いばら彷彿ほうふつとさせて。



「―――ぐッ!!」



 茨のように絡み合う岩石が、襲い来る。

 一本一本が四肢を狙い。

 意思を持つかのように、男を守るようにしなり、うねり、剣を迎え撃ってくる。


 どれだけはじき返しても、無くならない。

 攻防を繰り広げる中でも石の茨は際限なく絡み合い、混ざり合い、数瞬置くごとに強固な壁となって僕と男を隔て続け。



「―――ッ!! まさか……これ、全部……!?」



 打ち合いを演じる中で気付く。


 ……茨に走る模様も。

 葉のように、葉脈のように見える模様も。

 ひび割れの様な模様も。

 数十、数百……数千?

 無数に存在する模様は―――これ、全部……。



 よくよく見れば。

 それは―――全てが複雑な魔術刻印。

 本来、一つ一つを刻むのに時間と多大な労力を要する技術だ。

 


 脱出用の仕掛けもバッチリ……!!

 驚愕を隠せない僕の耳に、岩壁の奥から、姿も見えなくなりつつある男の声が聞こえてくる。


 

「申し訳……ありませんね、勇者様……ッ。あなた達に殺されてあげることは、出来ぬのですよ。私には、既に先約がありますゆえ」

「―――このッ……、まてぇぇッ!!」



 この程度の壁―――今更、岩くらい切れない事はなく。

 絶対に逃がさないと、風刃を纏わせた剣で幾度と茨を切り開いていく。 


 しかし、どれだけ斬っても、斬っても。

 その姿は見えなくなっていくばかりで。



「―――“風切羽・嵐舞”!!」



 残り全ての魔力を剣と組み合わせ、茨の壁を砕き割る。

 もう、当初の面影が殆ど残っていない景色に、道が拓かれる。


 その先には……。

 部屋に来た当初は存在していなかった、四角く人工的な横孔が開かれていて。

 石で塗り固められていた、非常用の逃げ道だろう。



「あの男を逃がしてはダメです……! 陸君、追ってください!」

「………ッ」



 手負いの敵だ。

 今に肉体は崩壊しそうで、手を下さずともいずれ朽ち果てそうだった。


 追えば、完全に倒せるのかもしれない。

 いま確実に倒せれば―――……ッ。

 


 ……………。



 ……………。



「…………ふぅぅぅ……、優先順位」



 いや、ダメだ。

 万全の状態の僕達ならまだしも、今の状況で何があるかも分からない状況へ身を投じるのはリスクが高すぎて。

 返り討ちにでもなれば、全部が崩壊する。


 ……それに、だ。

 僕達にとって真に大事なのは、敵じゃなく。

 危うい仲間の傍にいるという事。

 冷静になって考えてみた結果、天秤が傾き。

 剣を収めるままに踵を返し、仲間の前で片膝をつく。



「美緒、大丈夫? いま、ポーション……ぁ」

「だ、大丈夫です……。自分のが……ぁ」



 そう言えば、全部割れて無くなってたっけ。

 空間を震わせるほどの魔術だったんだ。

 僕のだけじゃなく、その場にいた美緒のも当然にダメになっている筈で。


 ……あの魔術、覚えられるかな。


 敵に使えたら便利だ。

 勇者の戦術としてはどうかと思うけど。



「―――じゃなくて……えと、大丈夫。まだ残りが……」

「ぇ? 陸君のも……」

「あぁ、あった。ほら」



 あの時、残ってたのがある。


 それは、革の水筒を思わせる、しかし更に小型の袋。

 硝子製じゃなかったこれだけは振動の影響を受けにくく、あの魔術で壊しきれなかったんだろう。



「―――それ……」

「そ、この前買った革袋ポーション。物珍しさで購入したものが役に立つって勇者っぽくない? ……うーん、悪くなってないかな」

「何で自分に使わなかったんですか―――ッ!!」

「わぁっ―――!?」



 ……いつにない剣幕だ。


 確かに、ポーションを砕かれた時。

 本当に、一瞬だけ。

 ニヤニヤ笑う導主の鼻をあかしたいから、これ見よがしに使おうかなとも思ったけど。



「美緒の方が明らかに重傷だったんだから、治療用に取っておくのが当然でしょ。逆なら飲んでた?」

「―――それは……ぁ……ぅ」

「ほら。じゃあ、イッキに……ね?」



 やりとりで、僕の言葉にこそ理があると感じたのか。

 顔をしかめて肩を怒らせていた彼女は、すぐに怒りを収めて、大人しく飲む気になったようで。


 しかし、顔がやや赤いままに呟く。



「……あの……、飲ませてくれたら治りが早まるかもしれません」

「案外元気そうだね」



 こういうのをギャップって言うのかな。

 いつも真面目で冷静なのに。どうしてか、こういう所で茶目っ気があって。

 それが、何だかおかしくて。


 ……あぁ、そうだった。

 戦いの最中、不意に放たれていた的外れでありながら正確な動き。

 アレは確かに、異能の模倣動作だった。


 本当に、不思議な事で。

 アレがあったから、希望を感じていた。

 もしかしたら、美緒には意識があるのかもしれないと考えていたんだけど。



「ねぇ、美緒。倒れた時、完全にヤバい時の倒れ方だったよね。あと、戦ってた時も……意識は、あった?」

「―――はい。覚えてます」

「異能、一回だけ使ってたよね。どうやってあの魔術に抵抗を?」

「陸君は、ライズの連続利用で攻撃を遮っていたんですよね。……私も、同じですよ」

「……同じ?」

「異能とは、魂に宿るもの。だから、脳を介さず、ほんの僅かな魔術の隙間、考える余地ない程狭い隙間に、指令を差し込めたんです。あの時は、陸君の防御が完全に間に合うか分からなかったので」

「―――……ぅ」



 魂云々はともかく。

 防御が遅れていたのは、まぁ。



「―――倒れた時も、そう。なので、正確には一回ではなく二回ですね。ハズレです」

「………え?」

「異能……ラウンの使い道は、何も手足を動かすだけではないんです」

「じゃあ―――あの時倒れたのって」



 つまり、美緒は。

 彼女が吐血して倒れたのは、あまりの負荷に身体が限界を超えたからではなく。



 ―――記録していた重傷の己を、あの場で再現した、とか……?

 


 美緒の異能、ラウン。

 己の体動作を記録し、好きな時に呼び起こし再現する力……。


 或いは、思い込みで痣が出来たり、体調が良くなるように……経験さえしていれば、傷や病の状態さえも、再現できる?

 戦闘の頃合いを見て模倣していた重傷の記録を呼び起こし、あたかも過負荷による致命と敵に錯覚させたと?

 


 ……………。



 ……………。



 ……無理だ。

 ハッキリ馬鹿げてる。

 僕では思いつきもしなかっただろうし、増して実行なんて覚悟も出来なかっただろう。



「……凄い事、……考えるね」

「使う事はないと思ってました。備えあれば、ですね」



 出来れば―――いや、本当は絶対に使って欲しくないんだけど。

 彼女の性格なら。

 およそ利用できる環境、能力は全て使うのだろう。

 当然、必要ならその能力も……。



 ……………。



 ……………。



 美緒がその手の力を使う時なんて、本当に危機的状況の場合だろう。

 なら、はなからそうならぬように立ち回り。

 僕がその危うさを守るべき……かな?



「美緒?」

「ぅ……はい……」



 怒られると思ったんだろう。

 先程の怒気は何処へやら、シュンと俯く彼女。

 だけど、いま俯かれると都合が悪いので、その両肩に手を置いてこちらを向かせ。



「ボクは、君が好きだ」

「!」



 ゆっくり、しかし確かに伝える。


 危険な状況で……とも思うけど。

 逆に、この機を逃しちゃいけない気がして。


 より、誠意を。

 相手と目線を合わせて、一言一言を大切にする。


 

「この世界で。ずっと隣で、一緒に戦ってきて。背中を預け合って。一緒なら、何でもできる気がして。でも、思ったんだ。気付き始めたのは、クロウンスで一緒に踊った時くらいだけど……やっぱり、只の仲間じゃ足りないなって。それだけじゃ嫌だなって」



「美緒は、頭がいいし、覚悟もあるから。必要なら、危ない事もやっちゃうから。合理的過ぎて……危なっかしくもなる……よね?」

「……………」

「だから、その危うさを僕が守りたい……護らせて欲しい。戦闘だけでじゃなく、これから先も、ずっと」



「保留にしてもらって、改めて自分からって。そういうの、凄くズルいと思うんだけど。でも、僕からも言えて本当に良かった……」




「西園寺美緒さん。僕と、付き合ってください」

「―――――」



 ……………。



 ……………。



「―――はい……!!」



 ……はは……、良かった。

 間があったから、そろそろ失血の影響より早く心臓止まるかと思……



「でも、結婚を前提ではないんですね?」



 ……あれ?



「付いてなかった?」

「恐らくは。陸君なら、入れるかもって思ったんですけど」

「……うん。緊張しテンパって飛ばしちゃった」

「―――……ふふふっ。高校生なんですから、付けるのも違うんじゃないですか?」

「……そうかな?」



 こういうのって、誠実に行くべきだと思うんだけど。

 ほら、生涯を捧げるつもりで……って。


 告白の仕方とかも、全部母さんの受け売りだし。

 女性に聞いたんだから、間違いない筈だよ。

 間違いない筈……、どうかな。

 今更だけど、その作法とかって半妖精流の可能性……。



「……でも、そういう所が大好きです。真面目で、誠実で、少し抜けてて」

「うっ」



 僕も同じこと言いたいけど。

 そんな簡単に「大好き」って言えるの、凄いなぁ。


 胆力が違うっていうか。

 普通なら尻すぼみになっちゃうような恥ずかしい言葉も、平気で言えるし。



「―――陸君」

「あ、うん。……うん、喜んで」


 

 あと、してほしい事を遠慮なく表現できるのも、ね。


 一杯に広げられた両腕を受け入れ。

 しかし、大切な瞬間を邪魔されないよう辺りには気を払い。 

 僕たちは装備に受けた血や汚れなど気にも留めず、ゆっくりと抱擁を交わした。




   ◇




「「……………」」


 

 最上位冒険者【赫焔眼】という厄災が過ぎ去った研究所の様な一室で。

 顔を見合わせたまま、俺たち二人は固まる。


 俺の体勢は、女性を横抱きにしたまま屈み続けるという状態で。

 まるで昔ながらの西洋絵本的……クサい表現だが、王子に支えられた姫君の構図。

 俺が王子は似合わないだろうが、多分そんな感じで。


 しかして、現実はどうだ。


 只固まるだけならまだしも、体勢自体は正直言うと非常に維持がしんどく。

 オマケに、どちらも表情は渋面。

 その上で、俺の中には、かつてない怒りの炎が燃え盛っているようだった。



「―――なぁ、アンタら」

「えぇ、はい」

「我々に、何か?」

「あのさぁ……、空気読むって知ってる? あたし達、いまスッゴク良い所だったんだけど」



 うん。


 あのさぁ。


 くそがぁぁぁぁぁああ―――ッ!!



 せっかくの!

 俺のせっかくのfirst kissが!

 

 妨害された! 出来てない!!

 ちくしょうめぇぇぇぇぇえ!!



「ふふ……、はは。敵地の中枢でとは、劇的で良いものですね。少年少女の初々しいやり取りに、私まで昔を思い出すようです。いかがですか? キース君」

「及第点ですね。あの少女は、まだ……えぇ。稀に見る、嫌悪の少ない方のようだ」


「おい、無視すなやぁ……!」



 何だコイツら。

 ぬっと現れたと思ったら、いきなりニヤニヤ見始めやがって。

 見せもんじゃねえぞ。


 微笑ましげに伺う者。

 真顔のままに伺う者。

 こちらを伺っていた二人だが、やがて前者が恭しく頭を下げる。



「いや……失礼いたしました。謝罪させてください。我々も任務のためにここ最下層までやって来た次第でございますが、ようやく探し物が見つかりましたので」

「適当に、アレ等の尖兵を殺しまわっていた所なのですよ」



 ……魔族連中って、こんな良く分からない奴らなのか。

 ふざけた空気を纏いつつ。


 その実、隙は全くと言っていい程に無く。

 嬉々とした表情、さらりと物騒な言葉……言動がまるで合致しない様子は、寒気すら覚え。


 正直、得体が知れなくて話したくないが。


 だが。

 聞かなければいけない事は確かにあって。



「最下層って話すらそもそも初耳なんだけど―――アンタ等、先生はどうした。戦ってたはずだろ?」

「……あ―――! そうじゃん! あの戦いはどうなったのさ!」



 忘れてたのか、春香ちゃんよ。

 あの人、どれだけ心配されてねぇんだ。



「……あぁ、その件ですか」



 キース・アウグナー。

 確か、騎士団の第二席っつったか。

 現状で一番得体の知れないヤツが、俺の問いに、ようやく思い出したかのように反応する。



「特に、ご心配には及びませんとも。彼と、我々。すべき事は同じでしたので。一時休戦という事で、戦闘を中止したのですよ。続けていれば、我々も無事では無かった。……今頃、他の区画へ戦闘に行っているのではないでしょうか?」

「……嘘は、無いよね?」

「無論、吐く必要のないものですゆえ」



 男の言葉に、念押しとばかりに今一度聞く春香ちゃんだが。


 ……嘘は、無しと。

 【テクト】によって確認を取った彼女は、視線で肯定を伝えてくれた。


 ―――まあ、そうだよな。


 あの人がやられるはずは無い。

 俺たちの先生だもんな。


 逆に、こっちはちょっとキツイが……。



「―――んで、どうする気だよ」

「えぇ。というと?」

「俺たちかなり疲れてるし、仲間いねぇし。今なら勇者を纏めて二人仕留められんじゃないかって話」



 会話で誤魔化してはいたが。


 流石に、ヤバい状況だ。

 相手は、大陸中の国家から恐れられる魔皇国の精鋭部隊……その隊長格が二人。

 リザさん曰くA級の上位に匹敵、凌駕する実力者。


 かつて、A級冒険者と戦ったことはある。


 でも、それはあくまでも直接戦闘が不得手な敵で。

 相手の油断だってあった。

 しかも、敵の強みを完全に潰せる切り札が偶々居てくれたからこそ成立した戦い。



 ―――今は、どうだ……?


 

 こちらは疲弊していて、向こうは未だ健在。

 油断など……欠片もない。


 戦いにすらなるか怪しく、はっきり言って負け確。

 

 極めて厳しい状況ながら。

 それでも弱みを見せるわけにはいかず、平静を装って鋭い視線を送るが。

 ヴァイスは、瞳を閉じて首を横に振る。



「いえ、いえ。そのような事は致しませんよ」

「……何で、しないの?」

「いま貴女たちに倒れられては、こちらも困るという事ですよ、可憐な勇者様。そのようなご心配より、急ぎお仲間の援護に向かわれた方が宜しいのでは? 今が窮地、という可能性もあるでしょう」



 ……ワカラン、と。

 俺たちは態勢を崩さぬまま顔を見合わせる。


 情報がなさ過ぎて、コイツ等の意図はさっぱりだし。

 不測な別行動により、二人の足跡が掴めず心配というのも事実だ。


 でも、コイツ等から、まるで心配するような言葉が来るなんて。



 ……………。



 ……………。



 あぁ、そうだとも。

 この騎士たちの言葉は、確かに理に適っていると感じる。



 ―――だが……な。

 俺と春香ちゃんは、アイコンタクトを取ると共に、頷き合う。



「あたしの仲間は。あの二人は、凄ーく強いんだから!」

「ん。連携なんかバケモンだからな。あんた等に心配してもらわなくても結構だ」


 

 あの二人は、絶対に大丈夫だ。

 言ってて悲しいが、俺とは頭の出来がまるで違う。 

 下手な罠になどはまりようがない。


 もし、危機的な状況に遭遇したなら。

 その時は、普通に逃げの一手を選ぶ。

 ……もしもそれが出来ない相手がいたとするのなら、それこそ手負いの俺たちが居たところで大して違いはない。


 だから、信じて待つ。

 終わるのをではなく、身体がもう少し回復するのを。


 待ってから、行動だ。

 応援は万全の態勢の方が良いに決まってんだからな。


 今は、この場を切り抜けるのが最優先だ。



「―――……ふむ」

「ええ、そうでしょうとも。あのお二人は、実に素晴らしい才能を持つ方々でした。そう仰るのも理解できますよ」



 首を捻るキースとは対照的に、二度頷くヴァイス。


 ―――そか。

 このヴァイスという男は。


 亜人騎士は、以前クロウンスで二人と戦ったことがある。

 あの時は決着が付かなかったらしいが。


 当時から、二人の連携は知っている筈で。

 正直、敵だとしても仲間が褒められるのはかなり嬉し……



「―――ですが、心配はあります」

「……何で?」



 俺の思考を現実へ引き戻すかのように、ヴァイスの言葉を引き継ぐキース。

 そして、聞き返した俺へと。

 男は、勿体ぶるかのように言葉の先を紡ぐ。



「確かに。疑いなく、かの勇者たちは今や一流の冒険者と言って差し支えないでしょう。ですが―――」





「―――あの御方が、来ておりますので」





 その瞬間。

 まるで、呼応したかのように。



「―――は……?」

「―――なに、これ……? こんなの……冗談……ぇ?」

 


 今迄とは、まるで異なる。

 或いは最上位冒険者ですら霞むようなヤバい魔力を、肌が感じ取る。


 凄いとか、ヤバいとか。

 言葉にするのもはばかられるような、異常な圧。


 その気配は。


 その威圧は。


 かつて邂逅した、六魔将【黒戦鬼】と同格。

 或いは……それ以上―――?


 

 ……………。



 ……………。



「な、なぁ、騎士さんたち。これって―――この気配って、まさか……」

「―――六魔将……さん?」

「ええ、その通り」





「我らが主―――ラグナ・アルモス様が来訪されております」

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