第8話:対人と誓約
一般のって言ったら
普通の盗賊さん達も、頑張らなくても良いのに頑張って、出さなくても良いのに仕事に精を出す。
それが彼等の
それが彼等の生きる道だから。
楽して稼ぐ方法を知ってしまった彼等は、今日も何処かで人を襲う……。
「――盗賊さん……何ですぐやられてしまうん?」
で、襲うのは良いけど。
返り討ちにされる可能性も考えておかないとね。
「いや、マジでそれ」
「リーダーさんは動きも良かったですけど。他の人は……はい」
盗賊さん達……余りに弱い。
本当に、凄く弱く感じるね。
冒険者で言うなら、E級レベル。
もしも魔物生息域の深部になんか行ったら、誰も戻ってこれないんじゃないかなって位。
しかも、此処は大陸中央。
ともすればC級……運が悪ければB級の魔物とすら出会う可能性のある危険地域、厳しい環境。
そんな中で生きていけるような強さもなし、か弱い生き物だ。
……生態系大丈夫かな。
してもらった方が良いけど、絶滅とかしないのかな。
「考えてて悲しくなりますけど。少なくとも、屈強な生物ではありませんよね?」
「うぅーーん……魔物、倒せないよね……?」
気絶している、或いは罵倒を受けて泣きそうになっている盗賊達を前に。
それでも容赦なく言い放つ三人。
まぁ、良いんだ。
この程度で心折れたり改心するような精神の持ち主なら。
そもそも野盗に身を落としたりなんかしない筈だし。
彼等には、これ位が丁度良い。
「あの……こんな事して、悲しくなりませんか? 老後はどうするんですか? 皆さん」
「人生空虚じゃないか?」
「辞めたら? この仕事」
「「……………っ」」
「ぐ……うぅ……ッ!」
「うっ……うぅ……ぐすッ……」
先程の一件もあり、何人かは精神的に脆くなっていたんだろう。
一人が
彼等が涙を流し。
僕たちの油断を誘うように嘘泣きをする中で。
「アンタ等。どうしてこんな所で盗賊出来てんだ?」
「―――だって、セキドウのすぐ傍だからね」
「「先生」」
嘘泣きに呆れたように、更に追い打ちを掛ける康太の言葉に答えたのは、盗賊ではなく。
今の今まで別行動をしていた人だった。
気配を隠そうともしないし。
彼が索敵の範囲内に入ってきたのは分かっていたから、自然に受け入れ。
僕達は首を捻ってその言葉の意味を分析するけど。
「うぅーーん?」
「……では。もしかして、冒険者が?」
最初に気付いたのは美緒で。
彼女の言葉に僕も納得する。
「そうだ。魔物の脅威
「――皮肉ゥゥ……」
よくよく考えれば、すんなりと受け入れられるような疑問だったけど。
すっごく複雑な気分だ。
頑張って魔物を狩って。
必死に日々を暮らす為、家族の為に稼いでいる彼等が。
己らの狩りの影響で、不幸にも野盗が活動できる環境を整えてあげちゃってるなんて。
「後は、ギルド本部があるとは言っても中央だからね。常駐しているのは殆どがD級、そこそこC級だから、数で攻めれば何とかなっちゃう」
「「……………」」
確かに、今現在本部に常駐している上位冒険者は数組ほどしかおらず。
何とかなるっていうのは、つまり。
……殺せるっていう事なんだよね。
一般的に照らし合わせれば。
D級冒険者は十分に練度が高いし、C級に至っては一般人では全く敵わない達人なんだけど。
それでも、寄って集って戦えば倒せてしまう。
人間はそれ程に脆いから。
C級の魔物達は無理でも。
C級の冒険者なら……と。
「人質結構、卑怯結構。そんな言葉を掛けたとて、只喜ぶだけ。それが
「上位冒険者も狙うし、最上位もイケるかな……ってーなる?」
「なるんやろなぁ……」
「実際、上位冒険者の首が取られる事件も過去に在ったから、余計に拍車を掛けちゃってねぇ。はははっ」
多分笑い事じゃないんだけど。
盗賊、救いようがなさすぎる。
何から何まで、頭の使い方と努力の方向性を致命的に間違えている。
本当に害悪でしかない。
「ま、そんな事が起こり得るのは本当に運が悪かった故。または、余程周到な下調べと計画あってこそだ。本来なら、程度の低い野盗なんか返り討ちだね」
「ま、そだよね?」
「盗賊……アンタ達、やっぱり不遇なんだな」
「「……………」」
「そんなことは無いよ。ただのクズだ」
さっきから先生が辛辣過ぎるけど。
余程こういう手合いが嫌いらしく、本当に蔑むように見ている。
「そういえば。ギルド所属の過去があり、お尋ね者になった元冒険者は用心棒にうってつけとも聞きましたね」
「あぁ。そういう例もある。一番厄介な可能性さ。セフィーロでリクが戦った剣士なんかは、その典型だし……っと」
話が逸れたという風に。
彼は、思い出した体で片膝を付く。
同じ目の高さになった野盗たちへ、このままの流れで尋問するらしい。
「さて、色々と聞きたい所だが、残念な事に用意がない。その装備の質、量。随分な蓄えの拠点がある筈だが。場所は?」
「……言うと思うか」
「なに、簡単な情報を聞くだけだとも。それに、私に用意はないが――ギルドの拷問は……キツイぞ?」
「……ちっ」
「いま話してくれれば。多少なら口利きしてやれるが」
先生は手で探るように、警戒するかのように。
本当に簡単な質問から始めて。
話が乗り始めた辺りで。
今回の依頼のキモ。
失踪や薬物関係の話をきりだしていく。
「では、君たちも誘拐と薬草関連の略奪に噛んでいると」
「……まぁ、な。北から流れてきた数か月前から、ずっとだ」
「長いな。儲かるのか?」
「……払いは良かった。ボスからも、優先的に狙えとは通達された」
「だが、俺達は依頼されて誘拐をしてただけで、その後の奴らがどうしたとか、どうなったとか。そういう所は本当に何も―――っ――っぁ……!!」
「「―――!?」」
尋問の中で、吐き捨てるように言う野盗のリーダー格。
でも、その途中で。
突然、身体が跳ねる。
「…………っ……っ…………‥」
目を見開いたまま、彼の身体は何度も
やがて、収まる。
瞳孔が開いたままの彼は、そのまま静かになる。
……………。
……………。
―――これ……死んでる?
「よもや、だ。こんな末端まで手を回しているとは思わなかったが――君たち、これはどういう事か分かるか?」
「し、知らねえよ……!」
「何でブロウさんが」
映画とかの劇中で、尋問の最中で狙撃されるとかはよく有るけど。
これは、それ等とも異なる。
まず、周囲には僕たち以外は誰も居なくて。
なら、これは……。
「先生、これって……」
「“誓約”を結んでいたんですか?」
「そうなのかもね。よっぽど用心深いリーダーが居るんだろう。既視感すら覚える程に。……キミ」
「――ぁ」
「まだ、仲間はいるか?」
「――ぁ……あぁ……山麗のアジトにボスたちが……」
「失敗したな。最初から早い話にすべきだった。ミオ、地図を」
「はい……!」
誓約とは、儀式魔術……本来は大規模な準備のいるモノの中で異端とも言える、原初の魔術。
俗に言う【呪術】の一種らしい。
誓う側、誓われる側。
両者が互いに条件を認識し、合意を得たうえで【淵冥神】へと誓う。
術を成立させる簡単さに反して、誓いを破った罰は余りに大きく、重く。
破ったことは。
もう一方の契約対象へ、すぐさま伝わるシステムになっている。
だから、当然。
既にそれを契約した相手にも伝わっている筈で。
「―――あ、ギルドコールセンターです? あ、ハイ。ナクラですが。手の空いてる職員を数名、大至急派遣お願いします。座標は……」
……急いで向かわないと、だね。
◇
地図による位置の特定が終わり次第、僕達はその地点へ向かう。
リーダーが死に。
未知の恐怖に怯える彼等野盗からは引き留められたけど。
最低限、魔除けは張ってあげた。
後は彼等がどれ程人徳を持っているのかだ。
因果応報ってやつで。
魔物に襲われる率は低いけど決してゼロじゃないし、リーダー格同様口封じに来られる率もあるけど。
そこは、僕達の出る幕じゃなく。
そんな「どうでも良い」事より。
「―――美緒。刀の方は大丈夫?」
最近は、以前にも増して頻繁に手入れをしているから心配なんだけど。
隣を走る彼女も、微妙な顔で答える。
「……はい。まだ暫くは耐えられると思うんですけど、そろそろ変え時かな、と」
「随分長持ちしたよね」
「さっきも、盾スパッだもんな」
納刀前に、ちゃんと血は拭っているし。
手入れも欠かした事は無い。
だから、切れ味は未だ健在だけど。
耐久という点ではそろそろ寿命が近付いているようで。
「……………」
彼女の顔は。
本当に、名残惜しそうだ。
通商連邦で、一緒に買い替えた武器でここまで来たから。
付き合いの長さがある分、ね。
「やっぱり、思い入れがあるか」
「……ですね」
……………だね。
僕も、あの国で剣を買って以来ずっと使い続けているけど。
別れが来たら。
ちょっと虚しくなってしまうかもしれない。
感傷的とは違うけど。
二人で、互いの武器に視線を送り合う。
「―――ははーん? そういうプレイ?」
「先生」
で、それに何を感じたか、
どういうプレイ……!?
というか、本当に意味わかんないし。
「あの、陸君。次の刀なんですけど……また、一緒に選んでもらっても良いですか?」
どうやら、彼女は無視する方針の様で。
実に賢い選択だ。
けど、どうしても僕の方はグルグルと脳裏に先の言葉がちらついて。
「僕? 先生に選んでもらった方が良い物が見つかるとおもうけど……」
「……………」
「ん? あぁ。武芸百般の私に任せなさい」
「どっちかというと前科百犯の方じゃないっすか?」
「ハハハ、上手いねコウタ……とは、言ったが。リク? こういうのは、理屈じゃない。素直に二人で行くといい」
「そーだそーだ」
「オマケのメロンソーダ」
前科持ちなのは否定しないのね。
「ゴメン。じゃあ、今度一緒に見に行こうか」
「はい!」
……でも、確かにこれは。
最初からそう言えばよかったと後悔する。
デリカシーっていうのかな。
折角話してくれたのに、他の話題でお茶を濁したりするのは良くないし。
とは言え、飛びつくのもなんか……。
「―――あ、先生。そういえば」
「ん?」
「さっきの人、おかしくなかったですか?」
「ほぅ。その心は」
「誓約を結んでいるにしては余りに投げやりというか、自覚がなかったというか」
「不用心なだけじゃね?」
「でも、そんなにアホそうな人じゃなかったよね」
戦闘でも、彼だけは野盗の中でも理性を持って行動していたし、尋問で逆上して平静を欠いていたようにも見えなかったから。
或いは、合意を取らずに“誓約”を結ばせる手があるとか?
でも、そんな事が?
「他にも――何か、言葉で表しにくいんですけど、嫌な予感がして。……さっき、盗賊たちを縛り上げてすぐの事なんですけど……何か、誰かが近くに居たような気がして」
「………へぇ?」
話を静かに聞いてくれた彼は。
しかし、その気遣いとは異なる……いつものような、相手をおちょくるような、小馬鹿にするような笑みを浮かべ。
逆に、本当に感心する様でもあり。
……なんか。
普段の彼らしくもない、
育ち切る直前の獲物を眺めるような、出来る前の料理を伺うような。
ウズウズしているような、おかしな。
そんな笑みを浮かべていた。
本当に珍しい笑みだった。
「―――さて。罠でも張って待ち構えているか、早々に逃げたか。どうなっているか――皆はどう見る?」
「逃げてるんじゃないっすかね。ほら、例の教訓」
「何だっけ、それ」
「強い者ほど臆病……ですかね?」
「そう。強者である程、誰よりも臆病だ。臆病で危機に敏感であるからこそ、強者は生き残った。強者足り得る力を手にでた。何より、
「……今回の相手もそうだ。およそ、尻尾を掴ませないのが得意な連中」
「或いは――用済みな連中は、口封じをされているかもね」
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