第3話:奴隷狩りの噂
―ラグナ視点―
「……で? 故郷とはいえ、何故お前が西側の国にいるんだ?」
「あぁ?」
ゲオルグの怖ーい視線を。
リクたちから逸らすために話を振る。
会った時から気になっていた疑問なので、丁度良いしな。
「そりゃ、依頼しかねぇだろ」
「こんな西側に? お前が戦いたがりそうな魔物や化け物なんて居たか?」
「……は? 目の前にいるじゃねえか」
勇者四人が頭を抱える。
萎縮も忘れてだ。
……な? 面倒くさいだろ?
どうして、S級にもなると。
こんなアホばっかりになるんだろうね。
「――そうじゃない。少なくとも、私に会ったのは偶然だろう? なら、お前がこちらに来たのは自分の意思ではないってことになる」
「あぁ、ご明察。総長からの依頼でもなきゃ来るつもりもなかったんだがな」
……やはりそうか。
実は、このゲオルグという男。
大陸ギルドの現総長にご執心なのだ。
もし総長がいなければ。
S級同士で殺し合いなんて日常茶飯事だし、影響力は計り知れない。
本気を見たことはないが。
多分、うちの六魔将とも渡り合えるだろう。
―――あの老龍は別格だがな。
「ふむ。じゃあ、どこかの組織絡みの任務ってことで良いんだな?」
「そうだな。ま、別に極秘でもねぇし。――最近、ここ一帯で大規模な奴隷狩りが行われてるっていうんだ。笑っちまうだろ? 狩った先から売り払うから尻尾も掴めねえらしい」
「――奴隷狩り……そう来たか」
道理で、上位冒険者を遣わせたわけだ。
勇者の事を任されてなかったら。
或いは、俺に回ってきてたかもな。
暴れるだけならともかく、こいつが適役だとは思えない。ギルドの職員もそうだが、上位冒険者……特にS級は、常に人材不足だ。
大体の人員は常に出払っていて。
本部にも、滞在していることは少ない。
奴の言葉に。
俺が、一人で納得していると。
「――あの、先生。奴隷狩りって何ですか?」
「気になります」
「響きからして不穏だしな」
勇者三人が恐れを振り切るように発言する。
まぁ、気になるよな。
未だに黙っている春香は…まだ、辛そうで。
本当に。
このゴリラは碌なことをしない。
……で、先生の役目が来たな。
「そも、奴隷っていうのは、本来は犯罪者や金がなくて身売りされた子供たちが公的手続きによってなる……一種の職業なんだが、稀にそういう手続きもなしに奴隷にさせられる人たちがいる。その手段の一つが奴隷狩りだ。奴隷狩りっていうのは、身寄りのない子供、または人攫いに拉致された子供たちを奴隷商館に売りつけるのを生業にしている連中の事だね」
「「…………酷い」」
「子供たちを……最悪ですね」
そう、許されるべきではない。
もっとも忌むべき犯罪の一つ。
とても、進路希望に書けるような職業ではない。
「まあ、奴隷商館も公的組織だから対策は取っているんだけどね? ほら、前見たところはザンティア商会っていうんだけど、奴隷に対する扱いが手厚いことで有名だし」
「じゃあ、悪いのは奴隷狩りだけなんですか?」
……勿論。
例外も存在する。
中には、完全に腐っている商会だってあるし。
首謀者がそちら側の運営者である場合や、元締めにもなっていたりもするが。
大抵は、そうではなく。
盗賊がさらなる収入源を欲した結果であることが多い。
「うーん、複雑だから一概には言えないけど、大抵そうだね。で、それを正義の【竜喰い】さんが食らいに行くわけだ」
「……あのなぁ。俺がこういう任務苦手なこと知ってるだろ? お前に声掛けたのだって、手伝ってほしかったからなんだぜ?」
「本当に?」
「……………本当、です」
―――嘘
絶対に戦いたいからだろうが。
横目で見ると。
リクたちも、胡乱げな視線でゲオルグを見ている。
「おい、おい。弟子は師に似るっていうが、なんで五人並んでジト目してんだよ! お前ら、さっきまで怖がってただろうが!?」
「……よく考えたら、先生が守ってくれますし」
「先生ファイトー!」
「私達は、信頼してますよ?」
「そういうことなんで。先生、よろしくっス」
やだ、俺の弟子たち逞し過ぎ?
ハルカも完全復活して声援を送ってきてるし。
よーし、お兄さん頑張っちゃうぞー。
……なんて。
馬鹿な事を考えながら睨みを効かせる。
「――ハぁ。こっちが毒気抜かれちまったよ。……で、だ。なあ、本当に協力してくれねぇか? そこの勇者たち、人殺して無いんだろ?」
「「…………」」
本当に遠慮が無いな、コイツ。
普通の人間なら。
人殺しなんて、一生しない方が良いんだよ。
だが、しかし。
向こうの言い分にも一理あり。
何より、必要な事でもあるから。
俺は、これからの予定と擦り合わせて奴の提案を
「とは、いってもな。一人なら証拠集めたりもできるが、何分訓練の事とかもあるし、一朝一夕で終わるような依頼でもない。繋がっている奴隷商館も、あるかどうかすら分からないとくれば…な?」
どれだけ掛かることやら、と。
溜息を吐きつつ。
面倒という意思を込めた視線を送ると。
「……わあったよ。少しでも証拠を集められるように動いてみる。しばらくはアレフベートに滞在してっから、そっちもなんか分かったら“念話”頼むぜ?」
「あぁ、それくらいなら構わない。交渉成立だ。……貸し一つだな?」
最上位冒険者への貸し。
それは、とても大きい。
なんせ、一宿一飯を快く与えた村が大きく繁栄したって話も作られるくらいだ。
それ自体は本当に創作だが。
小国の軍事力に匹敵するという謳い文句は、決して誇張などでは無い。
「……じゃあな、可愛い勇者御一行。もう少し強くなったら遊んでやるよ」
「あ、結構です」
「あたしも」
「同じく」
「同感です」
……借りが嫌だったか。
俺ではなく、勇者たちに一言入れ。
個室を出ていくゲオルグ。
戦闘狂のあいつにしては、ずいぶんと素直だったな。
「あの、先生。念話って何ですか?」
「離れた相手と会話できる上位の魔術だよ。習得が極めて難しいうえに、魔力の消費も激しくて、離れれば離れるほどに維持が出来なくなるが。S級にもなれば、大陸の端から端でも短い間なら話せる」
「――大陸! ……凄いですね」
「出来るようになるかなぁ」
「まあ、そこは追々ね。それよりも、ギルドに依頼達成の報告を入れないと」
「「あ!」」
そう、そうなのだ。
あの
達成報告はこれからだ。
報告が終わったら。
今日は、ゆっくりしますかね。
……いや、奴隷狩りの情報を漁ってみるか。
調査は得意な方だしな。
残った酒をきゅーっと干し。
揺れる視界を感じながら。
―――俺は皆を伴って個室を後にした。
◇
「先生、今日の予定はどうします?」
リク達はゆっくり休ませ、翌日。
あのバカの圧に当てられて少し顔色が悪くなっていた昨日とは変わって、問題ないくらいにみんな回復していた。
「今日は、個人的に調べたいことがあるから。各自の判断で訓練を行ってくれ。…まぁ、自由な日とも言えるね」
「おおっ! 休日っスか」
「……午前中くらいは訓練しようよ。訓練としての対人戦もやりたいし」
冒険者としての基礎は。
教国で、問題ないくらいに成長した。
ヘッジウルフだって討伐できたし、今の勇者たちなら、纏めてかかればC級の魔物相手でも討伐出来るんじゃないかな。
「では、午前はいつも通りに訓練しましょうか」
「そだね。またあとでね? 先生」
「あぁ。行ってらっしゃい」
………さて。
皆は元気に行ったか。
リクたちを見送った後。
俺は、宿の部屋に戻って“念話”を使う。
話す対象にしたのは。
直属の部下である男だ。
『――ラグナ様。どうかなさいましたか?』
待つ間もなく。
通話は、すぐに開始される。
「セフィーロ近郊で奴隷狩りが行われている。調査の限りでは、主に東側に売られているようで、前に言っていた組織の件と繋がっているかもしれん。――東側で勢力を拡大しているっていう、あの宗教団体だ」
『プロビデンスですか。あれらは、なかなか尻尾を掴ませませんでしたが、繋がっているとするならば。……奴隷狩りは、ギルド経由の情報ですか?』
「あぁ、その通りだ」
『フム、フム。流石にやりますねぇ』
最上位冒険者が動いたとなれば。
かなりの規模というのは間違いなく。
根は深い事だろう。
俺一人の短期調査では手に余るゆえ。
専門家に出勤してもらう。
この男は、キース・アウグナー。
魔皇国を囲む城塞を拠点とする【黒曜騎士団】の第二席を埋める半魔種だ。
人間と魔族の間に生まれた混血種。
騎士団きっての美丈夫。
女嫌いのTS大好きマンという業の深い趣味を持っている変態だが、卓越した頭脳と情報収集能力は魔皇国でも五指に入る。
―――変態だが。
「優先的にこちらを洗ってくれ。可能であれば
『果たして、我らが第三席が仕事をするかが問題ですがね。…可能な限り調べてみましょう。奴隷狩りの裏に何らかの組織がついていることはよくありますからね。では、夜には調べ終わると思いますので』
「………また、早いな」
部下が優秀というのは。
本来なら、良いことなのだろう。
だが、コイツに限ってはそういう訳にもいかない。
変態への報酬は、他の者たちと同じ給料という訳にはいかないからな。
『――では、報酬は後日頂くとします。私はそちら側には行けませんので』
「あぁ。まだ勇者たちの傍を離れるわけにはいかないから、お前が活動可能な区域に着くのは数か月後になると思うが……」
『ゆっくり待つとしますよ。現在は基本的に暇ですからね』
コイツへの報酬を払うのは面倒くさいので。
出来れば遅延させたいところ。
仕事を邪魔して、マーレあたりにでも刺されてくれればいいのだが。
優秀なのが面倒である。
『――では、また夜半に』
「あぁ、待っている……っと。バックに何らかの組織がついている場合は」
どうしたモノか、な。
奴隷狩り達が潜伏している拠点ならまだしも。こういう裏についている組織などの場合は、かなり腕の立つ戦力を私兵として雇っている場合が多い。
リクたちには早いかもしれないな。
だが、放っては置けんし。
裏から操っている者が居るとするのなら。
―――まあ、遅かれ早かれ。
誰かが処断することになるのだ。
俺が一仕事していくのも構わないだろう。
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