第20話 (11/26修正)活版印刷機の開発です。

 石鹸の大ヒットでアーデルハイトからの好評を受けたエルネスティーネは、その褒美として、とある人物たちをエーレンベルク領に招く事の許可を受ける事に成功した。

 それは、背の低い頑健な種族で手先が極めて器用な職人肌の種族。

 すなわち、ドワーフである。

 元々、その職人肌の気質から法の国家に所属していたドワーフたちであったが、彼らを嫌う”連合”の迫害にあって追放になった流れドワーフたちの集団も多く発生していた。その流浪で安息の地を求めるドワーフたちを自らの領土に招き入れる事をエルネスティーネは要望したのである。

 例えドワーフであろうが流民を受け入れるのはリスクが伴う。

 大規模な人の流れは、秩序を容易く乱し、全てを混乱の渦に叩き落す。

 そのため、ドワーフであろうと流民を受け入れるのは非常に慎重でなくてはならないのだ。


「ふん、アンタらがワシたちを受け入れてくれた者たちか。まあ一応礼は言っておくがな。」


 ふん、と慇懃無礼にアーデルハイトの屋敷に招かれたドワーフたちは、鼻を鳴らす。

 元より頑固な職人肌のドワーフたちと権力者との相性はあまり良くはない。

 だが、ドワーフたちもせっかく手に入れた安堵の地を失いたくはないだろうし、これからの連合に対抗するための技術発展を行うためにも、ドワーフたちはアーデルハイトにとってどうしても必要な人材たちなのだ。

 アーデルハイトは、ドワーフたちに居住地として近くの山を、敵魔術師からの空爆を防ぐための地下避難場所兼ドワーフたちの居住地を建設してもらう事で合意した。

 ドワーフたちの性質として、山や地下に居住地を自ら作り出した方が落ち着く習性があるのである。

 そして、話が落ち着いたエルネスティーネは、自らが作り出した紙に書いた設計図をドワーフたちに見せてこれを作れないか?と注文する。


「なんだこりゃ、プレス機に……文字が書かれた金属の塊?しかも、全ての文字を一つ一つ作り上げなきゃならんのか?」


 そう、エルネスティーネはドワーフが自分たちの領地に来た事をきっかけに、ついに木版印刷ではなく、活版印刷機を作ろうとしているのである。

 まずは、鋼の長方形ブロックを用意して、その先端部に文字をトレースして、その背景の金属を削り取り、文字を浮かび上がらせる。

 これが文字打刻用の父型であり、これを銅のブロックに叩きつける事によって、逆文字である母型を製造するのである。

 そして、そこに流し込まれるのが溶けた活字合金と呼ばれるものである。

 活字合金は、印刷用活字を作るために使われる鉛、アンチモンの合金である。

 この組成は、鉛80%、アンチモン17%、錫3%であり、融点はおよそ240度である。

 これを母型に流し込んで冷やして固め、型から取り出す。そして、その母型を繰り返し使用して、同じ文字の活字を大量生産するのである。

 そして、それをやすりで削って均等な高さに揃える必要がある。

 紙に均等に押し付けるには、この作業が必須なのである。


 そして、二つ目の必要な技術的要素は、印刷機(プレス機)であるが、これはさほど技術的に難しいものではない。

 ブドウ絞り技術の技術を流用すれば、ドワーフの手からすれば難しいものではあるまい。平らな面に圧力を加えるスクリュープレスの技術は、すでにブドウ絞りやオリーブの種を圧搾するため一般的に使われていた。

 それを流用して、印刷機用のプレスを作り上げればいいのである。


「とはいえ……これから居住地作成で忙しい皆さんにこれ以上の負担をかけるわけにはいきませんね……。これは他の人間の技術者に……。」


「おい、ワシらを舐めているのか。その程度マスケット銃を作ってる片手間程度で出来るわ!とはいえ流石に初めてじゃからしばらくかかるが必ず作ってやるから待っとれ!ドワーフ舐めるんじゃねえぞ!」


 やったぜ、と思わずエルネスティーネは心の中でガッツポーズを決めた。

 ドワーフは頑固である反面、やるといったら必ずやり遂げる種族である。

 これで、活版印刷機はできたも当然だろう。

 また一歩エルネスティーネの野望が進んだのである。


〇11月26日、書き直しを行いました。


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