第二章 罠 〜 侵入者
侵入者
土曜日の昼下がり。世田谷区の用賀にある比較的新しいマンションの前に、男が一人立っていた。彼がここを訪れるのはまだ2回目で、そのせいかその顔に若干の緊張感が窺える。それでも、玄関に設置されたセキュリティーキーの中から、迷うことなく4つを選び押し、男はそそくさとマンションの中へと消え去った。更に、そのマンションから50メートルほど道を行ったところに、一台の軽自動車が停まっていた。運転席には年若の男がいて、かなり大きい望遠レンズ付きカメラを構えている。彼はファインダー越しにマンション入り口付近を見つめていて、男がマンションの中に消えるのを確認すると、ポケットから携帯を取り出し電話を掛けた。するとたった一回の呼び出し音で、待ってましたとばかりに相手の声が響いてくる。
「予定通りです。はい、たった今マンションに入っていきました。ええ、ばっちり撮ってありますよ。後は出て来るところを押さえておしまいですから……」
年若の男がそう返すと、携帯の声が再び何事かを聞いてきた。彼は一時考える素振りを見せ、
「じゃあ毛布か何かお願いしようかな? もし夜になって出て来なければ、今夜はかなり冷えそうですし、ここでずっとエンジン掛けっぱなしはマズいでしょうから……」
そう言った後、二言三言会話を交わして携帯を折り畳む。そしてフロントガラスからマンションのてっぺんを見上げて、
「お楽しみはこれからだよ……武井信ちゃん……」
などと呟き、再び視線をマンション入り口へと戻すのだった。
一方、そこからそう遠くない住宅街にも、時を同じくして1台の車が停まっていた。それは特大サイズのRV車で、その辺りの景観からすれば、充分不釣り合いな印象に映った。車はエンジンを止めたまま1時間近く同じ場所に留まっていて、スモークガラスのせいで車内は薄暗く、運転席に男がいることだけがなんとか判る。男はしばし携帯で誰かと話していたが、満足そうな顔で携帯を助手席に放ると、運転席側のウインドウを少しだけ下げた。
「さあて、もうこれで後戻りはなし……」
少しだけ甲高い声でそう呟くと、胸ポケットからサングラスを取り出し掛けて、道の反対側にある大きな邸宅に目を向けた。その広大な土地は高い塀に囲まれ、男は塀の向こうに見える建物へ、ねっとりと纏わり付くような視線を向け続けるのだった。
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