奇妙な入れ替わり


頭痛で目を覚ました瞬間、奇妙な状態になっていることに気が付いた。

目の前に、気を失っている僕の顔がある。弟の顔ではない。僕の顔だ。僕の周りでは、豚たちが鳴き声を上げている。

もしかして入れ替わっている?

いやいや、冷静になろう。なぜこのようなことになったのか、思い出すんだ。

僕と弟は、双子の兄弟だ。端から見たら、そっくりな顔立ちらしいが、それは今はどうでもいい。

僕と弟は、兄弟で豚を育てている。今日も弟とともに豚舎を訪れたのだが、どうやら雨漏りをしているようだと気が付いた。どこから漏れていて、自分たちで修復できるか、梯子を用意して確認しようとした。でもそこでバランスを崩して、下で支えていた弟とぶつかって……。

気が付いたらこのような状態になっていた。

中身が入れ替わる。マンガやドラマなどで聞いたことはあるが、まさか自分たちがこのようなことになるとは思ってもいなかった。どうすればいいのだろう。

とりあえず、周りの大人たちに助けを求めようか。これは、病院に行って治せるものなのだろうか。

そもそも周りの人に信じてもらえるだろうか。僕らがまだ小さかった頃、双子であることを利用して、入れ替わりをして大人たちを困らせていたことがあるぼくらが、本当に中身が入れ替わったといって、信じてもらえるかどうか…。

もう一度同じ衝撃を加えたら元に戻るかもしれない。また頭が痛くなるのは嫌だけど(どうやらたんこぶもできているようだ)、このまま入れ替わったままでいるわけにはいかない。周りの人たちにとって変化はないように見えても、僕らとしては大問題には違いないのだ。

同じ衝撃か。試しに、まだ気を失っている弟に頭突きをしてみる。頭は痛いが、元に戻る様子はない。

そういえば、弟が目を覚まさない。頭突きしといてなんだが、大丈夫なのだろうか。僕はたんこぶ程度で済んでいるけど、もしかして弟の方は、僕が思っているより重傷なのだろうか。医療には詳しくないからわからない。

近くにいた豚がよく鳴いている。豚も僕らを心配しているのだろうか、それとも住処を荒らされて怒っているのだろうか(おそらく後者だと思うが)。

とにかくこのままじゃあ埒が明かない。混乱を防ぐために入れ替わっていることはいったん伏せつつ、周りの人に助けを求めよう。

そう思って、僕は豚舎を飛び出していった。




あたまが いたくて めがさめた。

なんだか とても うごきづらい。

めのまえには ぼくのしってる かおがふたつ どちらもとてもにているかお。

もしかして いれかわってる?

どうしよう どうしよう。

きづいて おにいちゃん・・・。




頭が痛くて目が覚めた。すぐにおかしな状態になっていることに気が付いた。

いつもより視点が高い。手も、足も、いつもと全然勝手が違う。何より思考がはっきりしている。こんなことは生まれて初めてだ。

周りにあの男はいない。どうやら、私が気を失っているうちにどこかに消えたらしい。

状況を整理しよう。

私は、豚だ。正確には、人間たちからそのように呼ばれていたものだ。

いつも通りのほほんと暮らしていたら、人間が降ってきて、頭をぶつけて、気が付いたらこのありさまだ。

なぜこんなに思考が明瞭なのかよくわからないが、おそらく、この人間の頭を使っているからだろう。人間の知識を初めて知って少々混乱しているが、かなり便利であることは直感的に理解できた。それよりこの後どうするか考えなければならない。

この人間の知識によると、私たち豚は、このままここにいたら殺されて、食用に加工されるわけだ。なんと残酷なことだ。そんなこと絶対許してはならない。何とかしなければ。

だが、ここで問題が一つ。人間の体に慣れるのに、少々手間取りそうだということだ。

今まで四つ足歩行だったのに、いきなり二足歩行になったし、今までなかった指先とかいう感覚もある。すぐには自由に扱えそうもない。正直立つことも難しい。

そうこうしているうちに、人間たちがやってきた。仕方がない。ここはいったん、怪我で動けない体を装っておこう。知識はあれど、この人間たちの記憶はないから、何か聞かれたら困るかもしれない。いや、人間には記憶喪失というのがあるらしいし、そう言っておけば当分は大丈夫だろう。

体の自由が利くようになったら、必ずここから抜け出してやる。当然、ここにいる仲間たちも一緒にだ。そしてゆくゆくは、俺たちを食べるために殺そうとしている人間たちに、必ず復讐してやる……。

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