1日1本三題噺
@nagekibato
「家族を求めて」
ぼくの名前はスティーブ。年齢は、今年で6歳になる。
家族と一緒に歩いて、友達とも遊んで、家に帰ってご飯を食べて眠る。そんな、当たり前のような日々が僕は大好きだ。
でも、僕は家族と離れ離れになった。大人の人たちは、「せんそう」とか、「ひなん」とか言ってる。難しいことは僕にはわからない。みんなが不安そうな顔をしているのを見ると僕も不安になるけど、みんなと一緒ならきっと大丈夫だ。むしろ、僕も年齢的にはお兄さんなんだから、僕がしっかりしないといけないよね。
そんなある日、家族のみんなが外出をする準備を始めた。いっぱい荷物を積み込んでいるから、きっと遠くに行くに違いない。僕もついていこうとしたら、パパに待てと言われた。「きっと帰ってくるから、留守番をよろしくね」って、そういわれたんだ。留守番なら僕はとても得意だ。パパとママがお仕事の時に一人でいることは長いし、お家を守ることもできる。この前、知らないおじさんが家に来て、勇気を出して近づいてみたら、おじさんはどこかに行ってしまった。その時はよくわからなかったけど、あとで帰ってきたママから、「その人は泥棒という悪い人なんだよ、家を守ってくれてありがとう」って言ってもらえたこともあるんだ。家のことは大丈夫だから、行ってらっしゃいって、僕はパパとママを見送ったんだ。パパもママもなぜかすごく悲しそうな顔をしていたけど、大丈夫、この家は僕が守るよ。
パパとママが出かけてから、何回か明るくなって暗くなってを繰り返した。僕は不安になった。いつまでたってもパパとママが戻ってこない。家の外からは何か大きな音が聞こえる。もしかして、パパもママも迷子になっちゃったのかな。それとも、転んでけがしたのかな。家の外の大きな音は、パパとママを危ない目に合わせてないかな。そんな気持ちが、どんどん大きくなっていった。家を守らなきゃ忌めない、けど、パパとママを守る方が大事だ。僕は思い切って、家から出ることにした。
家の外は、いつもと何かが違っていた。いつも見ていた道はなぜかとてもボロボロになっていたし、なんだかモクモクしていて周りがよく見えない。あまり嗅いだことの無い嫌なにおいもする。これは、最近なる大きな音が原因なのかもしれない。やっぱりパパとママに何かあったんだ。そう思うと、気が付くと僕は走り出していた。
パパとママを探してどれくらいたっただろう。僕は、大きな門の前にいた。パパとママはこの先にいる。けれど、門は大きくて開けられない。門の周りは、水でいっぱいだ。この水を通ったら、門の向こう側に行けるかもしれない。僕は泳いだことがない。けど、泳いだら、パパとママに会えると思う。だから、思い切って水の中に飛び込んだ。
とても、深い、足が付かない。息が苦しくなるのは嫌だから、頑張って顔を出す。足を頑張って交互に動かす。なかなか前に進まない。風で水が揺れて、体がうまく動かせなくなる。自分がどこら辺にいるのかもわからない。あとどれくらい?大丈夫、まだいける。パパとママに会うために、がんばるんだ。いっぱい足をうごかした。とてもさむい。からだがおもい。あしもうごかなくなってきた。かおをだせなくなってきた。むこうがわまでまだあんなにあるのに、やだよ、あいたいよ、ぱぱ、まま・・・。
あれはなに?おそらにいっぱいとりみたいなのがとんでて、なにかをおとして、それがみずのなかにはいって、おおいきなおととなみが・・・・・・。
気が付いたら、僕は水のそばで倒れていた。どうして?もう泳ぐ力なんてなかったのに。さっきの大きな音と波が、僕をここまで運んでくれたのかな。でも、よかった。これでパパとママのところに行ける。もうひと踏ん張りだ。
いろんなところで火が出ている。人がいっぱいいて、いろいろ言ってる。みんな足元のぼくに気付いてない。蹴とばされそうになる。でも大丈夫、この先にパパとママがいる。だから走ろう。走って、走って、走って・・・。
見えた、パパと、ママだ。よかった、無事だったんだ。家に帰ってこないから心配したんだよ。パパとママ、とても驚いた顔をしている。そして、涙を流して、僕を抱きしめてくれた。「ごめんね、ごめんね」ってママが言ってる。僕はパパとママに会えて、安心して、少し眠たくなってきた。少しだけ休もう。起きたらまた、パパとママと一緒に遊ぶんだ。そう思って、僕は目を閉じた。
「しかし驚きました、まさか犬が川を渡ってくるなんて。」
「過去には、数千キロ離れた家族に会いに行った犬という話もあります。きっと、家族の匂いをたどって、この場所に家族がいると察したのでしょう。」
「戦争のため犬を置いて避難した家族と、それを必死に追いかけた犬。これを美談にしていいのかどうか。」
「なんにせよ、家族が再会できてよかった。今は安らかに眠っていてほしい。彼はこれからずっと、家族と一緒にいれるのだから。」
お題「犬」「泳ぐ」「門」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます