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[8/31]
そうして夏休み最終日がやってきた。暑さも世界も終わらないけれど、その日は確かに、僕らにとっての最終日だった。
僕は本浄瑠璃と一緒に歩いた。
彼女と歩くのは楽しかった。このままずっと歩き続ければいいと思った。けれどそんなはずはない。僕たちはずっとずっと南の方まで来ているのだ。この物語ももうじき終わる。全てが終わった後、僕はどうなってしまうのだろう。本浄瑠璃はどうなってしまうのだろう。考えたくもなかったし、考える必要もないように思えた。僕が予想しなくても、真実はすぐそばまで来ている。
それなのに、今日も本浄は嬉しそうな顔で歩いている。それを見て僕も笑った。細い足が嘘みたいに軽やかなリズムを刻んでいく。なんだか彼女の足音すら大切なもののように思えた。
そして、僕たちはその終着点へとたどり着いた。
『本土最南端』
そう書かれている。つまり、僕たちが決めたゴールだった。
僕らはその周りを散歩した。
「とても良い場所ですね」と本浄は言う。僕は頷く。
そこは確かにとても素敵な場所で、緑や海が一望出来て、神社や遊歩道や展望台があった。
遊歩道は亜熱帯植物が多く、南国のような気分にも浸ることができた。
『もう少しで世界の果てに手が届く』
本土の最南端は、そんなキャッチコピーが書かれていた。
けれどもやっぱり、僕たちの考えていたような救いはなかった。確かにあと少しで届きそうだけれど、やっぱり楽園でも、世界の果てでもなかった。
「綺麗だけど、僕たちが夢見ていた世界とは少し違う気がするな」
「ええ、とっても綺麗ですが、楽園なのかはわかりませんね」
やっぱり、楽園なんて無かったんでしょうか、と彼女が呟く。
「きっとあると思うよ。たまたまここではなかっただけで。もう少しだけ先に行けば、きっと世界の果てにたどり着くよ」
そうだ。ここは本土の最南端でしかない。きっとこの南にはいくつか島があるだろうし、もっと遠い海の向こうにも別の国の島があるだろう。そこはもっと赤道に近いから、もっと暖かいはずだ。だからきっとそっちに楽園がある。
今から南の島に行くのはどうだろう、と僕は言った。
「楽園って、どこかの南の島にあるようなイメージがあるじゃないか。少なくとも僕はそんな気がするんだ、だから」
空回りしていることが、自分でもはっきりとわかった。これは本浄の望んでいるものではないことが理解できた。それでも僕は、必死に、希望にならない希望を彼女に提示し続けた。
「いいんです」と彼女は首を横に振った。岬の端から、さらに南の方向を見つめながら、そこへ行くことをはっきりと否定した。
僕は怯えていた。彼女との旅路がここでおしまいになってしまうことを恐れていた。だからここよりさらに南に行く、なんてことを言いだしたのだ。
「もう十分です。わたしのわがままに付き合ってくれてありがとうございます」
そして彼女が別れの言葉を告げた。
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