4-4 8/26(iv), 8/27(i)
彼女が未亡人であるということを聞いた。そうなったのは最近のことであると知った。
「愛想をつかして消えていく、なんて話だったらまだよかったんだけど」
そう言ってからグラスに残ったビールを勢いよく飲み干し、それから大きな息を吐く。
「あたしのせいであればどれだけマシだったことか。理不尽の方が、よっぽどつらいよ」
世の中には背負いたくても背負えない罪がある。彼女の夫は事故で死んでしまったのだという。彼女とは全く関係のない場所で、仕事中に。
僕は本浄の両親のことを思い出していた。客観的に見て、本浄の両親の死は、彼女のせいであるはずがない。それなのに彼女はそれが自分の罪であるとした。そうすることで、ある意味では楽になる部分もあるのだろうか。罪を求めているお姉さんを見ていると、そんな考えが浮かんだ。
「お姉さんがわたしたちを泊めてくれた理由も、わたしたちがお姉さんに惹かれた理由も、なんとなくわかりました」
そう本浄が言い、僕も首を縦に振った。
きっとあのお姉さんも、自分のことを<世界>に嫌われたひとりぼっちだと感じているのだと思う。
それから僕と本浄は瓶を開け、グラスにビールを注いだ。どうせならお姉さんの言うアウトローとやらになってしまったほうが面白いと思ったのだ。
「じゃあ、三人の孤独に、乾杯」
お姉さんの合図とともに三人のグラスがぶつかり合い、心地よい音を立てる。
僕と本浄はその日、初めて酒を飲んだ。
本浄はどうやらかなり酒に弱かったらしく、真っ白だった肌が一瞬にして朱色に染まっていった。彼女の頬が赤子のように変わっていく様は、なんだか見ていて面白かった。最初の方、本浄はうとうとしながらもなんとか起きていたが、酔いによるまどろみはいつしか深い眠りへと変わっていった。僕は寝潰れてしまった本浄を部屋まで運び、そのまま自分も眠ることにした。本浄の身体は細く、女の子にしては軽すぎるように感じた。それでも僕にとっては十二分に重かった。それはきっと命の重さだ。
[8/27]
朝、目が覚めると、部屋の前に朝食と短い手紙が置かれていた。
『畑で作業をして、それから買い物に行ってきます。鍵は開けたままで構いません』
手紙を裏返すと、もう一行のメッセージが書かれていた。
『真の幸福に至るのであれば、それまでの悲しみはエピソードに過ぎない。そうでしょう?』
きっと僕たちはあのお姉さんのことをほとんど知らない。知っているのはほんの一部分だけだ。
ラップで覆われていたご飯と味噌汁と焼き鮭を食べた。冷めていたけれど、そこには確かな温もりがあった。
「偽物の宮沢賢治ですね」と本浄がよくわからないことを言った。
それから荷物を整え、僕らは再び旅を続けることにした。消えるための旅を。
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