第269話 青海波 2
『あの御堂の缶詰地獄にならないように、小さな頃から、少しずつコツコツと……』
それは葵の上の、お子たちへの愛情でもあったし、
そんな風に、二人は臣下の地位を離れ、その先も多忙ながら、栄耀栄華に包まれ、末永く幸せに暮らし、内裏や京のやかたにも、幸せな笑い声が途切れることはなく、国中も平和で豊かな時が流れ、人々はいつまでも幸せに暮らしておりました……。
「
「ごめんなさい母君……」
「ごめんなさい母君……」
「ごめんなさい母君……」
「ごめんなさい母君……」
「少し目を離すとこれでは、先が思いやられます!」
「言うことを聞かぬのは、母君に似たのでは?」
「え?」
「仕事のし過ぎです。やかたには、持ち帰らない約束ですよ」
まだ自分の子供たちが幼い時分に、小言を言っていた葵の上は、
「もう!!」
「せっかくの休みなのですから、なにか楽しいことをなさっては……」
*
なお、
彼女は、唐から摂関家の船に乗ってやってきた、やんごとなき姫君という触れ込みで、平和に暮らしていたのである。
「お代わりは二杯までです!」
不満そうな彼女に、そう強く言うのは、まだ仕事を引退していない“伍”であった。葵が知っていた真白の陰陽師たちの中で、いまも現役なのは、この“伍”と“六”だけで、残りは無事に引退したのちに、桜姫の商いを手伝ったり、やかたの庭で蜜柑を栽培したりしていた。
「あ――、また、炊いた米がなくなっている! 桜姫!」
“弐”は“伍”がそう言って出かけたあと、釜をのぞくと、夕餉の分まで炊いたはずの、ご飯が減っているのに気づき、大声で叫ぶ。
「に、二回しか、お代わりはしてないから!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます