第139話 追走曲 6
一瞬大きく光った
あとに残ったのは、激しい雨に叩かれる傾いた牛車と、中で慌てふためいている
牛車の横に近づいた“六”は、濡れることも気にせずに、朱塗りの傘を地面に放ると、
地面に引きずり降ろされたはずの
「ぶ、無礼な!! このような不届き決して許さ……」
「!!!!」
彼は声にもならぬ絶叫を上げながら、しばらくの間地面を転がり回り、ようやく、よろよろと立ち上がったが“無品親王”と呼ばれ、取るに足らぬ
「ごっ! げ! け! 貴様、尊き親王にっ……がっ!!」
「……尊き存在であるなら、その血で少しは、この状況どうにかしてはどうだ?」
首を絞め上げられ、両足が宙に浮いた状態の
「なによりも清らかな、わたしの“天”に向かって泥を投げ、なによりも穢れなき、わたしの“地”に向かって火を放った、直視に
「ご、ごぼっ……!! げほっ!! ひぃ!!」
半狂乱だった
なんとかそこを通り抜けると、果たしてそこは、怪しげな空間の出口であった。先程の激しく打ちつける雨はすっかり上がり、見慣れた、しかし違和感のある朱雀大路を、自分を置き去りにした下人たちを呪い、怒りで胸が一杯のまま、それでも自分のやかたに帰ろうと必死で走るが、なぜかやかたには、なかなか、たどりつくことができず、ようやくやかたの門をくぐった頃には、彼は疲労困憊であった。
「なぜ誰も出迎えぬ?!」
傷ついた上に、びしょぬれの主人が帰ったというのに、北の方どころか女房の姿もない。
「どこから、このような醜き生き物が! はよう、はよう誰ぞ!」
彼は、女房の
やがて再び周囲は明るくなり、見慣れた庭の景色が目に入る。何事が起きたのかと、
そこに映る自分の姿は、怪我をした醜い大きな“ガマガエル”であった。
やがて、やかたの中から“自分”が帰ったという声が聞こえ、彼は耳を疑ったが、北の方が渡殿を歩くのが見え、ずぶ濡れになった、どこか様子のおかしい“自分”が、慌てた表情の北の方や女房たちに抱えられているのが見えた。
それはニセモノだと、彼は必死に伝えようとするが、なんとか口から出た声は、聞いたことのある『
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