第119話 参内 2
大勢の殿上人たちは、期待で胸を膨らませていた。
しかしながら、三条の大宮と、その姫君である
女官たちは二人の歩みに合わせ、几帳をずらしつつ側面からの視線を遮り、前方にも六人ほどの先導が、人の壁を作って、前からも二人を見えないようにしてしまった。
さすがに葵の君だけなら、あまりにも特別扱いだと言われたかもしれなかったが、帝の実の妹君である母君の存在ゆえに、皆は当然の差配と思う。
もちろん、お姫様の中のお姫様であった母君は、特別扱いなんて気がつかず、「車止めの周りに配慮が足りないのは相変わらずね」などと思いながら清涼殿に向かっていた。
二人のうしろには摂関家の当主である関白と、その嫡男の左大臣、事実上、
殿上人たちが僅かに目にできたのは、葵の君の快気祝いに、
そんな訳で、帝が待つ清涼殿までの道すがら、なんとかひと目でも
清涼殿で着席して帝を待つ間、すでに疲れた顔の葵の君に、気づいた
心得顔の別当は、帝が
評判の
少なくとも彼らは、
十九歳の崖っぷちの長女の婚約が、ようやく整いそうな中納言は、太政官の同僚で、同じ案件を担当している、最近、北の方が懐妊した参議と白湯を飲みながら仕事を横に置いて、うわさ話に花を咲かせていた。
「あのうしろ姿、幼いながらも、なんとも優雅なご様子でしたな」
「美しい髪に飾ってあった飾り、初めて目にしました。とてもお似合いでございましたね」
バックカチューシャなど存在しない時代、葵の君の長く美しい黒髪に飾られた、大粒の
「姫君のうしろ姿に髪飾りなど想像したこともなかったが、あれは素晴らしい……いまから自分の姫君たちが欲しがる姿が目に浮かびます」
「わたくしも早速、妻にひとつと思いました」
そう言いながら、のんびりとした中納言の顔が、苦悩の表情に切り替わったのを見て、参議は中納言の娘は七人姉妹、あれほどの髪飾りを姫君たちに、ひとつずつ用意するだけでも、中納言の懐に大きなヒビが入りそうなことを思い出した。(その頃、右大臣も自分の曹司で女御や内親王、そして自分の姫君たちに髪飾りをねだられることを想像して頭痛がしていた。)
「摂関家の姫君と同じことは、わたくしたちには、とてもとても……」
「ああ、それはそうですな、摂関家の姫君と同じようには。そう言えば新しい制度、国債の話はご存じか?」
胸の動悸が収まり、気を取りなおした中納言は、最近、聞いたばかりの新しい国の制度『国債』の話を参議とはじめる。私的な荘園をあまり持たぬ貴族にとって、それはかなり「お得な買い物」だとうわさされていた。
ああでもない、こうでもないと、あちこちで待機中の公卿たちが時間を潰していると、蔵人所の官吏らが、朝議は関白の曹司へ場所を移しての再開と触れ回り、公卿たちは関白の曹司にて蔵人所の別当から、
「
「太政官でも、主だった公卿だけが、声をかけられているとか、関白も今日の決裁は、早めで切り上げると……」
「ちょっと待って下さい! それじゃあ、この書類の決裁は、どうしたらよいのですか?!」
「慌てている暇があったら、早く列に並びなさい!!」
関白に向かって伸びる陳情の長い列に、素早く並んでいた中納言は、決済書類を抱えて、あたふたしていた参議を手招きし、迷惑そうな顔の他の部署の公卿たちに愛想笑いをし、「わたしの書類持ちなんです」などと言い、参議を列に割り込ませた。
この位置だと関白が『大宮の帰参&
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