第8話 とある公卿と陰陽師 2
彼らのすべての公務は、
彼は、前任の
その時“六”は、小さな守りの宝珠を、姫君に届けたと聞いてはいた。
その返礼に“六”を呼ぶのであろうか?
やがて人の気配が近づき、小舎人が“六”をともなって現れる。
人払いを命じ、火桶を真ん中に、二人は差し向かいで腰を降ろす。
吐く息は白く、見上げた空はすっかり冬模様。
まだ幼さを残した優し気な顔立ちなれど、“六”のあまりの異形に、見るものは息をつめ、
“六”の外見は、現代で言うところのアルビノであった。
まだそんな病の存在すら分からぬ時代、白い髪に眉やまつ毛、色素の薄い瞳。すべてを飲み込むような白で覆われた彼は、その外見から常に周囲に恐れられ、疎まれ、遠巻きにされているが、本人はどこ吹く風といった様子であった。
その“六”が面白そうな表情で、片方の眉をわずかに上げながら口を開く。
「新しい
「他にも議題が多かったからな、相変わらず耳が早い。式神を潜り込ませたのか?」
不満げな自分の口調に、
ここ数年来、地方で頻発する治安問題を解決するべく、ほうぼうの省と調整に調整を重ね、なんとか通したかった法案であったが、頻発する帝の
本日をもって取り下げとなった。次に持ち出せるのは、来年以降であろう……由々しき事態に
(※
昨年、とある地方で大規模な
なんとか事なきに済んだとはいえ、一々、自分が京から馬で乗りつける訳にはゆかぬ。(そもそも自分は文官である。)
ゆえに今後のためにも、国中の
もう国の穀倉庫の備蓄は、ほぼ尽きたといってよいだろう。
左右の大臣の私的な穀倉庫には、まだうなるほどの蓄えがあることは予測するが、無理矢理、吐き出させる訳にもいかないし、口実も理由もない。
いまのところは、来年の豊作を神に祈るだけである。
「
「まさか怨霊の仕業では、あるまいな?」
冗談めかせながらたずねる彼に“六”は神妙な顔で答える。
「その気配は
把握しておりませぬが……その先に続いた
「うん?」
「いえ、独り言をつい……。ご同行は、つつしんでお受けします。それでは失礼を……」
抜きんでた能力を自負する
まあ、本来、自分自身は断れるような身分ではないのだけれど、友人でもある
自分の置かれた状況は、よいものでもなかったが、それでも実の親から
『落ちるはずのない、姫君を指し示す星が落ちた……が、一瞬で力強い光の星に変化した……』
“六”は
「もう退庁の時刻ではないか! 早く帰らねば! あとは頼んだぞ!」
出勤は遅く退庁は早い。そんな現在の長は、そう言い残して、さっさと帰ってゆく。
「あの人、今日は
「さあ……」
“六”に問いかけながら、出勤予定表を手に、上司をあの人呼ばわりして、あとを追って行った同僚の“弐”を見送りながら、“六”も内裏をあとにする。
自分の疑念を確認して話すのは、事なかれ主義の
小さな自宅に帰り、こざっぱりして気楽な
『何処カデ何カガ循環シテイル』
~~~~~~
〈後書き〉
※二陪織物 (ふたえおりもの)は、地文様を織りだした織物の上に、さらに地文様とは別の鮮やかな色糸で浮織をする二重に文様を織り出した、時代によっては、奢侈禁止令が出されるほどの、高級な織物で、貴族でも正装用に使われていたそうです。
※お話の中で“六”を含んだ選ばれた陰陽師が着ている二陪織物は、わざとほんのわずかずつ違う白で織り出して仕立てた豪奢な衣が、位は低いけれど、“特別な存在”を目立たせる制服として設定してみました。
『退庁後、みんなでご飯を食べている、壱番から六番の陰陽師の小話』
壱「あっ!!」
六「!!!!」食べこぼしてシミを作ってしまったのでした。
弐「……」自分のシミが取れるかどうか悩んでいる。
参「こうしておけばよかったのに」首に紙エプロンのように、安い料紙を挟んでいるのでした。
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