第553話 【日本探索員協会・その6】夜に煌く古龍の刃!! 因縁を断ち、悪を討つ!! ~タイトルくらいは正義のヒーローっぽく頑張った詐欺~

 夜空をバックに圧倒的な力で激戦を繰り広げるナグモ。

 一方で、墜落するヘムリッツを救出した姫島幽星。

 彼も彼で、因縁の再会を果たしていた。


「ガルルルル。変態……!!」

「ほう。小学生。時間外労働とは、実に勤労意欲に溢れているな。成長性はゼロだがな!!! なっ!!!!」


 莉子ちゃんを煽る事は欠かさない、悪役の鑑である。


「……ふーん。いいけどぉ。……わたし、まだ全然煌気オーラの余裕あるから。ここで変態を消して、六駆くんに褒めてもらお」

「くくっ。何度でも言おう。某、小学生に欲情するような変態ではない。小学生は然るべき変態の生息域へと引っ越すが良かろう。逆神も小学生と付き合うとはな。くくっ。最強の遺伝子は変態だったか」


「あぁぁ!? うちの六駆くんに何言ってんのかなぁ!?」

「くくくっ。ちょいと痛いところを突いてやれば、すぐに鳴くのが小学生よ」


 莉子ちゃん、煌気オーラを放出し始める。

 一瞬で全開放状態のナグモに肩を並べた。


 ただの怒り煌気オーラのお漏らしでである。


「おおおっ!? こりゃあいけん!! 本部の結界壊れるで!!」

「久坂剣友! 教えて欲しい! 先ほど、敵の侵入によって結界は破壊されたのではなかったか!?」


「そりゃあ対空結界じゃのぉ。他にものぉ、協会本部の周囲にゃ5種類ほどの多重結界が展開されちょるんじゃ。今も、メインの結界が空の穴を補填をしちょるんじゃぜ。……あ。土核結界が壊れたのぉ」

「それはまずいのではなかろうか!!」


「まずいのぉ。現状の破損率でも結構まずいけどのぉ。これ以上壊れたら、外敵の侵入フリーパスじゃて。敵さんに年間パスポートやるようなもんじゃぞ。おおい! 小鳩ぉ!!」


 久坂監察官、事態をどうにかすべく弟子を呼ぶ。

 アイスを食べ終わった小鳩お姉さんはバツが悪そうな顔でやって来た。


「も、申し訳ございませんわ! お師匠様!! わたくし、ついアイスクリームを……!! お師匠様と55番さんの分も買って参りますわ!!」

「いやいや、ええんじゃ!! 小鳩もルールをちぃと破れるようになって嬉しいで、ワシ! それよりものぉ。莉子ちゃんどうにかしてくれんか? このままじゃと、協会本部が機能停止するんじゃわ。……ほれぇ。まーた積載量無視した煌気オーラ出しよるで」


 ここで情報共有したチーム莉子の乙女たちが立ち上がる。

 今回こそ、彼女たちの出番。


「莉子ちゃん、莉子ちゃん! 落ち着くにゃー!!」

「くくっ。以前異世界で見えた時には言動により予選落ちさせたが。小学生と比べればなかなかどうして!! 娘! 合格だ!!」



 姫島幽星による、よくないチェックが始まりました。



「ガルルルル」

「ええー。あたしにも莉子ちゃんが唸るぞなー。小鳩さーん!! 助けてー!!」


「みみみっ。小鳩さん、クララ先輩が呼んでるです。みみみっ」

「嫌ですわ。わたくしが行ったら、絶対に状況悪化しますもの。ここは後方待機が正しい判断で……。すっごく見て来ますわね、あの変態の方……」


 すっごく見て来ていた姫島。一言。


「くくっ。合格だ」

「何なんですの、この変態の方……。わたくし何もしておりませんのに、莉子さんの敵判定受けてしまいますわ……」


「みみみっ。ここは芽衣にお任せです。芽衣は見た目も中身もキッズです。みみっ」

「くくっ。確かに小娘。言うように貴様は子供だ。……が。自分の事を子供だと理解している小娘は成長が早い。将来性に期待する。5年後にまた会おう」


「みみっ。仮合格させられたのです。みみみっ」

「ああ……。どうしたらいいんですの……? 莉子さんをお鎮めすることができませんわよ……」


 莉子ちゃん、両手を組んで砲撃態勢へ。

 姫島も刀を抜き、切っ先を彼女に向けた。



「対して小学生。貴様はダメだ。いくら小学生とは言え、何も膨らんでおらぬ。これは将来性もお先も真っ暗。永遠の時を生きる小学生として頑張れ。某はいらぬ」

「ガルルルル!! もぉ怒った。四方2キロを更地にするもん」



 どんな敵よりもヤベー事を言い出したうちのメインヒロイン。

 そこに降下して来たのは、我らのヒーロー。


「落ち着きたまえ、プリティーガール!! 小坂くんの魅力は見た目ではないさ!!」


 みんなのナグモがやって来た。

 なお。


「あぁぁぁ!?」


 莉子ちゃんは鎮まらず。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 上空では。


「おい。私は撤退するぞ。部隊長は身の安全の確保が優先されるべきだろう。下柳。お前に後は任せる」

「ぶひっ!? そ、それはいくらなんでもあんまりなんですよねぇ!! 南雲くんとボクの力量差もそれなりですがねぇ!! 久坂さんや、あの頭おかしいレベルの煌気オーラ出している小坂さん!! 2人も後方に控えている布陣では、どうする事もできないんですよねぇ!!」


「知るか!! それをどうにかしろ!! 誰が拾ってやったと思っている!!」

「ぶ、ぶひぃ!! 無理なものは無理なんですよねぇ!!」


 そこに飛来する苺色の熱線。

 莉子ちゃんが我慢できずに放ったものを姫島が上空に弾き飛ばしたのである。


「あっ」

「あっ」


 瞬間。彼らは死を覚悟した。

 だが、みんなのナグモがそれをさせない。


「うおぉおおぉぉっ!! 煌け、ジキラント!! 『古龍ドラグ大流覇星スターライト』!!」

「ぶひっ!! 避けられ……!! ぐぁ! 『脂肪凶豚蓋ラードフルブロック』!! ぶひぃぃぃぃ!!!」


 苺色の悪夢を弾き飛ばしたナグモの斬撃。

 なお、運悪く豚が巻き込まれました。


 下柳則夫。戦闘不能。


 さらに、墜落したのち姫島も助けず。文字通り落ちる。

 手の空いていた55番くんによって捕縛され、今度こそしつこ過ぎる脂肪の復活ループにピリオドが打たれた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 こちらは本戦会場。


「小坂くん、落ち着きたまえ!! 君は今でも充分に美しい!! この上、何を求めると言うのかね!! 君の美しさは内面から溢れて出る魅力が彩っており」

「……わたしだって、まだ育つもん」


「ん? 小坂くん」

「育つもん。諦めなければ何歳になってもおっぱいイケるって、六駆くんと一緒に見たスラムダンクで安西先生言ってたもん」


 安西先生はバスケットボール部の顧問である。

 おっぱい頑張れ部ではない。


「小坂く」

「真矢みきさんも諦めないでって言ってたもん」


 アンチエイジングの話である。


「こさ」

「今年の夏は、なんか大きくなってたもん」


 それは魔道具のおかげである。



「…………。チャオ!!」


 ナグモ、チャオる。



 だが、みんなのヒーローは敵前逃亡したわけではない。

 憂いの元凶を断つべく動いたのだ。


「ほう。久方ぶりに見えるな。古龍の戦士。あの頃よりも随分とやるようになった」

「姫島くん。君もずいぶんと煌気オーラのタイプが変質したね」


「くくっ。確かに、某は変態かもしれん。だが、紳士だ」

「君とは会話が成立しそうにないな!! 愛する者たちのために、ここで落とす!!」


 なお、これまでのチャオの蓄積は刺さる人にとって致命傷。

 現在山根くんが編集中の「傑作! 古龍の戦士・ナグモ名場面集!! リターンズ!!」は、既に京華夫人が製作費用を含めて全面バックアップする事に決まっていた。


 「京華さん! 旦那さんがナグモになってるっすよ!!」と報告している部下の鑑が、山根健斗Aランク探索員。

 この一報で夫人はパインサラダ死亡フラグを肴に晩酌をはじめ、「山根をSランクにするべきだろうか」と真剣に考え始めていた。


「君にも愛に抱かれていた時期はあるはずだ!! 思い出したまえ!! 『古龍ドラグ大戦貫ドリルベイル』!!!」

「くくっ。これは強烈。某も久方ぶりに抜こう。『飛散血風刃フライングブラッド』!!!」


 古龍の一刀と血染めの斬撃が空中で火花を散らせる。

 姫島は『煉煌気パーガトリー』とか言う、未だ説明すらされていないチート漂う新要素で切り札も温存中。


 剣圧の応酬は互角に見えるが、ナグモはそろそろ時間切れが近づいていた。

 そんな様子を見ていた久坂剣友。

 スキル発現中につき、55番くんにスマホを操作してもらって電話をかける。


 通話先はもちろん。


「おお。ワシじゃ、ワシ。ちぃと手ぇ貸してくれぇ! 本部が壊れる!! 現世? おう、ちぃとだけ戻って来い!! ワシに任せちょけ! 報酬は1億!! どがいじゃ? 六駆の!!」


 緊急事態につき、疎開を一旦解除させる判断を下す監察官のご意見番。

 あの男がやって来ます。

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